第19話 ナンパの行末──迷いすぎだよ
ファミレスに移動した翔と鉄喜は、ナンパした女子高生ギャルを前に、黙り込んでしまっていた。
「話せって、何話すんだよ」
「名前とか、好きな食べ物とかあるだろ」
「じゃあ、褒めろ。可愛いねとか」
「言わねーよそんなこと」
目の前でコソコソ話す変な高校生2人をじっと見つめる女子高生。
「ねえねえ、ラテ飲み終わっちゃった」
鉄喜が慌てて手を挙げる。
「あ! もう一杯どうっすか!」
「じゃあ、タルトも頼んじゃおうかな」
翔は頭を抱えた。
「……一体なんなんだ、この時間は」
たまらず鉄喜が身を乗り出した。
「おっお姉さんは、おいくつなんですか?」
「高校1年だよ!」
「え、タメなんだ!大人ぽいから、年上だと思ったぜ!オレは鉄喜!コイツは翔ってんだ!よろしくね!」
その時、慌てた様子でガラの悪い男3人組が店内へ走り込んできた。
3人は翔達のテーブルの横に立ち怒鳴った。
「おい、ガキ!舐めたことしてくれたなぁ!」
「金だけ取って逃げるとは、いい度胸してんじゃねえか、クソアマがぁ!」
翔と鉄喜は顔を見合わせた。
「なあ、翔。デジャブか?なんか似たような展開、前にもあったな」
「ああ、あったな」
男は女子高生の腕を掴んだ。
「おら!外に出んかい!」
翔と鉄喜は思わず立ち上がった。
「おお?なんだ、ガキどもは、引っ込んでろよ!お前らには関係ねえ!」
鉄喜はため息をついた。
「おっさん達、悪いがそりゃ無理だ。」
翔は、女子高生の腕を掴んでいる男のお腹をポンポンと叩いた。
「おじさん、いいから、その手離して外出よう」
翔達と柄の悪い3人は、ひと気の無い駅裏に移動した。
「そこのガキ2人は引っ込んでろ!金払った分、楽しませてもらわなきゃいけねえからなぁ!」
翔は女子高生の方を見た。
「......金、貰ったんか?」
「貰ってないよぉ。怖ぁい」
男は激昂した。
「ふざけんなよ、売春女め!」
鉄喜は翔を見た。
「なっ、なあ、どうする?」
翔は頭をかいた。
「どうするったって......」
翔達が迷っていると、1人の男が黒塗りの車から降りてきた。
「野郎ども、こんなところで何油売ってやがるんだ!取立てはどうした!」
「おっ親分!」
どうやら3人のボスのようだ。
「それが、あのガキが金を取りやがって、今とっちめてやろうかと......」
「なんだとぉ!」
翔と鉄喜はあることに気づいた。
「おい、翔。」
「ああ、黒い霧だ。あいつに」
親分と呼ばれた男には、あの日の男のような黒い霧が纏わりついていた。
「やるか?」
翔は一瞬、迷った。光明の言葉が頭を過ぎる。
――悪鬼がついているからといって、無闇に手を出していいわけじゃない。
ガラの悪い3人は女子高生に詰め寄った。
「こっちへ来い!ガキが!後悔させたるわ!」
そのうちの1人が再び彼女の腕に手を伸ばした。
「翔!」
「ああ......仕方ないよな」
「おう!」
鉄喜はその豪腕でその男を掴み、叩きつけた。
「グフッ!」
鉄喜が投げ飛ばす間に、翔は後ろにいた2人を蹴り飛ばした。
「ギャッ!」
「グォ!」
「ああ、やっちまったぁ......」
黒い霧を身に纏った男は笑った。
「フハハ、手を出したなぁ、ガキども!もう取り返しつかんぞぉ!」
「翔、あの黒い霧のやつは......」
「ああ、やっやるしかない......かも」
今日は、迷いが強い。
餓鬼と出会ったあの日と全く同じ展開。
それが余計に翔の迷いを生んだ。
──またオレはきっと暴走する。
頭の中で光明が返事をする。
──ああ、するじゃろな。
「オレは、どうすれば......」
それでも翔は一歩踏み出した。
──だが、その一歩は、遅すぎた。
彼女は震えていなかった。
むしろ、男たちを見て——小さく、舌打ちした。
鉄喜が慌てて叫ぶ。
「おい!何してんだ、危ねえぞ!」
彼女は翔達の方を振り返った。
「フフ、迷い過ぎだよぉ、アンタたち」
そう言うと彼女はニヤリと笑い、拳を構えた。
彼女は一度だけ、深く息を吸った。
次の瞬間だった。
「こういうキモオヤジはね……」
男の体がくの字に折れた──
正拳突き、一閃。
彼女は何も言わなかった。
間髪入れない回し蹴りが、男の意識を刈り取った。
翔と鉄喜は目を丸くした。
「いや......あの子」
「強い」
彼女は仁王立ちしたまま叫んだ。
「──出てこい、悪鬼!」
翔と鉄喜は顔を見合わせた。
「今、あの子......」
「ああ、悪鬼って......」
男に纏わりついていた黒い霧は女子高生の前に集まり、何者かの形を作り始めた。
「させないよ!」
女子高生が、拳を握ると、その拳から白い霧のようなものが立ち上がる。
「はあああああぁぁぁぁ」
「なんだあれ!?」
「拳が、光ってる......」
「そおぉぉぉりゃぁぁぁ!」
彼女は、光る拳を黒い霧に向かって突き刺した。
霧の中から、断末魔のような声が聞こえた。
「ぐあぁぁぁぁぁぁ!」
やがて黒い霧はチリのように砕け散り、翔達の目の前から消えた。
鉄喜は翔の耳元で囁く。
「なっ、なんだあれ!?悪鬼が出てくる前に霧が消し飛んじまったぞ。あの子一体なんなんだ」
「わからない......」
終わった、はずだった。
なのに、翔の胸の奥には、何か置き去りにされたような感じが残った。
それは悔しさでも、羨ましさでもなく。
目の前で起きたことを、うまく飲み込めないまま。
翔と鉄喜が呆気に取られていると、彼女は振り返り笑顔を見せた。
「アンタ達サニワだよね!」
「何っ!?」
「なんで知ってんだ!?お前は誰だ!」
「エヘへ、アタシは蘭!海堂蘭!」
「海堂──蘭?」
「エヘ、アタシもサニワだよ!」
「お前が、サニワだって!?」
「海堂って、どこかで......え、海堂だってぇぇぇ!?」
【あとがき】
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
現在第69話まで書き終えました
少しでも気になった方は、ぜひ続きを読んでみてください。
今後ともよろしくお願いします。




