第64話 今宵はオレの物語
商店街の光は消え、あの呉服屋だけが遊歩道を照らしていた。
「行ってくるね、ママ」
「あーい、気をつけてね!」
「あ、そうだレナ! 帰り、駅前のカフェでコーヒー買ってきてー」
「はーい」
「あ、待ってレナ! シュークリームも!」
「わかったよー」
レナと呼ばれた、あの呉服屋の娘は、
遊歩道をスキップしながら、街の光の中へ溶けていった。
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後輩に肩を押されるまま、鉄喜は夜の街を歩かされていた。
胸の奥で、嫌な予感が、ずっと鳴り止まない。
着いたのは、見覚えのある場所だった。
駅裏の公園。
つい最近、翔が暴走した場所。
地面はまだ荒れ、踏み固められた土が残っている。
何もなかったはずの“異常”を、静かに物語っていた。
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その瞬間、闇の中から人影が浮かび上がった。
一人、二人──いや、違う。
十人、二十人。
さらに奥にも。
パーカー、スウェット、フードを被った少年たちが、
円を描くように公園を囲んでいた。
どいつも、目が笑っていない。
「大森先輩、どうも」
最初に声をかけてきたのは、
鉄喜を連れてきた後輩だった。
その声は、さっきまでと違っていた。
「なんだ、この集まりは?」
後輩は肩をすくめる。
「先輩、最近、調子乗りすぎっすよ。
仲間抜けるだの、なんだのって。
どういうつもりっすか?」
鉄喜は、ゆっくり拳を握った。
「話ってのは、それか?」
「ええ。でも、一番問題は──」
後輩は一歩下がり、背後を示した。
「ここで暴れた“あれ”の件」
空気が、ひどく重くなった。
鉄喜の脳裏に、赤黒いオーラを纏った翔の姿がよぎる。
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円の外側で、一人だけ拍手している影があった。
音は小さいのに、やけに耳に残った。
すると、一つの影が、ふわりと前に出た。
蓮だ。
「フフフ、こんばんは」
後輩の一人が、また口を開く。
「こいつ、オレ達の仲間なんすわ。
先輩、困るんすわ。
仲間をやってもらっちゃあ」
鉄喜は、静かに息を吐いた。
「……なるほどな」
「先輩が始めた戦争だ。
一体、どう“落とし前”つけてくれるんで?」
スサノオ様の口癖──落とし前。
鉄喜は、思わず呟いた。
「……しゃらくせえ」
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円の中心で、鉄喜は一人、立っていた。
逃げ道はない。
逃げる気なんか、毛頭なかった。
突然、蘭の言葉が、脳裏に突き刺さった。
──アンタがいるから、翔くんは苦しいんだよ。
鉄喜は、笑った。
「何、笑ってんだ先輩?
死ぬぜ、アンタ」
──翔がオレといて苦しいなら、
オレは一人で、あいつを守ってやる。
「赤髪の野郎は、今日は、いねえのか?
そいつが、蓮を殴ったんだろ?」
鉄喜の眉が、ピクリと動いた。
「おいおい、調子に乗ってんのは、
お前らだ、クソガキども」
──気安く、オレの親友に触れるんじゃねえ。
人影は、一斉に地面を踏み鳴らした。
「あ? 見えてんのか、この数?」
「数だけ揃えりゃ、
オレをどうにかできると思ったか?」
──悪いな、翔。
今宵、お前が出る幕はねえ。
「今宵は──
オレだけの物語だ!」
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次の瞬間、四方から地面を踏み鳴らす音が押し寄せた。
最初に鉄喜に届いた影は、
ピンポン玉のように弾き飛ばされた。
拳を握る鉄喜。
「お前らに教えてやる。
金剛力士の拳をなぁ!」




