第71話 目を覚ました古都
西都に向かうバスの中は、賑やかだった。
窓の外を遠い目で眺める翔に、鉄喜が一方的に話しかける。
「旅行とかワクワクするな、翔!
きっと可愛い女子高生、いっぱいいるぞ!ガハハハ!」
「……うるさい」
すると、翔の座席の前から金髪がひょいと覗いた。
「翔くん、思い出のツーショット、いっぱい撮ろうね!」
「てめえ、なんでこのバスに乗ってんだよ!」
蘭はニタリと笑う。
「へへ。みんな同じ場所行くんだから、いいでしょ?」
その時、車内アナウンスが鳴った。
「西都まで三時間です。ゆっくりお過ごしください」
バスガイドの、優しい声だった。
翔は頭を抱える。
「三時間……キツすぎる」
⸻
その頃、利蔵はペットショップで動物の世話をしながら、胸に残った不安を拭えずにいた。
「オオクニヌシ様が、山を降りた……只事じゃない気がするが……」
その時、扉のベルが鳴った。
「よっ!利蔵ちゃん!」
利蔵は入口を見て、目を見開く。
「わっ!亜紀!?どうした!?」
呉服屋の店主・亜紀は、にこやかに笑った。
「白々しいなぁ!利蔵ちゃん。息子をお使いに来させておいて」
「はは……バレたか。狭いけど、座るか?」
カウンターに腰掛けた亜紀は、せっせと動物の世話をする利蔵に話しかける。
「翔くん、三重ちゃんにそっくりになってきたね!びっくりしちゃった!」
「そうか?」
「うん。不器用な感じも、三重ちゃんそのまま」
利蔵は何も言わず、口元をわずかに緩めた。
亜紀はカウンターの隅に置かれた、小さな三重の写真を見つめる。
「あの羽織り、私が持ってていいの?」
「ああ。預かっててくれ」
亜紀は少し間を置いて、ぱん、と手を叩いた。
「それにしても、最近の若いサニワの子たちは、すっごくド派手ね!」
「ド派手?」
「うん。あんな町中の公園で、悪鬼と戦っちゃうんだもん。びっくりした」
利蔵の眉が、ぴくりと動く。
「……どういうことだ?」
一瞬の沈黙が、ショップを包み込んだ。
⸻
賑やかな高校生たちを乗せたバスは、西都に入った。
「──ただいまこのバスは、西都に──しました」
「……え?」
アナウンスは、そこで途切れた。
一瞬、車内が静まり返る。
だが次の瞬間、何事もなかったかのように話し声が戻った。
バスガイドは、さっきと同じ笑顔で、同じ案内を繰り返す。
「ま、電波じゃね?」
鉄喜が笑った。
だが翔は、窓の外に違和感を覚えた。
同じ看板を、さっきも見た気がする。
蘭はスマホを取り出し、時刻を確認する。
一度、眉をひそめてから、そっと画面を伏せた。
「……いや。なんでもない」
バスは街の中心、西都駅の広い駐車場に到着した。
平日でも観光地の中心は、通勤中のサラリーマンと観光客でごった返している。
だが、バスを降り立った翔は、違和感に気づき周囲を見渡した。
駅前の雑踏は賑やかなはずなのに、
どこか水の底で聞いているような感覚がある。
蘭は隣の男子生徒のスマホを覗き込み、首を傾げた。
自分のスマホの時間が──一時間、早い。
「ん?……やっぱり、なんか変?」
鉄喜は翔を振り返る。
「なんか……声が遠い?
耳じゃなくて、頭の奥で聞いてる感じっつーか……なんだこれ?」
古都、西都。
神話が眠るはずの街は、目を覚ましたかのように、
三人を静かに呑み込もうとしていた。




