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第15話 軍神!須佐之男命!降臨!

 3人は渓谷の奥に見える茂みに向かって目を凝らした。


「音が近い!あの茂みの奥だ」

 身構えた瞬間、太鼓の音は――止まった。


「アレ?」

「音が......消えた」

 不思議そうに翔と鉄喜がお互いの顔を見合ったその時、翔は鉄喜の後ろを指差して叫んだ。

「だっ、誰かいる!?」


 鉄喜が振り返ると顔が触れるほど近くに見慣れぬ人影がユラユラと立っていた。


 驚いた拍子に尻もちをつく鉄喜。

「なっ、なんだ!?誰だ!?」


 その人影は翔たちを舐め回すように睨んだあと、ヤクザのような巻き舌で喋り始めた。

「こらぁ、お前らぁ。こんなところで何してやがるぅ。まさか喧嘩じゃないよなぁ?あーん?」


 歳の頃は、二十歳ぐらいだろうか──

 ボサボサの長髪を左右に分けて縛る独特な髪型。端正な顔立ちだが、随分汚れた道着のような服を着ている。

 筋肉質な上半身がはだけた服から見え、さながら激しい喧嘩の後のような出立ちだった。

 左手には大きな一升瓶を持ち、右手に干からびたヤモリを持っている──


「酒くさっ」

 そう言って翔が利蔵の方を見ると、利蔵はその人影に向かって頭を下げた。

「お久しぶりです......スサノオ様」


 スサノオと呼ばれたその酔っ払いは利蔵を見つけると、また独特な巻き舌で喋り始めた。

「利蔵ぉ〜、ガキなんか連れてぇ、なぁにやってんだ、おらぁ」


 鉄喜は目をパチクリさせて利蔵を見た。

「しっ、知り合いですか!?この酔っ払い」

「あ、ああ。須佐之男命様......神様。そして、オレの師匠だ」

「え、この酔っ払いが、神様!?んで、師匠の師匠!?」


 スサノオは翔と鉄喜に目もくれず、利蔵の元へ千鳥足で近づいた。

「お前がぁ〜、師匠だとぉ?冗談キツいなぁ、なぁ、利蔵ぉ?」

「あ、はい。まっ、まぁ」

「このクソガキどもがぁ、お前の弟子だとぉ、おーん?利蔵ぉ?」

「そういうことのようです......」

「ヒャハハハハ!お前みたいなクソ雑魚にぃ、何が教えれるんだぁ〜、のぉ、利蔵ぉ」

たまらず鉄喜が口を開く。

「なっ、師匠にクソ雑魚だって!?」


 ギロリと鉄喜を睨むスサノオ──

その鋭い視線にたじろぐ鉄喜。

「なっ、なんだよ!?」

「おーん?」

「......」


 スサノオは利蔵の顔におでこを合わせてメンチを切った。

「利蔵ぉ。お前ぇ、オレと何回戦ったぁ?おーん、利蔵ぉ?言うてみいぃ」

「1267回......です」

「そうだなぁ、利蔵ぉ。でぇ、戦績はぁ、どうだったぁ、あーん?」

「スサノオ様の全勝です」


 スサノオは突然激昂した──

「当たり前だぁぁぁ!雑魚めぇぇぇ!1267戦1267勝1267KOだぁあ!!そうだなぁ、利蔵ぉ??」

「はい、そうです」


 鉄喜は言葉を失った。

「師匠に......1267戦全勝。軍神。そんな奴が、なんでこんな山に...」


「お前みてぇなもんがぁ、何百万回生まれ変わろうがぁ、何千万年生きようがぁ、オレ様に勝てるわけねぇえわなぁ!......むにゃ、むにゃ......なぁ、利蔵ぉ......」


 そう言うとスサノオはその場に倒れ込んでイビキをかき始めた。

「寝た......」


 利蔵は頭をかきながら苦笑した。

「今日はまた、一段と酔いが回っていらっしゃるようで......」


 鉄喜と翔は寝入ってしまったスサノオを見下ろした。

「こいつが、お父の師匠」

「スサノオ様は、その父イザナギ様、姉のアマテラス様の逆鱗に触れ、天上世界である高天原から追放されてこの地にいる。暴れん坊で酔っ払いでどうにもならない神にも見えるが、この地にいる神々の中でも最強クラスの戦闘力......正真正銘の軍神だよ」


鉄喜は息を飲んだ。

「神々の中で最強クラス......」


利蔵は遠いものを見る様に続けた。

「オレも若い頃は強くなりたくて、何度も彼に挑んだが、まあ、当然ながらオレなんかでは手も足も出なかったよ」


「こらぁ、利蔵、だぁれのことを喋ってんだぁ、あぁぁん?」

 寝ていたはずのスサノオはいつのまにか利蔵の後ろに立っていた。

「オレはぁ、いまぁ大山祇命のやつに宴に招待されて、この山にぃ、久しぶりに戻ってきたんだぁ、なぁ、利蔵ぉ」


 利蔵は首を傾げた。

「ではこれは......偶然ですか?」

 利蔵が聞き返すとスサノオは鋭い目で利蔵を睨んだ。

「あぁぁん、何がいいてぇんだぁ?利蔵ぉ」

「あ、いえ」

「だぁれが、てめえのガキが、ワイルドブラッドだからってぇ、因果が見えて、わざわざ見にきたってぇ?おぉん、利蔵ぉ」


 翔の口元が思わず緩んだ。

「フッ、自分で言ってんじゃん」


 その瞬間、スサノオは翔を睨みつけると、目にも見えない速さで翔の首を掴み、持ち上げた──

「うっ!」

「貴様がワイルドブラッドだと?」


 突然スサノオの口調が変わったことに、利蔵が慌てた。

「スサノオ様!?」

「このまま黄泉の国に送ってやってもよいが」

 スサノオは目を閉じると、手に力を込めた。

「ぐぁあ......」


利蔵は慌てた。

「スサノオ様!堪忍ください!こいつはまだ......」


 スサノオは慌てる利蔵に目もくれず、さらに力を込めると、翔の顔にはあの赤い紋様が浮かび上がった。

「せっかくだ。このスサノオ様が遊んでやろう。見せてみよ、その神殺しの能力とやらを!フン!!


 スサノオは紋様を確認すると翔を投げ飛ばした。

 翔は空中で反転すると猫のような身捌きで着地し、だらんと腕を垂らし、スサノオを睨みつけた。

「スサノオ?......軍神だってぇ」


利蔵はたまらず間に割って入った。

「翔、やめろ!殺されるぞ!」

「上等じゃねえか......」


翔の体から真っ赤な霧のようなオーラが湧き上がった。

「ほう。これがワイルドブラッドか」


 その瞬間、翔は利蔵の横を一瞬で駆け抜け、スサノオに飛びかかった──


突きにも引っかきにも見える超高速の翔の攻撃がスサノオの顔面をとらえた。

「グハッ!」


間髪入れず翔はスサノオに連打を叩き込む。

「グァァァァ!」


 さらに翔はスサノオの首元を掴み、地面に叩きつけると、凄まじい衝撃波が広がり、鉄喜と利蔵は顔を覆った。

 さらに倒れたスサノオを無理矢理起こし、顔面を殴り続ける翔には狂気が宿っているようだった。

 スサノオを圧倒する翔に震えるほどの衝撃を受けた鉄喜と利蔵は言葉を失っていた──


「ふん。まるでダメだな」

「え!?」

 鉄喜と利蔵が後ろを振り返ると、翔にやられているはずのスサノオは、干からびたヤモリをかじりながら、一升瓶を傾げた。

「スサノオ様!?いつの間に!?」

「じゃあ、翔が戦ってるのは!?」


「ふん。ありゃ、オレの髪の毛だ」


「なっ!?髪の毛!?」

「そろそろ髪の毛の効果が切れるな。よいしょ」


 スサノオは残りのヤモリを口に放り込むと立ち上がり、利蔵を睨みつけた。

「まるでダメだ。話にならん。アレでは低級悪鬼にすらやられるぞ」

 利蔵は思わず下を向いた。

「スサノオ様......」


 翔はスサノオの姿が目の前から消えると、辺りをキョロキョロと見回し、やがて本当のスサノオの姿に気付くと、再び飛びかかった。


「うおぉぉぉ!」

 飛びかかってくる翔を、スサノオは見なかった。

 視線は、まだ酒瓶に向けられている。

 その指が、瓶の口を軽く叩いた。


「ふう」

 スサノオがついたため息は、突風の如く翔を吹き飛ばした。

 鉄喜は目の前の光景を信じられずにいた。

「ため息で人が吹き飛ぶって......」


 すぐに立ち上がって構える翔だったが、すでにスサノオは翔の後方に立っていた。


「わかった。もういい」

 スサノオが翔の首を指で軽く突くと、そのまま翔は卒倒した。


「な、なんちゅう......」

 鉄喜は声が出なかった。

スサノオは倒れた翔の首を持つと、そのまま無造作に投げすてた。

翔の体は勢いよく地面を転がり、利蔵の足元でピタリ止まった。

「そいつぁ、まるでダメだぁ、なぁ、利蔵ぉ?」


 スサノオはまた千鳥足になり、口調が元に戻っていた。

「はい......スサノオ様」


「──ところで利蔵ぉ」

突然スサノオは顔が接触するほどの至近距離で利蔵をギロリと睨みつけた。

「お前ぇ、ガキどもに喧嘩させて、このスサノオ様を呼び出しておいて、このまま帰るつもりじゃねえよなぁ、あぁーん?」

「いやあ、スサノオ様、お人が悪い。これはスサノオ様もお望みだったのでは......」

スサノオは利蔵の髪を鷲掴みにすると、ゆっくりと口角を上げた。

「人が悪いだと、利蔵ぉ?オレァ、神だ。さあ、どう落とし前つけるんだぁ、ああ、利蔵?」


 利蔵は観念したと言わんばかりに息を吐いた。スサノオに言い訳が効かないことはよく分かっている。

 「わかりました。スサノオ様。1268回目の手合わせお願いします」

 利蔵の体をふわりと炎が包み込んだ。


その瞬間、鉄喜が震える大声で叫んだ──

「ちょっとまったああぁ!!」


体を震わせ、冷や汗をかき拳を握る鉄喜を振り返ったスサノオ。


「おおん?どうしたぁ、ガキィ?」

ここまで読んでいただきありがとうございます!

最強の軍神スサノオの前に、勇気を振り絞って立った鉄喜がどうなるか、次回お楽しみください。

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