第45話 真夏の超常決戦【終宴】〜落とし前〜
──ドン! ドン!
「まさかこれって……」
鉄喜は、太鼓の音が聞こえる境内の茂みへ目をやった。
利蔵は苦笑いしながら、顔を押さえた。
「タハハ、ここで、おいでなさるとは……」
太鼓の音が止まると、ふらりと茂みから千鳥足で出てきた人影。
だが、その一歩ごとに、大地がわずかに軋んだ。
銀色の長髪と装束をこれでもかと言うほど乱し、
顔を真っ赤に赤らめた──スサノオ。
「こらぁ……てめえら、オレ様に黙ってぇ、ヒック!
楽しいことしてるじゃねえかぁ、おーん?」
翔は、一瞬で境内の空気を変える、あまりの場違いさに言葉を失った。
──この状況で、出てくるのか、スサノオ。
ドスンッ!
スサノオが無造作に座ると、境内が揺れ、空気が震えた。
いつのまにか社殿の欄干に座っていたククノチのお尻が浮く。
「スサノオちゃん」
「ところでぇ、そこのカラス。
てめえこんなところで、なぁにやってんでぇ〜、あぁん?」
スサノオはハナクソをほじりながら、問いかけた。
鴉天狗は一瞬たじろいだ。
「くっ……スサノオ……」
「あん? てめえ……
いつからオレを呼び捨て出来るようになったんだあぁ、ああん?」
鉄喜は口を震わせた。
「あ、あの鴉天狗が……ビビって……」
後退る鴉天狗に、さっきまでの邪気は一切感じられなかった。
「まさか人間に与するか、スサノオ?
手出しすれば、お前は禁忌に触れ──」
スサノオは、ハナクソを指で丸めながら、鴉天狗を睨みつけた。
ククノチはその様子を見て欄干から飛び降り、手を伸ばした。
「スサノオちゃん、それは──」
──もういい、雑魚。黙れ。
スサノオは、ハナクソを指で弾いた。
それは閃光を引き、鴉天狗の面を貫いた。
「きっ、貴様……ついに禁忌に触れ……」
鴉天狗は黒い霧に変わり、そのまま呆気なく消滅した。
ククノチは額に手を当て、天を仰いだ。
「スサノオちゃん、やっちまったぁ」
「ばぁか。先に禁忌に触れたのは、神域を出たてめえらだぁ。
なぁ、ククノチ」
ククノチは頭を掻いた。
「まあ、スサノオちゃんが言えば、そういうことにもなる」
その一言を理解出来ない翔は、首を傾げた。
「スサノオが言えば……?
……つまりスサノオは、それすら決めてしまえるってこと?」
スサノオはフラフラと立ち上がると、翔たちの方に向いた。
「ところでぇ、お前ら雑魚どもの喧嘩はもう終わりかぁ、あぁん?
興醒めだなぁ、利蔵ぉ?」
利蔵は軽く会釈すると、頭に手を置いた。
「スサノオ様が、終わらせてしまったので……」
スサノオは鋭い眼光で、光明を睨みつけた。
「じゃあ、この落とし前ぇ、どうするんだぁ? 光明よ」
鉄喜は翔に向かって小さく呟く。
「落とし前って……なんだ?」
「……よくわからん」
スサノオは光明に顔を寄せて詰め寄った。
「お前ら雑魚どもはぁ、神域を汚し、悪鬼の侵入を許したぁ。
挙げ句、このオレ様を呼び出してぇ、禁忌を犯させたぁ」
「いや、それは……スサノオ様が勝手に……」
鉄喜は思わず口を挟みかけ──
翔に肘で止められた。
スサノオは酒臭い息を、光明に吐きかけた。
「はあぁぁ。
その落とし前ぇ、一体どうつけるんだって聞いてんだぁ、
あぁん、光明ぇ?」
光明は観念したかのように息を吐いた。
「ふぅ。スサノオ様は、何をお望みで?」
スサノオは背を向け、またフラフラと歩き出した。
「そうだなぁ……」
次の瞬間──
光明の背後に、酒臭い気配があった。
「お前の命。それが落とし前だぁ」
──境内が、静まり返った。
「なっ!!」
思わず拳を握った翔。
「妥当だろぉ、光明ぇよぉ?」
光明はスサノオを見上げた。
「そうですな」
「じーちゃん! ダメだ!」
思わず翔が声を荒げる。
スサノオは光明の肩を掴み、拳を振り上げた。
「じゃあ、もらってくぜぇ。
これで、落とし前だ」
翔が飛びかかろうと身を沈めると、利蔵が制止した。
「なんで止めるんだ、お父!!」
「あれだ」
光明の背中が、青白く輝いているのに気付いた。
「……じーちゃん、一体何が……」
よく見ると、光明に重なるように、
黒い長髪、古代の装束を身に纏い、
その上に鎧を着込んだ武者が、うっすら立っていた──
スサノオは鋭い眼光で、光明の目を睨みつけた。
「タケミカヅチィ……
なんの用だぁ、てめぇ」
光明は、瞳の奥に青い光を宿し、話し始めた。
「兄者、もうよい。
これ以上は無意味」
スサノオは眉をピクピクと動かし、怒った。
「てめえ!
誰に向かって口聞いてんだぁ!!」
光明の口が、大きく開く。
「いい加減になされい!!
これ以上は無益!
兄者も、わかっておろう!!」
翔は利蔵を見上げた。
「兄者って……。あれは……?」
利蔵は翔の肩に手を置いた。
「タケミカヅチ様……
スサノオ様の弟だな」
「弟……」
スサノオは舌打ちをして、光明の肩を離した。
「チッ。
てめえの面ぁ見たら、興醒めだ」
スサノオは、また千鳥足で茂みへ足を向けた。
「タケミカヅチ、てめえ高天原に戻ったら親父に言っとけぇ。
オレ様が帰ったら──」
一瞬、足を止めた。
「──お前ら、皆殺しだからなぁ、雑魚どもがぁ」
スサノオはその言葉を、境内に置き去りにしたまま、
茂みの中に消えていった。
その一言は、境内ではなく──
天を震わせる宣告だった。
その本当の意味を、翔たちはまだ知らなかった。
次回から、第二章となります。
引き続きお楽しみください。




