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第18話 お前に足りないもの──シマウマを狙うライオン

「おはようございます!!」


早朝のペットショップに鉄喜の大声が響き渡った。


「おう、鉄喜くん! 今日は休みでいいんだぞ、どうした?」


「翔、いますか!?」


「おう、そこ」


利蔵は鉄喜の後ろを指差した。


「ひっ! びっくりしたー! スサノオ様みたいに突然後ろに立つなよ!」


「お前が見てなかっただけだろ。なんだよ」


「いや、遊ぼうと思って! 親友だろ!」


「遊ぶって......」


「師匠! いいですか、翔連れてっても!」


「いいぞー!」


「よし! 翔! たまには街でぱっと遊ぼうぜ!」


「......」


利蔵は、バス停に向かって歩いていくデコボココンビを見送った。


「利蔵や、どうじゃ、あの2人?」


「親父殿」


「ククノチ様にスサノオ様、なかなか初日からハードじゃったの」


「それでも、奴ら疲れも見せず大したもんです。2人とも相当強い魂を持っているかと」


「ふむ。間に合うかの」


「どうでしょうか。翔はワイルドブラッドを全くコントロール出来ず、その糸口すら......。鉄喜くんは片鱗となるオーラを一瞬見ましたが、身体の危機にあっても鉄壁が発現せず......」


「そうか。翔のワイルドブラッドは明らかに怒りに反応しているようじゃが、鉄喜くんの鉄壁は、自分の危機にあっても反応しないと」


「ええ、そのようです」


「ふう、間に合えばよいがの。夏の終わりまでに」

利蔵は視線を落とした。

「はい」


街へ向かうバスの中、鉄喜はウキウキが抑えきれない様子で翔に話しかけた。


「いやぁ、翔! お前とこんなに仲良くなれるなんて思わなかったぜ、ハハハハ!」


「仲良くなってねーよ」


「まあ、そう言うな! それより、オレ昨日の夜、興奮して寝れなかったんだ! ククノチ様、スサノオ様、一気に2人の神様に会えたんだ! すごいよな! ビビッちまったぜ!」


「ククノチに、ガキって言ってたけどな、お前」


翔の返答は待たずに一方的に話し続ける鉄喜。

「それでよう、オレ一晩中考えたんだ。強さって一体なんなんだろうって」


翔は鉄喜を横目で見た。

「......」


「あの2人の神様、特にスサノオ様は実際に戦うのを見たし、ククノチ様もガキの姿してとんでもねえ強さが伝わってくるだろ?」


「まあ......」


「でもよ、うまく言えねえけど、あの2人の強さって、単純に身体能力とか喧嘩が強ぇだけじゃねぇ気がするんだ。なんというか、それ以外の力みたいなのがビンビン伝わってくるって言うか」


「......」


「でよ、翔。オレはお前のことも考えたんだ。お前も喧嘩はバケモン級の強さだろ。特にワイルドブラッドを発揮してるお前は、もう完全に人智を超えてる。正直、ワイルドブラッド発現してるお前には、オレ勝てねえよ」


「ふん」


「でもなぁ、お前にはなんというか......脆さみたいなもんを感じるんだ。弱さとまでは言わねえが、なんか足りないっつーか。ああいうとんでもねえ神様と比べるのもなんだが......」


「なんかお前......喧嘩売ってんのか」


翔の目元の血管がピクピクと動いた。


「いや、違うんだ、聞けよ! オレわかったんだ! サニワは、神様と人間の間に立って架け橋になるんだって、師匠が言ってただろ?」


「それが、なんだよ」


「翔、お前は神様に好かれてる。ククノチ様見た時もスサノオ様見た時もそうだった。お前は神様に好かれる奴なんだ」


「だから、なんだ?」


「でもお前、人間のことを全然知らねえ。コミュニケーションも苦手で、そもそも興味がねえ。そうだろ?」


「何が言いてえんだよ」


「それじゃあ、神様と人間の間に立つことは出来ないんじゃないかって。それがお前に足りないもんじゃないかって思ったんだ。神様も人間も味方につけられたら、お前はもう無敵になれるんじゃないかって」


「そんなもん、どうにも......」


「なるんだよ! オレは閃いたんだ! 今からそれをやる!」


「何すんだよ」


鉄喜は深く息を吸って、大声で叫んだ。


「──ナンパだ!!」


「ナッ、はぁ?」


「お前に必要なトレーニングは、ナンパだ!! だから今から、可愛いぃ〜ギャルを街でナンパするんだ! ハッハッハッハッ!」


「頭おかしいんか、お前......」


「心配するな、翔! オレが先に手本を見せてやるからな! 今日はオレがお前の師匠だ! オレを見習いなさい、親友よ! ガハハハハ!」


街の中心地にある広場のベンチに座り、呆れて空を見上げる翔の横で、シマウマを狙うライオンのような目で行き交う人の品定めをする鉄喜がいた。


 昼下がりの広場は、制服姿の学生や買い物客で賑わっていた。


「おお! ギャル発見! しかも2匹! よし、行ってくるからよく見てろよ!」


鉄喜は翔の肩を叩きベンチを立った。


「ねぇねぇお姉さん達、何してんのぉ? オレ鉄喜って言うんだ! そこのカラオケ行きませんかぁ?」


「え、無理。行こ」


「うん」


「ちょっちょ、待った! ねえ、お願い、1時間だけ! 2人とも可愛すぎて、オレも無理なんだって、ハハハハ!」


「キモい、マジ」


「何、怖いんだけど......」


「いや、そんなこと言わずに、きっとオレの歌声聴いたら惚れるから! 下手くそだったら帰っていいから、ね? ね?」


遠目で鉄喜の様子を蔑んだ目で見ていた翔は、恥ずかしくて顔を覆った。


「一体......何を見せられてんだ、オレは......」


翔は5分ほど鉄喜のナンパを見ていたが、その場にいられず立ち上がった。


「アホくさ......帰ろ」


その場を離れようと背を向けた翔だったが、後ろから聞こえた笑い声に思わず振り返った。


「ね! ね! オレ面白いっしょ?」


「キャハハハ、マジウケる! でもアタシらこれから塾だから、ごめんね!」


「え、塾? お嬢なの? 頭良い系? じゃあ、オレ超バカだから相性いいね逆に」


「逆ってなんだよ、マジ面白いんだけど、この人、キャハハハハ」


「仕方ねえ、お嬢達だなぁ。じゃあ、LINE教えてくれたら、許してやるよ今日は」


「何コイツ謎の上から目線、キャハハハ! いいよ、仕方ないから教えてあげる!」


「よし! じゃあ、明日デートな!」


「キャハハハハハ! はえーよ。じゃあね!」


「おう!」


どうだと言わんばかりに翔に向けてガッツポーズする鉄喜に、翔は背を向けた。


「おいおいおい、翔くん翔くん翔くん! どこいくんだよ! 見てたか? オレの話術! すげーだろ!」


確かに内心は感心した翔だったが、今更態度を変えられるほど器用ではなかった。


「帰る。バカバカしい」


「バカ言え! 今度はお前の番だ! さあ、ナンパトレーニングだ!」


「ふざけんな。オレはやらねぇ!」


鉄喜はイタズラぽくニタっと笑った。

「やらねぇんじゃなくて、出来ねぇんだろ、お前」


「なんだと?」


「フン。スカしやがって。オレはお前のこと好きだけど、そういうスカしたところはダサいって思うんだよ」


「言ってろ、うっせぇな」


「あぁらぁ? 天下無双の翔おぼっちゃまは、ギャル如きにビビっちゃうぐらいの、根性無しちゃんだったんだぁ? ださあ〜い」


「うるせえ!」


鉄喜の大きな煽りに翔の大きな声──

周囲を行き交う人影数人が顔向けた。


「あら? もううるさいしか言えなくなっちゃったのかな? それじゃあ、女子は攻略出来ないよぉ〜。オレの勝ちってことでいいのかなぁ〜? あぁ〜ん?」


執拗な鉄喜の煽りを受け、ワナワナと怒りが込み上げた翔は拳を握りしめた。


「わかったよ! 声かけりゃいいんだろ! やってやるよ、くそが! あとでぶっ殺してやるからな!」


翔は偶然目の前を通り過ぎた女子高生に早足で近付いていった。


「おっ! やべえ、オレが緊張してきちまったぜ。しかもあいつ、めっちゃギャルに行ったぞ!」

 金髪をツインテールに縛り、歩いているだけでパンツが見えそうなミニスカートと一昔前に流行ったルーズソックス──

ゴリゴリのギャル──


鉄喜はその様子を見ながらドキドキしていた。翔はその女子高生に近づくと、いきなり肩を掴んだ──


「おい、そこの女」


「ばっ! ばか! 何やってんだ、あいつ!」


振り返った女子高生は無表情で翔を見返した。


「何?」


一瞬で凍りつく空気。


「あ......いや」


「なーに?」


「あの......いや、何って言われても......」


「服......離してくれる?」


「あっ、悪ぃ......」


女子高生はよれた服をポンポンと叩いて直して、翔の顔を覗き込んだ。


「何?」


「いや、あのナンパ......じゃなくて......お茶、とか......」


翔は息がつまるような感覚に襲われた。

今まで感じたことがない気持ち。

一言で言うなら──困った。


不思議そうな顔で翔を見つめる女子高生。翔は、顔を真っ赤にして下を向いてしまった。


「悪いぃ、なんでもねえ!」


翔は、耐えきれず慌てて、背を向けた。


「いいよ!」


女子高生は巻き髪を指でくるくるなぞりながらあっけらかんと言った。


「──え? ......何が?」


「お茶」


「お......茶?」


「うんお茶。行くんじゃないの?」


「あ......お......うん」


慌てて駆け寄ってきた鉄喜だったが、2人の様子を見て呆然としていた。


「えっと翔、これは......成功? ってこと? かしら?」


女子高生は2人の変な高校生を見ながらぽかんとしていた。

その横で──翔は自分の胸の鼓動が、なぜか止まらないことに気づいた。

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