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第66話 禁忌に立つ刃

 塾帰り。

 呉服屋の娘、レナと呼ばれた少女は、公園の脇を通り過ぎ、ふと足を止めて振り返った。


「うぇ! 喧嘩!? こわーい!」


 レナは駅に向かって逃げ出した。


 いきり立つ蘭を見て、蓮は突然、不気味に笑い出した。


「フフフハハッ! 面白い。面白いよ、お姉ちゃん!

 もっと、もっと僕と遊んでよ!」


 周囲の群衆は、すでに戦意を喪失し、立ち尽くしていた。


 蓮は振り返り、ニタリと笑った。


「そうだ。役立たずの君たちの力を借りよう」


 蓮が目を閉じると、地面がわずかに揺れた。


「!?」


「出てきなよ、悪鬼」


 蘭の眉が、ピクリと動く。


「悪鬼……?」


 蓮が天を仰ぐと、群衆から、ゆらりと黒い霧が立ち上った。


 蘭は一歩、後ずさる。


「何してんのよ、こいつ……」


 やがて、蓮からも黒いオーラが立ち上り、

 それらは結合し、大きな漆黒の塊となった。


 群衆たちは、一人、また一人と膝を折り、

 やがて糸が切れたように倒れていく。


 蘭はその手に氷刃を作り、強く握りしめた。


「なんなの……こいつ……」


 黒い塊は、みるみるうちに人影を成した。


 二本の禍々しい角。

 赤い顔。

 天に向かう牙。


 手にした、そり返った刀から、ドス黒い妖気が立ち上っている。


 蓮は、ニヤリと笑った。


「僕の守神、悪鬼……

 酒呑童子様だよ」


 蘭は、氷刃を握る手に思わず力を込めた。

 刃が、わずかに震える。


「酒呑……童子……」


「言ったじゃないか、お姉ちゃん。

 僕たちは人間として生まれてきた──」


──悪鬼なんだよ!!


 姿を現した悪鬼、酒呑童子は、蓮の体へと吸い込まれていった。


 蓮は目を閉じ──そして、見開いた。


 その目は黒一色に染まり、

 眼球の奥で、赤い光が灯る。


「サニワの首を跳ね、

 一緒に地獄へ行こう……お姉ちゃん」


 蘭は、ニヤリと笑った。


「そうね。

 それも、いいかもね……」


 腹を押さえ、ヨロヨロと立ち上がる鉄喜。


「蘭……お前……」


 蘭は息を吐き、もう一方の手を開いた。


 迷いを断ち切るように、氷刃を生み出し、

 二本を構える。


「考えてみるわ。

 ──アンタを“終わらせて”から」


 蘭は、躊躇なく踏み込んだ。


 二本の氷刃が、蓮に向かって弧を描く。


 その刃が、蓮の首を捉える瞬間──

 衝撃音とともに、二本の刃が止まった。


 蓮が瞬時に作り出した、漆黒の刀が、それを阻んでいた。


「ようやくだね、お姉ちゃん」


 蓮が刃に力を込めると、

 蘭の氷刃は弾け飛んだ。


 衝撃で吹き飛ばされる蘭。


 蘭は膝をつき、手のひらに唾を吐いた。


「呼ばないで。気持ち悪い」


 蘭は、その手に氷弓を作り出し、矢をつがえる。


「アタシは、アンタのお姉ちゃんじゃない!」


 躊躇なく弓を引いた。


 蓮は刀を回し、矢を弾く。


──来る。


 そう思った瞬間、

 視界から蘭の姿が消えた。


「何!?」


 風圧が、蓮の頬を撫でる。


 回し蹴り一閃──


 顔面を捉えた蘭は、そのまま足を振り抜いた。


「くっ……!」


 蓮の顔が歪み、地面に叩きつけられる。


 すぐさま、第二の衝撃が上から降ってきた。


 蘭の容赦ない踏みつけに、

 歯が地面へと突き刺さる。


「グハァ……!」


 地面に倒れた蓮を見下ろす蘭。


 その目には、もはや人の理性は残っていなかった。


 蘭の手から、蓮の喉元へと伸びる氷刃。


 鉄喜が、必死に手を伸ばす。


「やめろ、蘭!

 それやったら、本当に……!」


 鉄喜は知っていた。

 いま止めなければ、もう戻れない。


 神でも、人でもない。

 ──そして、サニワでもない。


 禁忌の境界に、蘭は立っていた。


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