第92話 黄泉の八雷神
翔が吼え、緑のオーラを纏って突っ込んだ。
理屈も構えもない。
ただ、群れの中心へ突っ込む。
唸りを上げ空間を切り裂く翔の高速攻撃。
そのスピードとキレに死霊はついていけない。
足に巻きつこうと伸ばした手を、翔は容赦なく蹴り飛ばしながら進んでいく。
鉄喜はその背中に立った。
金色のオーラが大きく展開し、翔の背後の軍勢の攻撃を阻む。
はみ出した死霊を、鉄喜の剛腕フックが襲う。
「喧嘩だ、おらぁ!!」
吹っ飛んだ死霊は、後ろに並ぶ影ごと崖下へ落ちて行く。
蘭は一歩引き、水を引いた。
氷の弓が形を成し、矢が放たれる。
死霊を貫いた瞬間に、内部で破裂する矢。
影は瞬時に霧へと消えて行く。
そしてすぐさま追い討ちのように、蘭の刃はが襲いかかる。
蘭の刃が触れた死霊は、その場で凍り、その瞬間に蘭の突きと蹴りが形を木っ端微塵に砕く。
雪山での蘭は市街地での戦闘能力を遥かに上回った。
圧倒的な神技の使い手。闇御津羽神の力がこれでもかと猛威を奮った。
──いける。誰もが手応えが感じた。
その時──
雷鳴が、山の奥で割れた。
翔が顔を上げる。
「……まだ、来るのかよ」
答えるように、裂け目の上空が歪んだ。
光が走る。一本じゃない
八つ。
同時に落ちた雷は、地面に触れる前に形を持った。
人の姿。だが、人ではない。
雷を纏った神が、八体。
それぞれの雷が、色も性質も違っていた。
——鳴雷。
——火雷。
——黒雷。
——裂雷。
——若雷。
——土雷。
——伏雷。
——大雷。
空に浮かぶその姿を見た瞬間、
音葉の喉から、かすれた声が漏れた。
「……八雷神……」
鉄喜が歯を食いしばる。
「……冗談だろ」
最初に動いたのは、翔だった。
緑のオーラが爆ぜる。
「関係ねえ!」
拳は、鳴雷に届いたが弾かれた。
「ぐっ……!」
翔の身体が宙を舞い、雪に叩きつけられる。
「翔!!」
今度は鉄喜が前に出た。金色のオーラが展開する。
「来いよ!!」
落雷を正面から受け止める。金色が軋み、地面が沈む。
「……っ、重ぇ……!」
一、二、三撃。
容赦なく雷撃が鉄喜を襲う。
明らかに雷神たちは、役割を分担していた。
蘭が歯を噛み締め、水を引く。
「っ……!」
氷の刀を構え、切り込んだ。
白銀に光るその閃光は雷を貫いた。
だが、刃が雷を通り抜ける。
「……効いて、ない?」
返事の代わりに、火雷が腕を振った。灼熱の雷が、横薙ぎに走る。
蘭は氷の壁を張る。
「っ……!」
無惨に砕け散る氷壁。
翔が、歯を食いしばって立ち上がる。
「……クソ……!」
緑のオーラが、荒れる。だが、雷神たちは一歩も退かない。
雷神達はいつのまにか方陣を組んでいた。
狙いは、錫杖を支える音葉。
音葉を中心に方陣が激しく周り、その磁波が音葉を襲う。
「……だめ……」
音葉の膝が、落ちる。
「……裂け目が……閉じ始めてる……翔くん」
翔は音葉を見た。
「今しか......ない」
音葉は叫んだ。
「翔くん!行ってえぇ!!」
蘭が振り返った。
「ダメ!翔くん!置いてかないで!」
蘭は無意識に、一歩踏み出していた。
翔の後を追う蘭。
振り返った翔。
「来るな、蘭!」
音葉の手は錫杖を離れ、その体は葉が落ちるようにゆっくりと雪の中へ崩れ落ちた。
翔は裂け目へ身を投げた。
蘭が手を伸ばす。
翔は鉄喜に目線をやった。
「鉄喜!蘭を!」
鉄喜は蘭の足を掴んだ。
「悪い、蘭!翔の選択だ!」
蘭の手が翔に届く寸前、裂け目は消えた。




