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第34話 倒すんじゃない。祓うんだ。

立ち上がった利蔵は、無表情のままゆっくりと翔達の方へ歩む──

 黒く焦げたような足跡を残しながら、ゆっくりと。

 その様子を見た鉄喜は眉をピクリと動かした。

「翔、こいつってもしかして......」

「ああ。式神だ」


 蘭は2人の会話を聞くと歩み出た。

「なんでもいいよ。こいつはアタシにやらせて」

 

 利蔵の姿をした式神は、再びゆっくりとその手に黒いオーラを集中させて、さっきの刀よりもさらに大きな大剣を作り出すと、肩に担いだ。

 蘭はニヤリと笑みを浮かべると腕を真横に伸ばした。

蘭の指先に立ち昇った白いオーラが吸い込まれ、瞬く間に鋭い氷刃へと形を変えた。

その手で作り出した氷の刀は、小さくキィンと鳴った。

 「ふん。剣術でも、アタシは負けないよ」


 利蔵の姿をした式神は、肩に担いだ大剣をゆっくりと下ろすと、蘭ではなく──翔へ向けて踏み込んだ。


「──ッ! 翔、避けろ!」

 鉄喜の叫びが響くより早く、黒い巨刃が地面をえぐる。

翔は紙一重で横へ跳んだが、式神の一部が触れ、頬を焦がした。


 地面に突き立った大剣から黒い邪気が噴き上がり、周囲の空気がひしゃげるように揺れる。


「ちょっ......俺狙ってんのかよ!」


 蘭は軽く肩をすくめ、氷刃を構え直した。

「おじいちゃんに聞いたよ。式神は“主が最も殺したい相手”を狙う」


 式神は再び翔へ向けて跳んだ。

 目の前に黒い影が迫る。

翔は咄嗟に身を低くして拳を構えた。


「おっとッ!!」


 翔は振り下ろされた大剣の腹を払うと、式神の顔面に回し蹴りを叩き込む──


グシャっと鈍い衝撃音が響いたが、式神は表情一つ変えずに、再び大剣を担いだ。


 式神がさらに追撃しようと腕を振り上げた瞬間──


「ちょっと! アタシを無視してんじゃないよ!!」


 蘭が氷刀とともに割り込んだ。

氷の斬撃は、朝日に煌めく霜のように輝き、美しい弧を高速で3度描く。

 トドメと言わんばかりに、蘭はその氷刀を式神の背中に突き刺し、手を離して拳を握った。


 「ハッ!!」


 突き刺さった氷刀は、蘭の気合いと共に、勢いよく弾け飛んだ。


 「どうだ!」


 残心を決める蘭。


鉄喜が呟く。


 「何度も言うけど......蘭って、鬼のように強ぇな」


 しかし──。


式神は何事もなかったかのように、振り向き、肩を揺らして笑っているそぶりを見せた。


「......は? 効いてない?アタシの刀が......嘘でしょ」


 式神は蘭を一瞥しただけで、また翔へ向き直る。

 攻撃対象は最初から一貫している。


「来いよ、相手してやる......!」

 翔が構えるが、利蔵の姿を見ると決意が揺らいだ。

「やりにくいな、こいつ......」


その時社殿の方から、聞き覚えのある落ち着いた子どもの声が聞こえた。


「──お前たち」


 風が逆流したかのように空気が澄み、式神の動きがピタリと止まる。


「ククノチ!!」


社殿の縁側に座るククノチはコンビニのサラダを頬張りながら、呆れたような表情で翔達を睨んだ。


「いつまでやってんだ。それにしてもこんなモノが野菜だと?なんの栄養もないじゃないか」


 ククノチは文句を言いながら、やれやれと箸を置き、縁側から飛び降りた。


「お前ら、サニワのくせに、邪気の払い方も知らんのか?」


 そう言うと腰に吊るした小さな木刀をだらんと無造作に持って、式神に近づいた。

 トコトコと歩く姿は、ただの子どもにしか見えない。


 式神は唸り声をあげてククノチに向かってその大剣を振り下ろした。

 ククノチは口に残ったニンジンのカスをプッと吐き出すと、式神の大剣を小さな木刀で払った。


 ──カンッ


 式神の大剣に木刀が触れた瞬間、乾いた音が響くと、眩い光が弾け、式神の半身が煙のように吹き飛んだ。

 残る身体も耐えきれず、黒い灰に崩れ、風に舞っていく。


 「なっ!!なんちゅう......」


鉄喜は顎が外れたかのように大きな口を開けて固まった。


 まるで、触れただけ。

 ただの一撃。


「なに?......今の......」


蘭が唇を振るわせた。


「──見ていられん」


 ククノチは木刀を腰にさすと、埃でも払うように手をはたき翔たちへ向き直った。


「お前たちは、史上最もセンスがないサニワだ」


 境内に、しばし風だけが吹き抜けた。


 翔達は目の前で起きたことを処理できず、その場から動けなかった。

 ククノチは、自分の手元を見ながら手を数回振った。


「倒すんじゃない。邪気は祓う。シュッ、シュッ、シュッ」


 そう言い残すと振り返ることなく、また社殿の奥へ消えて行った。


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