第63話 一番近くて、一番遠い
「あ」
駅から広場へ出た蘭は、たまたま通りがかった鉄喜と目が合った。
「おう、蘭!
お前、どこ行ってたんだ?」
「別に」
いつもの鉄喜に、素っ気ない蘭の反応。
鉄喜は胸のざわつきを感じていた。
今日は、食い下がった。
「なあ、おい。
ちょっとコーヒーでも飲まねえか?」
「いらない」
「そんなこと言うなよ。
たまにはオレの話、聞けよ」
⸻
二人は、駅前のカフェのテラスに座った。
鉄喜は目を丸くして、蘭の顔を覗き込んだ。
「はあ〜!?
音葉さんと、喧嘩ぁ!?」
「悪い?」
「何が、そんな気に入らないんだよ。
良い人じゃねえか、あの人。
可愛いし」
蘭はキッと鉄喜を睨み、拳を握った。
「お前には、わからねーよ」
「バカ言え。
オレは、なんでもわかるぞ!
なんだ、言ってみなさい。
この大森鉄喜様に、ガハハハ!」
蘭は飲みかけのカップを机に置き、席を立った。
「ウザ」
鉄喜は慌てた。
「ちょっと待てって!
冗談だよ!」
「話って、何なの?」
鉄喜は頭を掻いた。
「翔のことだ」
蘭の足が止まった。
「翔くんが……何?」
「まあ、座れって」
⸻
翔は、暗いペットショップのカウンターから、
ゴソゴソと動き出したヤモリを、ぼーっと眺めていた。
──不自然……排除。
ククノチの言葉を思い出す。
エサのコオロギが入ったケージにピンセットを突っ込み、
ヤモリの前に差し出した。
ヤモリは勢いよく飛びつき、ピンセットに噛みついた。
「ちがっ……そこじゃねえよ!」
翔はピンセットを投げ捨て、天を仰いだ。
「わからねえ……」
人間の輪に入ろうとすれば、違うと言われる。
神に近づこうとすれば、不自然だと突き放される。
立っている場所だけが、静かに削れていく感覚があった。
「……いっそ、排除してくれよ」
言い知れぬ大きな孤独が、翔を包み込んでいた。
⸻
蘭は鉄喜の方へ向き直った。
「また翔くんが、あいつを?」
「ああ。
なぜか人混みの中で倒れた、あいつを引き摺って……」
蘭は視線だけを、広場に向けた。
「あの時かぁ」
「お前、知ってんのか?」
蘭は嘯いた。
「知らない」
鉄喜はテーブルの上で、軽く拳を握った。
「人混みの中だぞ。
流石に、理性が働いてもいいもんだけど……」
蘭は、街中で拳を握った自分と翔を重ね、庇った。
「べっ、別に変じゃなくない!?
ムカついたんだよ!」
鉄喜は、拳を強く握った。
「それに、あの時の暴走は、
周りの空間そのものが怒ってたっていうか……
オレにも……」
蘭は、鉄喜の顔を覗き込んだ。
「ははーん。
さてはアンタ、
翔くんに嫌われて、ショック受けてんだ。
イヒヒ」
「ちげーわ!
オレは翔が心配なんだわ!
お前は、なんとも思わねえのかよ!」
蘭は、一瞬沈黙した。
「アンタって、ほんとバカだね」
「あん?」
「翔くんの孤独が、わかんないの?」
「孤独?
なんでだよ。
オレは、いつもあいつと一緒にいるんだぞ。
なんで翔が孤独なんだよ?」
蘭は席を立ち、大きなため息をついた。
「アンタがいるから、
翔くんは苦しいんだよ。
いい加減、気付けよ。ばーか」
「なっ、なんだって?
オレが、いるから?」
鉄喜は、街の闇に消えていく蘭の背中を見つめ、呆然とした。
──そんなはずねえだろ。
オレは、翔の親友。
オレが一番、あいつのそばに……。
その時、数人の影が鉄喜を取り囲んだ。
「大森先輩、
ちょっと面、貸してもらえないですか?」
「……あ?」




