表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/121

第89話 立ちはだかるモノ

翔が踏み込んだ黄泉口山脈。

三号目。

ここからが、誰も立ち入らない禁断の地。


翔は躊躇いなく、立ち入り禁止のロープを跨いだ。

不思議と吹雪は止み、静かな白銀の世界と星空が広がっていた。


「静かだ……そして、寒い」


寒いところが苦手な利蔵の顔が浮かんだ。


「お父……」


どれだけ耳を澄ましても、風の音すら聞こえなかった。


それでも、足元の感覚だけは確かだった。

確かに、近づいている。


その時、荒れた登山道の真ん中にあった大きな岩が動いた。


「え、岩が動いた……ん、人……?」


「いやあ、こんな夜中の黄泉口山脈に、何用かのう?」


翔は、立ち上がった大男を見上げた。


「あんたは……オオクニヌシ」


オオクニヌシは深く息を吐いた。


「ふう……ここでまた会えるとはのう」


 翔は会釈をすると、構わず歩き出した。

止めるつもり──分かっていた。

通り過ぎようとする翔の肩を、オオクニヌシが掴む。

その手からは、恐ろしいほどの力が伝わってくる。


オオクニヌシの目が鋭く光った。


「翔くん、どこへ行かれるつもりかな?」

「黄泉」


翔は、一言だけ答えた。


オオクニヌシは視線を落とし、翔の前に立った。


「そうか……ではワシは、君の行く道を阻まねばならぬ」


翔は、オオクニヌシを睨みつけた。


「どけよ」


立ちはだかるオオクニヌシ。

力で、押しのけられる相手じゃないのはわかってる。


でも、諦める選択肢は、今の翔にはなかった。


バス停前。

黄泉口神社行きの最終バスを待つ鉄喜。


「やっぱり、無理だなぁ」


鉄喜は拳を握った。


「お祖父様にはキツく止められたけど……このまま待ってるなんて女々しいこと、オレにゃ出来ねえ……」


山の間から顔を覗かせる黄泉口山脈が、鉄喜を見下ろしているようだった。


「黄泉の国って……あの日以来、とんでもねえ世界になっちまった」


鉄喜は笑った。


「オレの高校生活……お前と出会ったおかげで、想像してたのと全然違うもんになっちまった」


──黄泉なんて……もうオレ、この話についていけねえよ、翔。


 鉄喜はバス停の時刻表をコツンと小突いた。


「話にはついていけねえが、オレは最後までお前にならついてくぜ!」



アパートの部屋。

暗闇の中、フルフルと肩を震わせる蘭。


「どうして……どうしてこんなことに」


蘭は床を叩いた。

テーブルが震える。


──チリン


ポロリと落ちた、音葉からもらった御守り。

蘭の頭に、自分が音葉に向けて投げつけた言葉が突き刺さった。


──出来ること、あるでしょ!


蘭はハッとした。


「そっか……バカだ、アタシ」


蘭は夜道を駆けた。


──出来ること、ある。

それ……アタシだ。


──肝心な時に自分を犠牲に出来ないんだね!

それも……アタシ。


──アンタみたいな胡散臭い女、大っ嫌い!

うん……もう、わかった。


蘭は涙を拭った。

迷う時間は、もう残っていなかった。


「アタシが翔くんを守る。もう、誰にも任せない」


蘭の手の震えは、止まっていた。


アパートを飛び出した蘭を見つめる影。


「蘭は変わったのう……。じゃが」


光明は大きくため息を吐いた。

止める理由は、いくらでもあった。

だが、止める資格は、もうないと悟った。


「危険じゃ……」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ