第35話 史上最もセンスがない
戦いの余韻すら吹っ飛ばすほどのククノチの力。
──倒すんじゃない。邪気は祓う。
3人には、その意味がわからなかった。
史上最もセンスがないサニワと言われた3人は、境内の広場の真ん中で腰をおろした。
「……邪気は祓う。どういう意味だ?」
鉄喜は頭を抱えて呟いた。
「オレ達、戦い方が間違ってるのか?」
翔は境内に生えた草を撫でながら、考え込んだ。
鉄喜は、化粧を直している蘭を見た。
「そういえば蘭、お前オレ達に出会った日、悪鬼を倒したよな?」
蘭は首を傾げた。
「あれは倒したっていうのかな? アタシらすぐ逃げちゃったし」
鉄喜は立ち上がって社殿を見ると、苦笑まじりにニカッと笑った。
「ま、考えてもわかんねえから、今度師匠に聞こうぜ! なんせオレ達センスがねえからな!」
翔も立ち上がり、お尻を払った。
「皮肉だな」
鉄喜は社殿を指差して、頭を掻いた。
「とりあえず、吹っ飛んじまったあの社殿、直さなきゃな。オレ今から実家戻って鉄枠作ってくるからさ。明日一緒にやろうぜ!」
翔はうなずいた。
「ああ。オレは掃除するよ」
蘭は背伸びしながら大きく欠伸をした。
「ふあぁ〜、アタシなんか眠くなっちゃったから、アパート帰るね」
鉄喜は顔を顰めた。
「お前本当手伝わねえな」
境内を後にした蘭は、ひとり田舎道を歩いていた。
夏の日差しが照りつける、人がいない田舎の遊歩道。
蘭は自分の手を見つめながら、ククノチの言葉を思い出していた。
──興味深いな、お前。
この女、気をつけろ──
「どういう意味よ……」
蘭は言い知れない不安を感じ、足を止めた。
「アタシが女だから? 水神だから?……なんなの」
胸の奥がざわついた。
前から歩いてくる人の気配を感じた蘭は、下を向いたまま脇に避けた。
「こんにちは」
不意に挨拶され、蘭も反射的に挨拶を返す──
「どうもー」
すれ違った瞬間、なぜか空気がひやりとした。
蘭は数歩歩いた後に、違和感を感じて足を止めた。
「ん?……人いたっけ?」
来た道を振り返る。夏の陽炎が揺れるだけで、遊歩道には誰の姿もなかった。
声も、気配も、すれ違ったはずの相手も。
「ちょっと待って……アタシ、誰に挨拶したの?」
ひとり取り残されたような感覚に、背筋がひやりとした。
──家に帰った鉄喜は、勝手知った鉄工所の作業場で、使えそうな廃材を集めていた。
「あら、鉄喜。帰ってたの?」
鉄喜は振り返ることなく答えた。
「おう、お袋。ちょっと神社を直さなきゃいけなくなってな。材料もらってくって親父に言っといてくれ」
「神社?……何故?」
鉄喜は手を止めて立ち上がった。
「何故?……」
鉄喜は珍しく答えに困って、アゴに手を添えた。
その様子を見た母親は、鉄喜の顔を覗き込む。
「アンタ……まさかまた壊したんじゃないでしょうねぇ? 入学式の日にアンタが喧嘩して壊した机、お母さんが弁償したんだからね!」
ホウキを振り上げた母親に、鉄喜は慌てて手を振った。
「ち、違えよ! あの机は翔にぶっ飛ばされた勢いで……! 今回も、オレじゃねえって!」
「今回はじゃあ誰なの?」
鉄喜は慌てふためき、道具箱を抱えて作業場を駆け出た。
母親は腕を組んで頬を膨らませた。
「全く! 最近なんか怪しいわね。翔くん、翔くんって。まさか喧嘩に負けてパシリでもやってるんじゃ……」
だがその背中には、“いままでの鉄喜とは少し違う何か”を感じた気がした──。
母親の感じたその違和感は、なぜか嫌ではなかった。
いつも壊してばかりだった鉄喜が、何かを直そうとしている。
その姿は、何かを守っているようにも、誰かに守られているようにも見えた。
鉄喜の走り去った作業場には、不思議とあたたかい風が吹き抜けていた。
──誰もいなくなった神社の境内。
翔は飛び散った社殿の残骸を集めながら、その奥を見つめていた。
「ククノチ……よく喋るのに、肝心なところ説明してくれないんだな」
──倒すんじゃない。祓うんだ。
シュッ、シュッ、シュッ。
「うーん、わからん」
翔は集めた残骸を置いて、自分の手を見つめた。
「手応えはあった。だけど……あの餓鬼と戦った時も、今の式神も、どれだけ攻撃しても“倒せる”って実感がない。あの後、何度でも立ち上がりそうで」
その瞬間、鉄喜の声が脳裏をよぎり、翔は顔をしかめた。
「ちっ、なんであいつの言葉が、いつも割り込んでくるんだ……」
スサノオに打ちのめされた次の日、鉄喜が言ってた。
──オレ一晩中考えたんだ。強さって一体なんなんだろうって。
うまく言えねえけど、あの2人の強さって、単純に身体能力とか喧嘩が強ぇだけじゃねぇ気がするんだ。
お前に足りないもの。……ナンパだ!──
「ナンッ……アイツ、やっぱバカだ」




