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第17話 スサノオの余韻──強くなりてぇ

 帰りの車内。スサノオの前に呆気なく倒れた翔は、赤ん坊のようにスヤスヤと眠っていた。


 同じくスサノオにデコピン一発で失神していた鉄喜は、そんな翔の寝顔をチラチラと横目で見ながら、額を摩りながら目を閉じて黙り込んでいた。


 そんな2人をバックミラー越しに気にしながら運転する歳三が岐路の半ばあたりで口を開いた。


「オホン!鉄喜くん、元気がないなぁ!どうだ!思いっきり暴れた今の気分は」


「......」


 少し間を空けて、鉄喜が重い口を開いた。


「師匠。申し訳ないですが......オレ、自信が無くなっちゃいました......」


「自信?」


「だってサニワってのは、あんなとんでもないバケモンを相手にしなきゃいけないんですよね?......はっきり言って無理ですよ、そんなこと」


「そうか」


「オレ達の言う強いとか、弱いとか、神様ってのは、そういう次元ですらないじゃないですか......スサノオと戦うワイルドブラッド発揮してる翔ですら、漫画みたいに強くて、完全に人間離れしてたのに、あのスサノオって神様とか......もうマジで意味がわからない。翔がどれだけ特別なのかは正直わからないけど、オレなんかにゃ、何も出来ない気がする」


 利蔵は苦笑し、頭をかいた。


「意味がわからない、か。そう言われると確かに、オレもいまだに意味がわからないな、ガハハ!」


「......」


 鉄喜はまた黙り込んだ。


「鉄喜くん、この前、君はなんで翔を守りたいって言ったんだ?」


「え?そりゃ......こいつ面白いし、強くてかっけえし、マジで親友になりたいって思ったぐらい、なんでかわからないけど好きなんですよ。だから、出来ることを、オレなりにしてやろうって」


 あっけらかんと恥ずかしがることなく好きだと言った鉄喜の言葉を聞いて、利蔵は嬉しそうに笑った。


「好きか!そうか、鉄喜くんは翔のことが好きなのか!」


 嬉しそうな利蔵の反応に慌てる鉄喜。


「いっ、いや、友達としてですよ!オレ女の子が大好きなんで、決してそう言う意味じゃ!」


「わかってるさ、ガハハハ!」


「だからもっと強くなりたいって思ったんです!翔の役に立ちたいって!」


「鉄喜くん、それは......オレ達サニワも神様達に対して同じような気持ちを持っているかもしれんと思ってな!」


「同じ...ですか?」


「ああ!親の言うことを聞かずに勘当されて家を追い出され、山の中で毎晩飲んだくれて喧嘩三昧のとんでもない不良息子のスサノオ様とか、神社の管理と称してドングリばかり集めて、もらった賽銭でコンビニのお菓子ばっか買ってしまうやたら口の悪いククノチ様とか、神様って面白いって思わないか?」


「そうですね......」


「そうだろ?戦えば一瞬で世界を支配出来て、ありとあらゆるものを手に入れることが出来る。そんなとんでもない力を持った神様達が、オレ達人間との約束だけはしっかり守って、神域の中でひっそりと暮らしてる。面白すぎると思わないか?」


「はい、確かに、めっちゃ面白いです!」


「オレでだって、サニワとして何をすればいいか、はっきりわかってるわけじゃない。だけど...こんな面白い神様達がこの星からいなくなってしまうなんて、どうしてもいいことだとは思えないんだ」


「......はい」


「そのためには、オレ達人間も気付かなきゃいけない。気付かせなきゃ、変えなきゃ。ってな」


「......」


「そんなたいそうなこと、出来るなんて思ったことは一度もないさ。でも、やれることをやろうってな。それが、鉄喜くんの気持ちと同じだなって思うんだ、オレはな」


「しっ、師匠〜!」


涙を浮かべた鉄喜は拳を握りしめた。


「翔!お前はどう感じてるんだ?本音を言ってみろ」


いつのまにか目を覚ましていた翔に利蔵は話しかけた。


「あのスサノオ......オレの首に触れた瞬間、過去の記憶のようなものを伝えてきたんだ。」


「ほう。どんな?」


「全部は覚えてないけど...お父と戦ってる映像が見えた。スサノオがお父に稽古をつけてるって言うか」


「タハハ」


「お父は、いつもボコボコにされてた。スサノオの前に、神技も全く通用せず......毎回戦いの後は死にそうで......若くてオレよりも圧倒的に強かったお父を、最後まで子供扱いで...」


「参ったなぁ...ガハハ」


「でも......どんどん強くなっていくお父を見ながら、スサノオは...笑ってた。なんか、嬉しそうだったんだ......すごく」


「フフ、そうか。」


「スサノオってのは、とんでもねえヤクザな神様だけど......いい奴だって思ったんだ」


「ガハハ!神様に向かっていい奴ってか、ガハハハ!」


車窓に流れる街灯の明かりが、ほんの少し翔と鉄喜の顔を照らした。


「お父......オレは強くなりてぇ。別に何が出来るか、そんなことどうでもよくて......強く......せめてお父みたいにスサノオが笑ってくれるぐらいに......強く──」


翔の目が赤くなり、潤んだのを鉄喜はじっと見ていた。


「ガハハハ!翔!鉄喜くん!君たちは強くなれるぞ!スサノオ様と君たちとの出会いを見て確信した!そして、強いだけじゃない立派なサニワになれる!」


鉄喜は落ち込んでいたのが嘘のように元気を取り戻していた。


「強いだけじゃない......。はい、師匠!この大森鉄喜、金剛力士様の名にかけて〜、最強の男に、なってみせますぞおぉ!!」


「やるぞおぉ、翔、鉄喜くん!君たちの修行はこれからだあぁぁぁ!!」


「おおおぉぉぉ!!」


 大声を出す鉄喜を見て、思わず翔の口元が緩んだ。


「フッ、切り替えはえーな、このバカ。」


 利蔵はまたバックミラー越しの2人を見た。


「1日で2人の神様に会うってのは、さすがに疲れたよな、ガハハハ!明日はゆっくり休みなさい」


利蔵はハンドルを握ったまま、胸の奥でそっと息を吐いた。

――今日、スサノオ様に会わせたのは、正解だった......かな。

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