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第88話 自分のために

黄泉口神社の古戦場跡。

そこから黄泉口山脈へと続く山道。

文字通り、黄泉への入り口。


登山客は黄泉口神社の許可を必要とし、それでも三号目までしか登れない。


その先を、翔は見上げていた。


初冬の黄泉口。

古戦場に吹く風は、背中を押すように翔を叩いた。


立花道心は翔の前に立ち、首を振った。


「翔くん、許可は出せん。黄泉は“行く場所”じゃない。それだけは分かってくれ」


その横で、音葉はただ黙って下を向いていた。


蘭は最後まで食い下がった。

黙っている音葉を睨みつける。


「アンタも、なんとか言いなさいよ!

 できることあるでしょ!

 なんでもいいから、止めなさいよ!」


音葉の手は震えていた。

唇を噛み、何かを言いかけて――結局、俯いた。


「白々しい!

 肝心な時に、自分を犠牲にできないんだね!」


翔が、蘭の前に手を伸ばした。


「蘭、もういい。やめてくれ。

 道心さん、あんたに許可をもらいに来たわけじゃない。行ってくる」


翔は道心を押し退け、山道を塞ぐチェーンを踏み越えた。


光明が呟く。


「もう止められぬ。これ以上は、生き方の問題じゃ」


鉄喜は拳を震わせた。


「オレも……無理だ」


蘭が膝を突いた音を、音葉は遠くで聞いた。

音葉は、雪山へ進む翔の背中に、そっと手を合わせた。


「翔くん……」


鉄喜は、光明の横顔に話しかけた。


「お祖父様……翔は、本当に戻って来られないんですか?」


光明は長いヒゲを掴み、山脈を見上げた。


「翔は、おそらく……その入り口にすら辿り着けん」


蘭の肩が、ピクリと動いた。


「……どういうこと?」


光明は息を吐いた。


「ワイルドブラッド。

 傍観する者もいれば、ただ死地に行かせるわけにはいかない……

 そう考える者がおっても、不思議ではない」


鉄喜は聞き返した。


「それって……悪鬼ですか?」


「そうとは限らんよ。

 神も、悪鬼も、そして自然さえもな」


翔が去った古戦場には、凍える吹雪が舞い始めた。


翔が去ってから、数刻後の夜。

古戦場に立った音葉は、一心に錫杖を振るい、吹雪を切り裂き続けていた。


胸は、なぜか高鳴り続けている。

脈が早くなるたびに、破裂しそうだった。


蘭の言葉が、胸に刺さる。


──できること、あるでしょ!


音葉は突然、山道に向かって走りだした。


遠くで様子を見ていた道心が叫ぶ。


「音葉っ!!」


音葉は足を止め、振り返った。


「おじいちゃん、ごめんね……」


道心は手を伸ばし、唇を震わせた。


「お前……まさか……」


──私が行かなきゃ。


音葉は、吹雪吹き荒れる山道へ駆けていった。


「今度は、私が……翔くんを護る!!」


音葉は、もうわかっていた。


蘭の怒りの矛先。

自己犠牲。


でも本当は……自己犠牲なんかじゃない。

守りたいんじゃない。


私は……許されたいんだ。


これって……罪滅ぼし。


──自分のためなんだ。


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