第24話 つくよみおとは
道心は、心配そうな表情を浮かべて、利蔵に問いかけた。
「利蔵ちゃん、ここにきたということは、アレをやるという事でいいんかの?」
利蔵は静かに頷き、翔と鉄喜を指差した。
「はい。ここにいる2人に」
「うーん、サニワの能力を発現したばかりの子にはちいと厳しいと思うが、大丈夫かのう?」
「魂の強さは確認しました。」
「今回は2人の繋がりの強さも試される」
「これまで2人を見てきたので大丈夫かと」
「翔くんは、ワイルドブラッドと聞いたが......神社にある文献をどれだけ調べても、前例がない。どうなるかも全く予想つかぬ。ちょいとペースが早すぎるような......」
「時間も迫ってきていますし、今やるしか......おいちゃんお願いします」
道心からは、利蔵が来たる何かに備えて、少し焦っているようにも見えた。
「ふむ。利蔵ちゃんの子どもだ、きっと大丈夫じゃろ。だが、今日は私ではなく、音葉にやらせるつもりじゃが、よいか?」
「はい」
立花音葉、イザナギ、イザナミから生み出されたとされる最上位クラスの神月詠を守神に持つサニワ。
月詠を守神に持つサニワの神技は幻術と言われるが──
「音葉は、ワシの霊力を遥かに超える力を持っておる。しかも最上位クラスの神、月詠様が守神についておる。彼らの能力を引き出すにはうってつけだとは思うが」
そう言うと、道心は下を向いた。
利蔵はそれを察するかのように問いかけ返した。
「おいちゃん。おいちゃんこそ、大丈夫かい?」
道心はぎこちなく笑った。
「実はなぁ......音葉が神技に開眼した1年前、シシに襲われた飼い犬を守ろうと、月詠様を降ろしてしまったことがあってな──」
音葉は一瞬だけ、右手を胸元へそっと当てた。
──あの日の感触は、今も鮮明に残っている。
──音葉は1年前、神社に入ってきたシシに襲われている飼い犬を助けようと、思わず祝詞をあげて月詠の名を呼んだ。
次の瞬間、身体の内側から冷たい月の光が噴き上がった。
視界が白く染まり、気づけば錫杖を握っていた。
月詠が憑依した音葉は、錫杖で目の前のシシを撲殺し、そして愛犬も──
憑依した月詠はそのまま音葉の意識を乗っ取ろうと、数日間彼女の意識の中に留まり続けた。
音葉は必死に抗っていたが、やがて彼女の体は衰弱し生死の境を彷徨った。
月詠の力が弱まる新月、道心と音葉は力を合わせてなんとか月詠を還した。
「──月詠様は厳しい。自分を降ろすサニワの器を徹底的に図る。器が違えば、容赦なく命も奪う......そのトラウマから、音葉は月詠様の声を聞くこと今日まで拒否してきた。だが......サニワとして生まれた以上、神々の声を聞かぬわけにはいかぬ。そうじゃろう、利蔵ちゃん?」
道心は拳を握った。
「音葉ちゃん......そんなことがあったのか」
利蔵は音葉を遠い目で見つめた。
すると道心は何かを決心したかのように手を叩いた。
「だが、あの若い3人のサニワを見てハッとした。圧倒的な活力と内に秘める熱情で、誰もが必死に戦っておる。音葉も逃げているだけではいかん。そろそろ彼女も戦わねば」
「......おいちゃん」
「月詠様......音葉が一生向き合うにふさわしい最上位神じゃ。何より若い彼らには立派になってもらわないと困るでな。大きな試練となるが、頑張ってもらおう」
道心は、音葉を広場の中央へ行くよう合図した。
利蔵は何も言わずに静かに頷いた。
「さて、ではやろうかの。音葉、準備はええか?」
「はい」
利蔵は、広場に一礼して翔達を振り返った。
「よし!始めよう!」
「師匠!何をするんですか?」
「説明しよう!翔!鉄喜くん!君たち2人には、これからそこにいる音葉ちゃんと戦ってもらう!」
翔と鉄喜は驚いて音葉を見た。
「え!?」
「ガハハハハ、シンプルだろ?」
「しっ、師匠!そんなことオレには出来ません!流石にオレ、女の子に手をあげるのは......」
翔も利蔵に向き直った。
「そりゃ、無理だ、お父。死んじまうぞ、音......葉が」
蘭は話を聞いて、ぴょんと岩から降りた。
「いいじゃん!いいじゃん!やっちゃいなよ!その子、サニワだよ!ボコボコにしちゃえばいいんだよ、エヘ!」
鉄喜は声を荒げた。
「何言ってんだ、蘭!仮に、どんなに音葉ちゃんが強かったとしても、こんな可愛い子を......無理だ」
翔は音葉の方をじっと見た。
モジモジする2人をよそに、蘭はズカズカと音葉に近づき睨みつけた。
「情けない男達。いいよ。代わりにアタシがやっちゃおうか?ねえ、音葉、ちゃん?」
やたら喧嘩腰の蘭に苦笑いして下を向いた音葉。
「あ、いえ、私は......ただ......」
たまらず利蔵が割って入った。
「まあまあ、蘭ちゃん落ち着いて。今日は2人のレッスンなんだ。キミのようにサニワの力を少しでも使えるようにね。そのために、音葉ちゃんに協力してもらうだけだから」
「フン!大人しい顔して、アンタ白々しいんだよ」
「すっ、すみません!そっ、そんなつもりじゃ......」
たまらず鉄喜は声を荒げた。
「蘭、お前いい加減にしろよ!音葉さんが怖がっちゃうじゃねーか!」
蘭は音葉に背を向け鉄喜を睨んだ。
「うるさいわね!バカは黙ってなさいよ!」
翔の横を通り過ぎる蘭は、小さな声で呟いた。
「翔くん。あの女、ヤバいよ。気をつけて。」
「......」
利蔵は手を叩いた。
「オホン!じゃあ、気を取り直して、始めよう。翔、鉄喜くん!音葉ちゃん!準備はいいかい!」
「ああ、いいぜ、お父」
「いや、翔......マジか......うう多分......OKです」
道心は少し躊躇う音葉の肩を笑顔で叩いた。
「音葉、お前なら大丈夫じゃ。やりなさい」
音葉は唇を噛んだ。
──これ以上逃げるわけにはいかない。
「......はい」
音葉は静かに頷くと広場の中央に立った。




