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トーノブユース  作者: ふなつさん


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第三話①

 翌朝。

 私はいつもより少し早く学校に来ていた。

 昇降口はまだ人が少なくて、朝の空気が静かに流れている。

 靴箱の前でローファーを履き替えながら、私はぼんやり思った。

 ——昨日のメール。

 あれ、夢じゃないよね。

 ポケットからスマホを出して、思わずもう一回メッセージを確認する。

 生徒会のグループチャット。

 そこに残っているのは、昨日届いたあの連絡。

『メモリア・コード様より正式に出演OKの連絡が来ました』

 その一文を見た瞬間の、生徒会室の空気。

 あれは本当にすごかった。

 みんな一瞬固まって。

 それから——

 大騒ぎ。

「……ほんとに来るんだよね」

 思わず小さくつぶやく。

 メモリア・コード。

 私が中学生のころからずっと聴いている大好きなバンド。

 そのライブが。

 この学校の文化祭で。

 行われる。

 しかも。

 それを呼んだのは——

 私たち生徒会。

「やば……」

 言葉にすると、急に実感が湧いてきた。

 そのとき。

「おはよー明日香!」

 後ろから元気な声。

 振り向くと、綾香が手を振りながら歩いてきた。

「おはよ、綾香」

「今日早くない?」

「ちょっとね」

 綾香は私の隣の靴箱を開けながら言う。

「もしかしてさ」

 にやっと笑う。

「メモリコのことで寝れなかった?」

「ち、違うよ!」

 思わず声が大きくなる。

 でも。

 ……ちょっとだけ図星かもしれない。

 綾香は笑いながらローファーを履いた。

「いやでもさ、やばくない?」

「うん」

「ほんとに来るんだよ?」

「うん」

「メモリア・コードが」

「うん」

 私はうなずきながら、なんだか変な気分になった。

 綾香が両手を軽く広げる。

「私たちの文化祭に!」

「……だよね」

 やっぱりすごい。

 綾香もかなりテンションが上がっているみたいだった。

「しかもさ」

 綾香が続ける。

「今日から学校に発表でしょ?」

「うん」

「絶対大騒ぎになるよ」

「それ思った」

 私たちは顔を見合わせた。

「生徒会、死ぬね」

「死ぬね」

 同時に言って、二人で笑ってしまう。

 文化祭の準備だけでも忙しいのに。

 そこに。

 メモリコライブ。

 とんでもないイベントが追加された。

 階段を上りながら、綾香が言った。

「でもさ」

「うん?」

「正直ちょっと楽しみ」

「え?」

「だってさ」

 綾香が笑う。

「文化祭の目玉イベントとか、めっちゃ青春じゃん」

 私は思わず笑った。

「確かに」

「しかもメモリコ」

「うん」

「成功したら伝説の文化祭になるよ」

「それはありそう」

 春野ヶ丘高校の文化祭は、普通の高校の文化祭だ。

 毎年楽しいけど、特別有名ってわけじゃない。

 でも。

 もし。

 メモリア・コードがライブする文化祭

 なんてことになったら——

 間違いなく話題になる。

 綾香が私の方を見た。

「てかさ」

「なに?」

「明日香的にはどうなの」

「どうって?」

「推し来るじゃん」

 その一言で、心臓が少し跳ねた。

「……まあ」

 私は少し笑う。

「嬉しいよ」

「まあって顔じゃないよ」

 綾香が笑った。

「めっちゃ嬉しいでしょ」

「そりゃ嬉しいよ!」

 私は即答した。

「だってメモリコだよ?」

「うん」

「ライブ普通チケット取れないし」

「うん」

「それが学校で見れるとか……」

 そこで言葉が止まる。

 改めて考えると。

 やっぱり信じられない。

 特に。

 サウズ。

 メモリア・コードのギターボーカル。

 あの透明な歌声。

 あの感情のこもったギター。

 あの青春っぽい歌詞。

 初めて聴いたとき、ほんとに鳥肌が立った。

 そんな人が。

 この学校に来る。

「……やばいね」

 思わずつぶやくと。

 綾香が笑った。

「完全にファンの顔」

「ファンだよ!」

 私は少し照れながら言った。

 そのとき。

「そういえば」

 綾香が思い出したように言う。

「千都世今日学校?」

「あー」

 私は少し考える。

「休みだって」

「また?」

「うん」

 綾香は「そっか」とうなずいた。

 千都世が学校を休むのは、珍しいことじゃない。

 むしろ、ちょくちょくある。

「昨日LINEした?」

「した」

「なんて?」

「文化祭メモリコ来るって」

「反応は?」

「すごいじゃん、って」

 綾香がくすっと笑った。

「千都世っぽい」

「でしょ」

 大げさに驚くタイプじゃない。

 でも。

 ちゃんと話は聞いてくれる。

 優しいし、落ち着いてる。

 それがちとだ。

 そんなことを話しているうちに、教室の前に着いた。

 そして。

 ドアを開けた瞬間。

「「「明日香!!!」」」

 クラスメイトに囲まれた。

「えっ」

 思わず固まる。

「メモリコ来るってマジ!?」

「文化祭!?」

「ほんとなの!?」

 一斉に質問が飛んできた。

 私は完全に包囲された。

「ちょ、ちょっと待って!」

 手を振って止める。

「落ち着いて!」

「明日香生徒会だよね!?」

「メモリコ呼んだの!?」

「サウズ来る!?」

 サウズ。

 その名前を聞いた瞬間、心臓が少し跳ねた。

「く、来ると思うけど……!」

 まだメンバー全員の詳細は聞いてない。

 でも。

 メモリア・コードのライブなら、きっとサウズもいる。

「やば!!」

「絶対行く!」

「文化祭神すぎ!」

 クラスは完全にお祭り状態だった。

 その横で。

 綾香が苦笑して言う。

「これさ」

「うん」

「学校全体こうなるよね」

「絶対なる」

「生徒会今日大変だよ」

「……うん」

 私は静かに息をついた。

 文化祭。

 メモリア・コード。

 そして——

 生徒会。

 たぶん今日から。

 文化祭まで。

 めちゃくちゃ忙しくなる。

 でも。

 それでも。

 ちょっとだけ思う。

 これ。

 もしかして——

 すごい文化祭になるんじゃないかな。

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