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第23話 神域への入り口──配慮

  蘭は助手席で実の父親かのように利蔵にベタベタと甘え、その様子を不機嫌そうな顔で睨みつける翔、隣では大きな体を揺らしながらノリノリで歌を歌う鉄喜。

 騒がしい御一行は小一時間山道を走り随分標高の高い山の中腹にある神社に到着した。


比較的大きな神社だが、観光客もまばらで、静かな雰囲気を保っていた。

「よーし、着いたぞ」


 利蔵は車を止めスタスタと社殿の方へ歩き始め、3人は辺りをキョロキョロと見回しながら利蔵に着いて行った。

「お父、ここは?」

「おう、ここは黄泉口神社だ!お前が小さい頃はよく連れてきてたぞ」


黄泉口神社。

眼下には今まさに立ち昇ってこようとする雲海が広がり、朝露でしっとりと濡れた境内が神聖な空気を纏っていた。


 確かに、翔はこの神社をうっすらと覚えていた。その時は、時折母親もいた気がするが──


「おお、利蔵ちゃんかね!久しぶりだね」

鳥居をくぐるとすぐに、装束を着た元気そうな年配の宮司が声をかけてきた。

「おおこれは、立花のおいちゃん!」

「はは、この子達がそのサニワ見習いの高校生達かね?」」

利蔵は、翔と鉄喜を振り返った。

「翔、鉄喜くん、蘭ちゃん、この方は立花道心さん、この神社の宮司だ!そして、サニワだ!」

立花道心と呼ばれた人の良さそうな初老の宮司は笑顔を浮かべ境内の中へ促した。

「ははは、遠路遥々よくきたな!まっ、お茶でも飲みなせえ」


 4人は本殿にお参りを済ませると、道心に案内され社殿の傍にある社務所に通された。

「いやぁ、みんな若いねえ。体から活力が湧き出ているように見える」


 蘭は満面の笑みでピースサインを作った。

「ピチピチでしょ!」

「うんうん。ええこっちゃ、ええこっちゃ」


 道心は3人の顔を見回すと驚いた顔をした。

「おや、たまげた!あんたは、翔くんかい?」

「......はい、そうです」

「あんたも、なんちゅう大きいなって!時が過ぎるのは早いのう!ほれ、覚えとらんかね?まんだ小さい頃にうちの孫の......」


 すると社務所の奥から黒髪の女の子が顔を出した。

「翔くん?......」

「ん?」

「わっ......わたしのこと、覚えてる?」

「え?......」

「音葉。小さい頃は、翔くんとよく追いかけっこしてた。翔くんは、わたしのこと、おと!おと!って呼んで......」

「あ、覚えてる」

「ハハハ、境内で2人よう一緒に遊んでおったなぁ!ワシの孫の音葉も大きいなったじゃろ!確か翔くんの一つ上だったかの」

「翔くんの赤い髪、昔から変わらないんだね。」

「あ、うん」


 2人の会話に鉄喜が割り込んだ。

「おっ......音葉さん、めちゃくちゃ可愛いっすね!はじめまして!オレ、大森鉄喜って言います!オレ翔の親友なんです!こっ、今後ともよろしくお願いします!」

「鉄......喜くん?はい。音葉と言います。こちらこそよろしくお願いします」


 2人の会話をものすごい形相で聞いていた蘭は、鉄喜の足を蹴った。

「いてっ!なんだよ!」

「何、あの女。翔くん?覚えてる?だって!変な服着て、なんなの、あいつ......」

「なんだお前?嫉妬してんのかよ?まあ、仕方ねえ、あの人めちゃくちゃ可愛いぞ!」

「お前ホントにウザいな、マジで。おと!おと!ってあの女を追っかけてたって翔くんも、キモすぎるんだけど。赤い髪も変わらないんだね、とかあの女、地味な顔して、いちいちあざといし!」

「初めて会った人に、よくもそこまで悪口が出てくるな、お前......」


「フン!気分悪い」

 蘭はお茶を一気に飲み干して社務所を出て行ってしまった。


道心はニッコリと笑って、翔達一向を促した。

「境内を少し案内しましょうか?」


 翔達は社務所を出て、本殿の裏手にある立ち入り禁止の札が下がるロープを跨いだ。細い歩道を少し歩くと、綺麗に整地された広場に出た。


「ここは?」

 鉄喜が口を開くと、道心は広場に向かって礼をした。慌てて後に続いて礼をする鉄喜。鉄喜が顔を上げると、音葉が静かに話し始めた。


「ここは古戦場跡です。600年ほど前にあった戦において敵軍に敗れ、この神社に逃げ込んだ武者達が最後まで敵軍に抗った場所。怨霊が住まう地とまで言われています」

 激しい戦の跡は一切伺えず、小鳥が朝の訪れを告げていた。


 鉄喜は怯えた表情で音葉の話に聞き入った。

「いっ......お化けがいるってこと?」

 音葉はニコリと笑った。

「おじいちゃんの更に先先代様が、御祈祷によりその魂をすでに浄化し、ご成仏されております」

「よかったぁ!それにしても音葉さん......可愛い!!」

音葉は鉄喜に軽く会釈して続けた。

「この場所はかつての悲劇を繰り返さないため、人の雑念や邪気の侵入を防ぐために代々立花家が結界を張り、神聖な場所として守ってきました。あの奥に見えるのがこの地方の神域の中心と言われる黄泉口山脈。ここはいわば、神域への入り口」


 鼻の下を伸ばす横で、翔は難しい顔をして呟いた。

「そんな神社で今日はどんな訓練を......」


「ここは、神々、そしてサニワしか足を踏み入れない。一切の邪魔が入らないようにと、お父様のご配慮......だと思う」


いつのまにかついてきていた蘭は、鉄喜の後ろで呟いた。

「やーな予感しかしない」

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