第27話 金色の鍛冶屋
「翔!」
「翔くん!」
その様子を見守る利蔵と蘭は叫んだ。
「悪鬼!?」
「いや、月詠様の化身!?」
三重の全身はドロドロと溶け、醜い鬼のような姿をした化け物が姿を現した。
「か......あ......ちゃん」
翔と鉄喜には、三重の姿は、“普通の母親のまま”に見えている。
だが利蔵と蘭には、醜い鬼の化身として映っている。
「パパ!なんで翔くんは抵抗しないの!?」
「翔たちには、まだ化身が三重の姿に見えてる。月詠様の幻術は簡単には解けない」
三重は、ニタリと笑い、苦しむ翔の顔を覗き込んだ。
「悪い子は、お仕置きしないとねぇ」
三重は腰元から短刀を出し、翔の脇腹に突き立てた──
「グフゥ!......母ちゃん......なんで......」
翔の脇腹に突き刺さった短刀を伝い流れ出た血は、三重の手を真っ赤に染めた。
「翔おおおぉぉ!!」
鉄喜は思わず三重を体当たりで吹っ飛ばした。翔は、自分の血で真っ赤に染まる短刀を手で押さえたまま、うずくまった。
音葉の顔が苦しさで歪み、一筋の涙が流れた。
蘭は震える手で利蔵の腕を掴んだ。
「ウ......ウソだよね?幻術ってことは、あれは幻覚で......」
「幻影が……物質化している。あの血は、本物だ……」
「なっ!このままじゃ!翔くんが死んじゃうじゃん!!」
「翔のワイルドブラッドが発現すれば、あのぐらいの傷なら治癒出来るはずだが、怒りによってしか発揮できない翔は、三重を相手に発動することが出来ない......月詠様、さすがだ。本気で翔を殺しに来てる」
翔は、母である三重には本能的に怒ることができない──その優しさが、今は弱点になっていた。
蘭は震えながら、口元を緩ませた。
「あ、そう。この幻術は、あの女が使ってる術なんでしょ?」
「蘭ちゃん、何を!?」
「ってぇことはぁ......。あの女を──」
蘭は手の平の上に水の球体を作り出し、それを引き伸ばし凍らせ、氷の大弓を作り出した。
「氷弓!?蘭ちゃん、まさか!?」
「あいつを......ぶっ殺してやればいいんでしょうがぁぁぁぁ!」
蘭は、氷弓に氷の矢を3本つがい、音葉に向けて放った──
「ダメだ!!迦具土様!ハッ!!」
利蔵が放たれた矢に向かい手をかざすと豪炎の火柱が立ち、その氷の矢を溶かした。
「パパ!!なんで邪魔すんのよ!!」
「蘭ちゃん、ダメだ!音葉ちゃんも、翔も鉄喜くんも、まだ戦ってる!オレ達は見守るしかない!わかってくれ!」
「パパ。でも翔くんが......」
「きっと大丈夫!見ろ、鉄喜くんを」
深く息を吐き、翔の前に仁王立ちした鉄喜は、体に金色のオーラを放っていた。
「鉄喜くん......金剛力士の鉄壁が発現したか」
「翔......悪ぃがもう見てらんねぇ」
「......鉄......喜」
鉄喜は三重を睨みつけた。
「アンタ、それでも......翔の母親かよ。こいつが一体どんだけ寂しい思いして生きてきたか......。そんな翔を傷付けるってぇ......一体どんな神経してやがるんでぇ」
翔は鉄喜に向かって手を伸ばした。
「て......鉄......やめろ」
「オレはよぉ......。女は殴らねえ主義なんだ。だけどよぉ、何より大事なオレの親友を傷付けるような奴ぁ、誰であっても絶対に許さねえ。それが、翔の母親であっても、オレは......絶対に許さねえ。」
三重は、おもむろに黒い空間に手を突っ込み、大きな刀を抜き出し構えた。
「母親だろうが関係ねえ。お前に翔を守る資格はねえ。翔を守るのは......──
──翔を護るのは、この大森鉄喜だああああぁぁぁぁ!!!!」
鉄喜は両腕にオーラを集中させ一気に間合いを詰めた──
「おぉぉぉらぁぁぁぁぁ!」
三重は向かってくる鉄喜に刀を振るう──
「きえええぇぇい!!」
鉄喜は振り下ろされた刀を左腕で弾き飛ばすと、間髪入れずに右腕を三重の腹に向けて振り抜いた──
「があぁぁ!」
黄金に輝く金剛力士、鉄喜の拳が突き刺さり、たまらず三重は腹を押さえて後退りした。
「翔の母さんよぉ。アンタが翔の腹に短刀を突き立てたこと......オレが全てを被ってでも許さない。翔、悪ぃがオレが終わらせてやる。お前が一生オレを恨んでも、たとえオレのことを殺そうとも......」
利蔵は目頭を熱くし、拳を握り締めた。
「鉄喜くん......」
鉄喜は再び右腕に金色のオーラを集めて、振りかぶった──
「今、オレがお前を護らなきゃいけねえんだよおおおおぉぉ!!おおおおぉぉぉらああああぁぁぁ!!」
鉄喜が全力でその拳を振り下ろした時、三重を庇い翔が立ちはだかった。
「ちょっ、バカ!」
無情にも鉄喜の拳は翔を捉え、翔は血飛沫を上げてながら吹き飛んだ──
「翔!!てめえ、何してんだ!!」
ピクリとも動かない翔を見て、三重はニタリと笑った。
「ウフフフ、あなた翔を殺してしまったわね。アハハハハ!親友が死んでしまったわよ!どう責任をとってくれるのかなぁ、大森鉄喜くん」




