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第13話 神との遭遇【後編】──そんなに変わらない


 いつしか陽も高くなり、古びた神社の境内には真夏の日差しが差し込んでいた。

 気温が上がるにつれ利蔵のレッスンには熱が入り、境内に利蔵の大声が響く──


「──というわけなんだ!どうだ、君たち!神様って面白いだろう、ガハハハ!どうだ!もっと知りたくなってきただろう!」


 上目遣いで利蔵を見た翔に気づいた利蔵は、首を傾げた。

「ん?どうした翔。質問か?」

「いや...お父、鉄喜が死んでる」

「え?」


 気付けば口数が少なくなっていた鉄喜はグッタリと座り込んだまま、ふらふらと手を挙げた。

「だ...大丈夫です...お...押忍。つ...続けて..くだ...さい。全然、オレ...暑くない...す...」

「おお、すまん、すまん、鉄喜くん。流石に暑くなりすぎた!気温も、オレも、ガハハハ!よし、休憩にしよう!」


 3人は、翔の家の近くのお好み焼き屋に移動した。

「よぉーし、育ち盛りの高校生諸君!好きなだけ食べなさい!おばちゃん特製のデラックスお好み焼きがおすすめだぞ!」

「おおおお、師匠ぉ!あざぁぁす!」


 盛り上がる父利蔵と鉄喜をよそに、翔は窓の外を見つめ、初めて会った神ククノチを思い出していた。

(あれが...神様か...)

「あら、アンタ、もしかして利蔵くんとこの...翔くんかね?」

「ん?あ、はい。翔です」

「大きくなったねえ!おばちゃん、アンタが小さい頃からいっつもそこの神社の境内でトカゲやらカブトムシやらを捕まえてたの覚えてるよ」

 利蔵は、自慢げに膝を叩いた。

「おお、おばちゃん!そうなんだ!うちの翔だ。大きくなっただろう!おばちゃんのお好み焼き屋は、翔どころか、オレが小さい頃から通ってたからな!時間が過ぎるのは早いな!ガハハハ」

「本当に。時間が経つのが早くて嫌になるわね。」

「...」

「翔くんは、神社に行く度にうちの前を通って、神様と遊んでくるー!なんて言ってね。ああ、可愛かったわあ」

「...神様と...遊んで...まさか!」 

 翔は何かを思い出したかのようにお好み焼き屋から飛び出した。

「おっ、おい!翔!」

「あら、やだ。アタシなんか変なこと言っちゃったかしら」


 翔は来た道を大慌てで駆け戻り、神社の階段を駆け上がった。

「ハア、ハア、ハア」


 誰もいない静かな境内。翔の息遣いと鳥のさえずりだけが響いていた。

「ククノチって、まさか...」


 辺りを見渡すと、さっきククノチが立っていた場所には大量のドングリが散乱していた。

「思い出した!いつもオレが神社に来るとドングリを拾ってる子がいたんだ。喋ったことはなかったけど、あの子がいる日はやたらトカゲやカブトムシがいた。オレと目が合うといつも境内の奥に走って行ってしまって...まさか、あの子が...」


 その時、翔の頭にコツンと何かが当たり、足元に落ちた。

「いて...ドングリか」


 見上げた木の上には、さっき姿を消したはずのククノチが座ってこちらを見ていた。

「ククノチ...様。あんただったのか。あの頃、オレと遊んでくれてたのは」

「ふん。やっと思い出したか」

「あ、うん」

「...よっと!」


 ククノチは木から飛び降り、翔の前に立った。

ククノチは翔を直視せず、空の方を向いたまま言った。


「……呼び捨てでいいぞ。」

その横顔はどこか照れているように見えた。


「ああ、友達...だもんな」

翔は自分の口から自然に“友達”という言葉が出た自分に驚いた。

ククノチは照れを隠すかのように早口で語りかけた。

「お前ワイルドブラッドだろ。守神のいない。大変なことだ。多分お前はその力の責任を背負えない。お前は孤独だ」

翔は下を向き、か細い声で呟いた。

「...多分。お前のいう通りだと思う」

 一瞬の重い沈黙が境内の静かな空気に溶け込んだ。

 その時、ククノチが沈黙を破った。

「でも心配するな。オレはお前のトモ...」

 言いかけてククノチは慌てて口をつぐんで背を向けた。

 ククノチは顔を赤くしながら、袖で目元をごしごしこすった。

「な、なんでもない!」

そう叫ぶと、ククノチは社殿の中へぱたぱたと駆け込んで行った。

「あいつ、何を言いたかったんだろう...」


 ククノチが姿を消した社殿の屋根を見上げた翔は、金色にキラキラ輝きながら空を昇っていく小さな光を発見して首を傾げた。

「あの...光。どこかでみたことあるような...」


「ハア、ハア、ハア、おい、翔!何やってんだよ!お好み焼き、焼けたぞ!」

あとを追ってきた鉄喜だ。

「鉄喜...ああ、悪い。いま行くよ」

「なあ、翔。お前って不思議だよな」

「何が?」

「いや、うまく言えねーが...あの神様と似てるっつーか、同じ雰囲気を持ってるつーか」

「似てねえよ」

「そうか?なんか掴みどころがなくて、でも思いっきり人間くさいところもあったり」

「なんだそれ」

「なんかお前見てると、神様って、もしかしたらオレ達人間とそんなに変わらないのかもしれないなってさ」


 翔にはククノチが何を言いたかったのかはわからなかった。でもククノチと再会したことで、幼い頃の懐かしい思い出が蘇り、翔をなんだか優しい気持ちにさせていた。


「そんなに変わらない、か...」


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