第42話 真夏の超常決戦【闇】〜月詠、ここに在らず〜
黄泉口神社、古戦場の戦いはなおも続いていた。
大斧を振り回す牛鬼に、利蔵はカグツチの炎をたぎらせ、真正面からぶつかる。
闇の刀を振るう鴉天狗が、容赦なく光明へ斬撃を放つ。
光明は雷神タケミカヅチの槍でそれを迎え撃ち、その背後で道心は結界を守らんと祈りを捧げていた。
「くっ……牛鬼……力勝負じゃ分が悪いな」
利蔵は炎の大剣を鞭に変えて構えた。
──行くぞ!
大斧を振り上げて突進してくる牛鬼に向かって、利蔵も突っ込む。
振り下ろされた大斧を僅かに体を捻って避けると、
地面に突き刺さった牛鬼の斧を足場に、その刃を駆け上がる。
牛鬼が斧を引き抜こうとアタフタしている間に、
利蔵はその巨体の周囲を右へ左へと駆け回り、
炎の鞭で一気に捕縛した。
「ブオオオォォォォ!!」
動けなくなった牛鬼は雄叫びを上げた。
炎の鞭が食い込むたび、牛鬼の筋肉が軋む音が夜に響いた。
「ブオッ、ブオッ!」
「悪ぃな、牛鬼。苦しませたくない。カタつけさせてもらうぜ!」
利蔵は両手に再び炎の大剣を作り出し、
牛鬼の脳天へと叩きつけた。
「南無!!」
牛鬼の体は真っ二つに割れ、そのまま灰と化し、闇夜に消えていった。
一切老いを感じさせない光明の動きは、鴉天狗を焦らせた。
「くっ!」
だが、光明は違和感を覚えた。
鴉天狗の意識は、結界を守る道心には一度も向けられていない。
その斬撃は、執拗なほど光明だけを追っていた。
「勝つつもりなら、あるいは神域への進入が目的ならば……」
結界を守り見守る道心も、気付いていた。
「光明殿が強いのは、わかるが……あの鴉天狗……」
「それに、こやつの剣……」
鴉天狗の太刀筋に力を感じない。
否、意思を感じない。
光明は、しつこく斬撃を繰り返す鴉天狗に手を向けた。
「ハッ!」
光明から放たれた雷撃は鴉天狗を直撃し、刃を砕いた。
「どうした、鴉天狗」
再び刃を作り出し、向かってくる鴉天狗に、光明は鋭い視線を向けた。
「お主……まさか」
光明は両手を鴉天狗に向け、全身を纏う青白いオーラを集中させた。
「フンッ!!」
光明が力を込めると、青白い光が一気に膨張した。
圧縮された空気が破裂音を上げ、境内を揺らす。
「グアァァァァ!!」
鴉天狗は光に呑み込まれ、その身体は輪郭を失い、霧のように掻き消えた。
「光明殿!」
道心は光明に駆け寄った。
「……式神じゃ」
利蔵は、ゆっくりと天を仰いだ。
「狙いは……」
「翔じゃの」
道心が息を飲む。
「何故、翔くんを? ワイルドブラッドだからでしょうか?」
「それもあるじゃろうが……ここでの式神の振る舞い、牛鬼……神域ではなく、サニワそのものを狙っておるようにも見える」
その時、古戦場に神官の声が響いた。
「立花さん! お、音葉ちゃんがいません!」
「何!?」
──その頃。
無数に現れる怪物を前に、徐々に押されつつある三人は、
互いの背後を背中で預け合い、応戦していた。
「翔、キリがねえぞ。こいつら、次から次へと湧いてきやがる」
「やるしかねえ! 蘭! 突っ込むな、囲まれるぞ!」
勢い余って前方に飛び出た蘭を、怪物たちが即座に囲んだ。
「くっ! こいつら、バカじゃないわね!」
四方から飛んでくる槍を巧みに交わす蘭だったが、
ついにその一つが蘭の足を捉えた。
「グッ!! やば……」
「蘭!!」
翔が助けに入ろうとも、前方を塞がれ近づけない。
怪物は容赦なく、蘭に向かって槍を振り上げた。
「翔くん、ごめん……万事……休すかも……」
──その時。
鳥居から蘭に向かって、大きな閃光が走った。
その閃光は、槍を振り上げた怪物の頭を吹き飛ばした。
「なっ、なに!?」
三人が鳥居に目を向けると、紫のオーラを纏い立つ人影があった。
「お、音葉! なんでお前がここに!?」
黄泉口神社にいるはずの音葉が、
なぜ──ここにいる。
翔、鉄喜、蘭。
三人は言葉を失い、顔を見合わせた。
音葉は答えることなく、錫杖を地面に突き刺した。




