第40話 真夏の超常決戦【宵】〜祭りの夜に、闇は笑う〜
「──陽が沈んだのう」
黄泉口神社の古戦場に立つ光明は、鋭い眼光を見せた。
利蔵は、ゆっくりと辺りを見回すと、静かに口を開いた。
「どこから来る……」
道心は錫杖を強く握った。
「この前は、あの茂みから土蜘蛛が……」
光明はニヤリと笑った。
「もう来とる」
利蔵は目を見開いた。
「あ」
光明は目を閉じた──
「何を急いておる、鴉天狗や」
気配なく光明の後ろに立った影は、ゆらゆらと黒いオーラを揺らした。
「光明……久しいな」
光明は、青白く光る手を後ろへ振り抜いた。
その閃光が、影を切り裂いた──
引き裂かれたはずの影は、黒いオーラを揺らしながら、三人の前に立っていた。
「急いておるのは、ヌシらだ。今宵は祭りであろう。ゆるりと楽しもうではないか」
鴉天狗の姿が、焚かれた篝火に照らされ、闇に浮かんだ。
利蔵が歩み出る。
「なぜ神域を狙う。お前の目的は何だ?」
鴉天狗は面を押さえて肩を揺らした。
「フッフッフッフ……急くな、カグツチ。宴だ、楽しもう」
鴉天狗が両手を広げると、地響きと共に茂みが揺れた。
「グオオオオオォォォォ!!」
利蔵は身構えた。
「コイツァ……牛鬼!!」
光明は道心を見た。
「道心殿、そなたは結界を」
道心は頷くと、手に持っていた錫杖を地面に突き刺した──
「オン!!」
突き刺さった錫杖から、地面を這うように青白い紋様が古戦場に広がった。
「フン、ハッ!」
利蔵は両拳を握り、気合いを入れると、全身に炎を纏った。
「親父殿、オレは牛鬼を」
光明は静かに頷くと、その右手を天に掲げた。
「雷神……」
──その瞬間、轟音が鳴り響き、光明の手に稲妻が走り、その光は刀を形作った。
鴉天狗は漆黒の翼を広げると、身に纏った黒いオーラを膨張させた。
「フハハハハ、開幕──ぞ」
⸻
──陽が沈んだ、翔が守る神社の境内。
篝火の前に胡坐をかいた翔は、足元に落ちていたドングリを指で弾いた。
乾いた音が、やけに大きく境内に響く。
「……何も起こらねえな」
胸の奥に、嫌な静けさが溜まっていく。
「鉄喜も蘭も……一体どうしちまったんだ」
嫌な予感を振り払うかのように立ち上がると、ククノチの言葉を呟いた。
「倒すんじゃない。祓うんだ……か」
篝火が、ふと揺れた気がした。
突然、背筋に凍りつくような寒気が走る──
鳥居の奥の闇が、渦潮のように蠢くと、ノイズ音のような叫びが耳を劈いた。
翔は低く身構えると、闇の中から怪物が姿を現した。
巨大な体躯、カラスの頭、猛々しい四本の腕に大きな翼。
霧のような漆黒のオーラを身に纏う。
──あいつだ!!
「ギシャァァァァ!!」
誕生日、翔と鉄喜を絶望の淵に叩き込んだ因縁の存在、鴉天狗の式神。
一瞬身震いした翔は、拳を握り締め、力を込めた。
──怖くない。
そんな感覚に、幾許かの驚きを感じ、ニヤリと笑った。
鉄喜の言葉が浮かぶ。
──リベンジってわけだ。
「ああ。てめえのおかげで、とんでもない人生になっちまった。覚悟しろよ、このやろう」
翔の背中を照らす篝火の火が揺れ、パチッと音を鳴らした。
──瞬間、翔は躊躇いなく怪物の懐に飛び込んだ。
四本の腕が翔を襲う。
その隙間を柔軟な体捌きで掻い潜り、怪物の脇腹に強烈な左フックを叩き込んだ──
「グオォォォ! サニワァァァァ!」
一歩後退した怪物は、赤い目を光らせ、オーラを手に集中させ、大槍を作り出した。
翔は笑う。
「フン。ワンパターンなやろうめ」
風を切り裂くように放たれたその大槍を躱した翔は、瞬時に怪物の後ろに回り、翼めがけて手刀を振り下ろした。
仄かに赤く光る翔の手刀は、美しい半円を描き、その翼を切断した。
「グアァァァァ!! ワイルドブラッドメェェ!」
よろよろと後退る怪物。
恐怖の根源となった怪物を前にしても、今日の翔に迷いはなかった。
「一気に終わらせるぜ!」
翔は全身に力を込めると、赤いオーラを身に纏い、地面に手をついた。
「ワイルドブラッド。いまだにオレには何なのか、よくわからねえ……だけど、今宵は──」
クラウチングスタートのような体勢を取る翔を見下ろす二つの目が、不気味に赤く光った──
「──お前を倒す!!」
だが、スタートを切った瞬間、翔の足に何かが巻きついた。
「なっ!? し、尻尾!?」
怪物が滑り込ませた、鞭のような尾──
「やべっ!」
そのまま宙吊りにされた翔の体を、四本の太い腕が捕まえた。
四本の腕は、容赦なく翔の体を締め上げる。
骨が軋む音が、はっきりと聞こえた。
──まずい。
視界の端で、篝火の炎が大きく揺らいだ。




