表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/74

第52話 笑う、野生の本能

けたたましい救急車とパトカーのサイレンが、校内の空気を引き裂いた。

上空では、メディアのヘリが低く唸り続けている。


その後、警察による現場検証が行われた。

発表は簡潔だった。

――自殺。


テレビも、同じ言葉を繰り返した。


飛び降り直後、屋上へ駆け出した蘭に、

一瞬だけ視線が集まったが、

翔たちやクラスメートの証言により、その疑いはすぐに消えた。


しばらく張られていたブルーシートは外され、

今はコーンが四つ、そこに残っているだけだった。


校内はやがて、何事もなかったかのように、日常を取り戻していった。


人間として生まれた悪鬼。


黒い気配がなくても、

それは人の中に、紛れて生きられる。

サニワですら、わからない。

翔の思考は、そこから先へ進めなかった。


もしかしたら、近くにいるのかも知れない。


クラスメート、教師。

翔はすでに、黒い邪気の有無では何一つ判断できなくなっていた。


悪鬼。

どこにいる。


チョークの音が耳障りだった。

教師の声が遠く聞こえた。


校門を駆け出して行く蘭の後ろ姿。

──一体、何が起きてる?


全てが疑心暗鬼になっていく。


教室の中に、逃げ場はもうなかった。

翔は静かに席を立った。


事件当日、学校から姿を消した蘭は、

あの不思議な声を聞いた住宅街の公園にいた。


目を背けたかった胸の中に重く残る記憶。

「これ以上は……無理」


蘭の腰掛ける公園のベンチから正面に見える豪邸。


──蘭の生家。氷室の表札が揺れていた。


関係ないかも知れない。

それでも、今ここに来なきゃいけない気がした。


「でも、これ以上近付けない」


蘭は、震える足を叱りつけるように立ち上がった。


──その時。


「お姉ちゃん」


雲一つない晴天。

でもなぜか暗い。


蘭の背筋が凍る。

ベンチに座る男の子。視線は蘭の生家に向いていた。


「アンタ……」


「やっと会えたね。お姉ちゃん」


蘭は咄嗟に身構えた。

言葉がうまく出てこない。


「夏祭り……遊歩道」


「アタシに何をした!! アンタ一体……誰なのよ!!」


「フフッ、もうわかってるくせに」


年齢に似つかわしくない、やけに幼い声。


「蓮……氷室蓮。あなたの弟だよ、お姉ちゃん」


蘭は歯を噛み締めた。


「そのアンタが、アタシになんの用よ!」


「怒らないでよ。お姉ちゃんこそ、どうしてここに何度も来るの?

 僕はただ……仲良くしたいんだ」


そう言うと蓮は立ち上がり、禍々しい黒いオーラをじわりと纏った。


「アッ、アンタ……悪鬼……なの」


蓮は不敵に笑い、蘭の方を向いた。


「フフフ、悪鬼って何?

 僕は人間に決まってるじゃないか。お姉ちゃんと、同じだよ」


「うるさい! どう見たって同じじゃない」


蓮はポケットに手を入れた。

蘭の視界の端で、刃が一瞬、瞬いた。


「ナイフ!? アンタ正気なの!?」


「いくよ、お姉ちゃん。遊ぼう」


空気が揺れた瞬間、蓮の姿が消えた。


──あの時と同じ。


蘭の髪が風で揺れた。


目の前に、ふわりと現れた蓮。


蘭のお腹に向かって迫る刃──


──間に合わない。


そう思った瞬間だった。


蘭の頬を、後ろから風圧が撫でる。


その閃光は、音すら置き去りにして空気を裂き、

蓮の顔面を容赦なく打ち抜く。


鈍い衝撃音が遅れて響き、蓮の体が宙を舞った。


弾き飛ばされた蓮は、顔を押さえてうずくまった。


「翔くん!!」


蘭が振り返ると、赤い紋様を顔に浮かべた翔の姿があった。


「蘭。てめえ、ここで何してやがる」


「翔くん……後を追ってきてくれたの?」


翔は答えなかった。

心臓が「ドクン」と鳴る。


「クソガキ。てめえはわかりやすい」


翔は身を屈めながら一歩を踏み出した。

獲物を見つけた、虎のように。


──守る、じゃない。

見つけた瞬間、壊したくなった。


翔の視線は、もう蘭を見ていなかった。


鼻を押さえてふらふらと立ち上がった蓮。


「わかり……やすい?」


蓮を捉えた視線は逸れない。


「てめえのことは、ぶっ壊していいって……オレの……オレの──」


「しょ……翔くん?」


「──本能が喜んでんだよ」


翔の瞳の奥に、赤黒い光が灯った。


蘭は、遅れて気づく。


――守りに来たんじゃない。

――狩りが始まったんだ。


「ワイルドブラッド!?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ