第43話 真夏の超常決戦【深淵】〜目覚めるものは〜
突然、翔たちの前に現れた音葉。
その目は、怪しく紫に光っていた。
「音葉……その目。あの時と同じだ……」
翔は小さく呟いた。
音葉が目を閉じると、大地が震え、
地面に突き刺された錫杖から光の柱が立ち上った。
その柱は一気に膨張すると、瞬く間に境内全体を包み込んだ。
ギヤアアアアァァ!
怪物たちの断末魔が響き渡り、やがてその声は引き裂かれるように消えていった。
ふらつく音葉を、咄嗟に翔が支えた。
蘭はピクリと眉を動かす。
「……なんで、その女がここにいるのよ」
蘭の視線は、翔に突き刺さっていた。
足を引き摺る蘭を支えようと、鉄喜が手を差し出すと、
蘭はその手を払いのけた。
「触んないでよ!」
「なんだよ! 音葉さん見て、急に不機嫌になるのやめろよ!」
「うっさいわね!」
その時、翔はふと篝火に目をやった。
「お前ら、やめろ!……篝火が」
四人の空気に反応しているかのように、その火は勢いを弱めた。
蘭は社殿の欄干にもたれかかった。
「ふう……とにかく、これで終わったんだよね」
翔と鉄喜は辺りを見渡した。
静けさを取り戻した境内が、篝火の火で揺れていた。
音葉は翔の腕の中で目を開けた。
「翔くん……私……ここは……」
「え?……どこかわかんねえのか?」
「月詠様の声が聞こえて……気付いたら、ここに……ウッ!」
音葉は頭を押さえ、気を失った。
「おい、大丈夫か! もしかして、月詠が音葉をここまで……」
──静寂。
だが、篝火が嫌な音を立てて爆ぜた。
その時、三人は毛が逆立つような寒気を感じ、慌てて境内を見渡した。
──何かいる!
「フッフッフッ、未熟なサニワが四人、揃いも揃って」
「だ、誰だ!?」
ゆらゆらと輪郭を表した影。
暗闇の中でも、その輪郭が確認できるほどの漆黒のオーラ。
「鴉天狗!!」
翔は音葉をその場に優しく寝かせると、立ち上がり拳を向けた。
鉄喜も、無言で翔と肩を並べる。
「こいつが?」
篝火の炎がゆらりと一度揺れ、その火の勢いを弱めた。
まるで、何者かに息を吹きかけられたかのように。
「翔くん、火が!」
蘭は足を引き摺りながら、篝火の前に立った。
「蘭、お前はいい。そこにいろ」
翔の顔に、再び紋様が浮かび上がる。
「フッフッフッ、ようやく伝承のワイルドブラッドの顔を拝めた。それが、神殺しの力か」
鴉天狗は、ゆっくりと歩を進める。
一歩を踏み締めるたびに、漆黒のオーラが足元から立ち昇り、その身を隠す。
「ワイルドブラッド、何故我の前に立つ。お主は我と同じく、この世の均衡を壊すもの、ぞ」
鴉天狗は歩みを止めた。
「答えよ、サニワ。否、ワイルドブラッドよ」
翔は答えず、鴉天狗を睨みつけた。
鴉天狗は両手を広げ、漆黒の翼を広げた。
「答えよ、ワイルドブラッドオオォォ!!」
翼から散った羽は空中で発火し、黒い灰となって雨のように境内へ降り注いだ。
その叫び声は耳を劈き、低い重低音は聞く者の腹を震わせた。
「くっ……」
翔は、鴉天狗の言葉に、なぜか胸の奥がざらつくのを感じていた。
理由は分からない。
ただ──こいつは、放っておけない。
それだけは本能が感じていた。
たじろぐ鉄喜の横で、翔はニヤリと笑った。
「うるせえ……ぶん殴る」
鉄喜は強張った顔を緩ませた。
「へへ、さすが我が親友。かっけえ」
「で、あるか」
鴉天狗は身を低くし、地面を這うように滑空し、翔に突っ込んできた。
その手に握られているのは、あの漆黒の槍。
翔は動かない。
──避ける必要がなかった。
切先は、翔の顔の前で止まった。
「な、お前は──」
鴉天狗の槍。
見えていた。避けられた。
でも……信じてみようと思った──
黄金のオーラを纏った鉄喜の右腕が、鴉天狗の槍を掴んだ。
「──金剛力士!」
「おい、翔。なんで避けねえ」
翔はニヤリと笑った。
「親友……なんだろ?」
鉄喜も笑う。
「お前って、本当に自己中だな」
鉄喜はその腕を返し、鴉天狗を地面に叩きつけた。
「翔!」
──鉄喜がそう叫ぶ前に、翔は飛んだ。
「その面、見せてみろ!!」
空中から落下スピードを生かし、叩きつけられた翔の拳は、
鴉天狗の顔面に突き刺さった。
「グホッ!!」
拳は確かに顔面を捉え、骨の軋む感触が翔の拳に残った。
だが──
倒れた鴉天狗は、笑った。
「フッフッフッ……なるほど、興味深い」
鴉天狗は何事もなかったかのように、フワリと立ち上がった。
「金剛力士に守られるワイルドブラッドとは……フフッ、まさに、混沌だ」
割れた鴉天狗の面。
その奥には、闇しか見えなかった。
鴉天狗は、面を投げ捨てた。
「──ワイルドブラッドが目覚め、月詠が動いた。十分だ」
「こいつ……顔がない……」
翔と鉄喜は身構えた。
「元には戻らぬ、静寂の世を終わらせる──」
──始めよう、混沌の幕開けだ!!




