第12話 神との遭遇【前編】──久々能智神、現る!
やっと神様出ますw
神社の境内では、鉄喜は腕を回しながら息荒く、興奮していた。
「師匠!オレはこの日のために毎日筋トレしてきました!やりましょう!」
先日の“翔と利蔵の親子喧嘩”を見た鉄喜は、すっかり利蔵に心酔していた。
翔は呆れたように両手を広げる。
「うるさいな、こいつ。筋トレはお前の趣味だろ」
利蔵は、気合いの入った鉄喜と呆れる翔の対照的な2人の姿を見て、思わず吹き出した。
「ガハハハ!まあまあ、鉄喜くん、落ち着くのだ!その前に君たちは知るべき事がたくさんある」
利蔵に促され、2人はちょこんと地べたに座り込んだ。
「まず...サニワは神を知らねばならない!」
「押忍!やっぱりそこですよね!」
しつこい鉄喜のリアクションに苛立つ翔は、地面を蹴った。
「いちいちうるせえんだよ、てめえ!」
「ハハハハ、怒んなよ、翔!悪い、悪い」
利蔵は2人を横目に、社殿へ視線を向けた。
「神々とは何か──実際には、自分の目で確かめればいいさ。ただ基礎だけは知っておかないとな。さて、神々というのは森羅万象に宿る存在で……」
ジリジリと照りつける夏の日差しを大木が遮る境内には涼しい風が吹き抜けていた。
「....というわけだ」
利蔵が説明を終えると、鉄喜が勢いよく手を挙げた。
「はい、師匠!質問です!」
「なんだね、鉄喜くん」
「つまり、神様っつーのは、その自然やあらゆるものに宿っているから、悪鬼みたいに姿がないということですか?」
利蔵の顔はパッと明るくなり、鉄喜を指差した。
「鉄喜くん、いい質問だ!」
「押忍!」
利蔵は腕を組み、空を見上げながら説明を続けた。
境内の木々は、徐々に高くなる陽の日差しをまだギリギリ防いでいるようだった。
「結論から言うと、姿のある神様もいる!そして姿を現す神様は、最低でも数百年は生きている。
古い神となれば、人が生まれる遥か以前からだ」
「おお!すげえ!」
「人間同様、人格もそれぞれにある。怒りっぽい神様もいれば臆病な神様もいる。そして、どの神様にもオレ達サニワのように神技と言われる様々な能力がある。元々サニワに力を与えてくれたのは神様だからな」
「どうしたら会えるんだ?その神様ってやつに」
利蔵はニタリと笑った。
「神様は呼び出すことも出来るが、まあ必要な時に、現れるさ。──まさに今...みたいにね」
ふと気付くと、境内の空気が妙に冷たくひんやりしていた。
風が止み空気が異様に澄んでいる。
翔は背筋をなぞるような寒気に振り返った。
鳥居の方から、歩いてくる子ども──
10歳ぐらいだろうか。修行僧のような格好にドングリの首飾り、木刀を腰にさげていた。
無表情でアイスクリームをペロペロ舐めながらこちらに向かって歩いてきたその奇妙な子どもは利蔵の前でピタリと止まった。
「おい邪魔だぞ」
突然現れた奇妙な子どもは、そう呟くと利蔵の顔を見上げた。
「コラ、ガキ!オレ達の師匠に向かって何言ってんだ!オレ達は今神様についてここで勉強中なんだ!ガキはお母ちゃんのとこへ帰れ!しっしっ」
鉄喜はその子を叱りつけるように声を荒げた。
子どもは鉄喜の顔を無表情で見つめるとまた利蔵を見上げた。
「おい、利蔵。このサニワのガキは、誰に向かって言ってるんだ?」
利蔵は顔を引き攣らせた。
「鉄喜くん、この方は...神様だ」
「...げっ、こんなガキが神様!?」
子どもの姿をした神様は、明らかな苛立ちの表情を浮かべた。
「だから、利蔵。一体このガキは、誰のことを言ってるんだ」
利蔵は頭を下げた。
「鉄喜くん、翔。この方は御神木から御神木へと渡り、全国各地の神社を護っておられる木の神ククノチノカミ様だ。容姿は子どもの姿をしておられるが、二万年を超えて生きておられる大神様だ」
「21200歳10ヶ月と25日だ。しかし、最近の人間はこんなクソまずいものを食べているのか。野蛮な奴らだな」
ククノチノカミと呼ばれた子どもは、いかにも不味そうな顔をして、残りのアイスクリームを口に放り込んだ。
「いや、全部食ってんじゃねーか」
ククノチは鉄喜を睨みつけ、一気に捲し立てた。
「口を慎めよ、人間。これ以上無礼を働けば殺すぞ。それと利蔵、この神社、汚い。神を舐めているのか?」
利蔵は慌てて手を振った。
「そっそのようなことは!」
「じゃあ、そこをどけ。僕は忙しいんだ。昼寝をしたら、また移動だ。最近は舐め腐った人間どもが神社を管理しないから僕の仕事が増えたんだ。神社の力が弱まればその地に悪鬼の野郎どもが取り憑きやがる」
ククノチは吐き捨てるように言うと、崩れた社殿の屋根を指差した。
「あの屋根なぜすぐに直さぬ?契約違反だぞ。神社を神域として守ってやっているのに。こんなことをしていたら、悪鬼が入り込んで来るぞ」
翔と鉄喜は一瞬息を呑んだ。
その反応を見逃さないククノチは、ギロリと睨んだ。
「お前ら、なんか知ってるな?」
鋭いククノチの視線に2人は言葉を失い、固まった。
「まあ、いい、そのうちわかる。いいか。僕はお前たち人間が神と繋がりたいと言うから、仕方なく守ってやっているだけだ」
アイスの棒を噛み砕きながら、ククノチは淡々と言った。
「お前ら人間のことなんか僕はどうでもいいんだ。勘違いしやがって。とにかく、ちゃんと周辺の人間どもに掃除をさせろ。今年は盛大に祭りをやれ。わかったか」
テンポが早く単調に、淡々と話すククノチは、その様子をポカンと眺めていた翔に、背を向けたまま指差した。
「それと利蔵、そこに突っ立ってるガキは、お前のガキか?」
「あ、はい。翔といいます」
「名前など聞いておらん。そのガキ、危ないからちゃんと調教しておけ、わかったか。楯突いたら、殺すぞ。」
ククノチは、腰にぶら下げた木刀に手を置いた。
「あと、お前ら、賽銭はしっかり入れておけよ。僕は次の神社でもコンビニに行かねばならんからな。次はポテチとか言うクソまずいもんを食せねばならん」
ククノチは、ペッとアイスの棒切れ端をはきだした。
「お前ら人間は、本当に次から次へと毒ばかり作りやがって。生きたいのか、死にたいのか、よくわからんバカどもめ。いいか、賽銭を忘れるなよ。わかったか。消し飛ばすぞ」
そういうとククノチは社殿に向かって歩いて行った。
利蔵は笑顔で頭を下げた。
「はい、わかりました、ククノチ様」
翔達の前に初めて姿を現した神は、もう一度チラリと翔を見ると、境内を通り抜ける風のように、社殿の奥へ消えていった。
「というわけで、あの方も神様、というわけだ」
「師匠、あんなのが本当に神様...なんですか?なんか口悪いし」
「ハハハ、言ったろう。神様の見た目は様々だ。イメージと違ったかい?」
「はい、全く...。つっ、強いんですか、あいつ?師匠と比べて...」
「ハハハハ、オレなんかじゃ、全然歯が立たんよ」
「げっ!...」
すると翔はおもむろに口を開いた。
「お父、神は必要な時に現れるって」
「ああ、そうだ」
「なぜ、今?」
利蔵は空を見上げた。
「はっきりはわからないが、契約違反だと言っていた。もしかしたら警告、かもな」
「...」
「そういえばいつのまにかお祖父様の姿がないですね」
「随分前に帰ったよ。さあ、気を取り直して続きといこうか」
翔はククノチが消えて行った境内の奥を見つめていた。
いつのまにか境内の空気は、また夏の暑さを取り戻していた。
「神様って....コンビニも行くのか...」
翔は、その懐かしさがどこから来るのか分からず、首を傾げた。
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