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第21話 記憶──もうヤダ

「おう、翔!今日は早いな!」

「ほほ、翔。帰ったか。」

「ただいま。あ、じいちゃん、いたんだ」

「ほほ、ちょっと野暮用での。ワシもさっき帰ったばかりじゃ」

「あの......さっき、蘭って女に会ったんだけど、その女、じいちゃんのこと......えっと、海堂って名乗って......」

「ほほ、蘭に会ったかの?会ってこいと言うたからの」

 光明は静かに長いヒゲを撫でた。

「え、やっぱりほんとだったんじゃ!?あいつ、じいちゃんの事、ワタシのおじいちゃんって...どういうこと?」

「ほほほ、正確にいうと、おじいちゃんではないんじゃがな」

「えっと......どういうこと?」


光明はふと視線を落とし、ゆっくりと話し始めた。

「ほほ、蘭はのう──」


 蘭の本名は、氷室蘭。通常サニワは、翔や鉄喜のように16歳の誕生日を迎えるとその能力を発現し始めるが、蘭は2歳でその能力が発現した。


 2歳ではその能力を制御出来ず、彼女の能力により何度も両親は命の危機に直面した。


 サニワの存在など全く知らなかった両親。母親には新たな命が宿っていたこともあり、蘭の能力に恐怖し、ある神社を頼った。


 たまたまその神社を訪れていた光明は、彼女が能力を制御出来るようになるまでという事で蘭を引き取ることになった。


 ある時、その事実を知った蘭は、両親に失望し、彼女は氷室姓を名乗ることを拒否。


 戸籍上の苗字は氷室だが、彼女は育ててくれた光明の苗字、海堂を名乗り、過去の記憶を消そうとしている──


「......というわけなんじゃ」

「そっか......じゃあ、あいつは、いとこじゃないんだな」

「そうじゃの」

「じいちゃんがそんな子どもを育ててたなんて...お父は知ってたのか?」

「そんな話昔聞いたことがあったような気がするが、なんせ親父殿はほとんど顔見せなかったしな......その子がサニワだとは知らなかったな」

「ほほほ、そうじゃの」


翔は、目の前の水を飲み干し、天井を仰いだ。

「オレは......知らないことばかりだ」

「とにかく大変な子じゃった。なんせ2歳でサニワの能力を発現するなど、前例を聞いたことがなかったからのう。そんな事を全く知らぬ蘭の両親も大変だったはずじゃ。サニワの存在が人々から忘れられていくというのは、残酷なもんじゃのう」

「あいつ......さっきは、かなり自分の能力を使いこなしてた。それに会ったこともないのに、オレたちがサニワだって知ってた」

「ほほ、早い段階で能力が発現した分、自分の能力との付き合いも長いからの。あやつの神技は相当なもんじゃぞ」


翔は少し悔しそうな表情をした。

「......黒い霧を纏った男をぶっ倒して、姿を現そうとする悪鬼を、一瞬で消し飛ばしたんだ」

「そうじゃったか......。無闇に手を出すなとは言っておるのじゃがのぉ。困ったもんじゃ」

「夏の間はこっちにいるとかなんとかって......」

翔は訝しげに光明の顔を覗き込んだ。

「ほほ、そうじゃの。サニワの能力を発現したお主のお手本になることもあるかと思っての、この近くのアパートに部屋を借りてやったわい」

「げっ、この近く......?」

翔は顔を歪ませた。

「あやつも年頃じゃ。もう1人で生活できるじゃろ」

「友達と遊ぶって言ってたけど...あいつこっちに友達なんているのか?」

「はて?あやつに友達なんておったかのぉ?」

「......」


翔は暗くなった窓の外に目をやった。

「オレのお手本ねえ......」



──アパート前を流れる小川。蘭は、その川にかかる小さな橋の欄干に座り、小さな街灯が照らすその水面を見つめていた。


「何、この田舎......静か過ぎて嫌になる」


夜の見慣れない住宅街の静けさが、思い出したくない過去の記憶を、激しく呼び起こしてくるような感覚に、どうすることも出来ない彼女は静かに唇を噛んだ。


──蘭! 大変よ、あなた! また蘭が──

──なっ、なんなんだ、これは一体!?

──ひっ…! このままじゃ私たちが危ないわ! なんとかして!──

──お前、腹の子は大丈夫か!? くそ、オレの足まで凍って

──何かの呪いなのか!?

──きゃああああぁぁ!!

──こんな子......オレたちには、もう──


 頭の中に響く悲痛な会話を断ち切るように、蘭は晩ごはんに買ったコンビニの弁当が入った袋を川に投げ捨てた。

「......なんなの。親の顔なんてもう覚えてないのに...嫌だった事だけはっきり覚えてる。アタシが悪いの?アタシが変な力持って生まれて来ちゃったから?......仕方ないじゃん........誰かアタシを......蘭は悪くないって言ってよ......」


蘭は思わず顔を両手で覆った。

「......もうヤダ」


見慣れない静かな住宅街。

独りの夜が、彼女を冷たく包み込んだ。

その静けさは、彼女だけを置き去りにしたまま、夜の色を濃くしていった

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