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第10話 炎の親子喧嘩!── 火神の父

 光明の結界に吹き飛ばされ、雷神の捕縛を弾き飛ばした翔は、手足を震わせながら、か細い声で呟いた。

 「みんな…敵だ。みんなでオレを苦しめる」


 フラフラと立ち上がった翔は、再び獣のように手をつき低い姿勢を取った。

 何もかも──ここで終わればいい。

 誕生日の夜の絶望が、父の姿と重なった――。

 理屈も記憶も吹き飛び、「父」が怪物に見えた。あの怪物に出会った時に抱いた感情が鮮烈に蘇り、再び翔は赤黒いオーラを身に纏う。

「こんなこと...オレは望んでなかった」


 鉄喜は拳を握り締め、歯を食いしばって見つめていた。

 「もういい、翔。やめよう…やめてくれ。」


「お前も同罪だ…クソ親父。強くなれだと?どうせ、てめえもオレを利用するために育ててたんだろう…」

「翔…」


 翔は涙を流しながら、ニヤリと笑い唇を震わせた。


「てめえもしかして…オレを利用するために、母ちゃんを殺したんじゃねえのか?…」

「なんだと?」


 利蔵の目が鋭く光った。

「翔、いい加減にしろよ…」

「母ちゃんの次は….オレを殺すか?」

 利蔵は強く拳を握り、唇を噛んだ。


「貴様…」

「利蔵、やり過ぎてはならんぞよ。翔は理性を無くしておる」


 利蔵の拳が震え、地面に落ちた炎がアスファルトを焦がした。

「そうか、翔。よく分かった」

 利蔵はその拳を解き、両手を広げた。


 ──翔は、利蔵に飛びかかった。

「どうするんだって聞いてんだ、コラアァァァァ!」


「馬鹿やろおぉぉ!」

 利蔵は叫ぶと、全身に炎を纏い、翔の突進を真正面から受け止めた──


 2つの炎がぶつかり合い、爆ぜた火花が円を描いて散った。

 花火の残光のような光が闇の中で揺れ、吹き上がる熱風が地面を撫でていく。

 遅れて鈍い衝撃音が響き、揺らめく炎の向こうで、親子の影がそっと一つに重なる。


 利蔵に受け止められた翔は、その胸の中で呟いた。

「…殺せよ。」

「心配するな、翔」

 翔を利蔵は強く抱きしめた。


「オレを殺せ…お父」

「心配しなくていい。お前は何も悪くない。母ちゃんを守れなかったのは、オレのせいだ」

「オレはただ…お父とペットショップを…お父と、動物と…」

 声にならない言葉が、震える翔から溢れ出た。

「わかってる。大丈夫だ。」

「うっ…うっ…うわあああん!父ちゃぁぁぁん!」

「…帰ろう。翔」


 2人を包む美しい親子の愛の炎は高く燃え上がり、夜空を照らした。

 光に包まれ燃え上がる親子愛を見ながら鉄喜も涙を流した。

「うっ、ひっく。うっ、うっ」

「鉄喜くん、お主も泣いておるのか?」

「お祖父様…だって、こんな感動…うっ、うっ…ズルいよぉ、うっ、うっ」

「翔の炎が、迦具土様の炎で浄化されたの」


「あ!アイツ!」

 鉄喜は何かに気付き、慌てて涙を拭って餓鬼を指差した。

 顔面をボコボコに腫らし、ヨロヨロと逃げようとする餓鬼。光明は鉄喜を手で制した。

「行かせてやればよい」

「にっ、逃がすんですか?」

「餓鬼や!すまんかったの」

「ガ…キ?」

「ほほ、ガキではない。餓鬼じゃ」

「餓鬼…なっ、なんで謝るんですか?」


 光明はフッと軽く息を吐いた。

「サニワは、なにも悪鬼を退治する者ではないんじゃ」

「え、違うの?」

「言うたじゃろ。彼らも元は神。サニワは神の声を聞く者。ワシらは神と人間の架け橋の様なものじゃの。無闇矢鱈に退治するのは調和を生まぬ。」

「調和?むっ、難しい…」

「ほほ、鉄喜くん。難しいぞよ。人生とは…難しいものじゃ」


 熱風が過ぎ去ると、夜はゆっくりと静けさを取り戻した。

 炎の跡だけが、ほんのり温かい息づかいのように地面に残っている。


 翔の泣き声も、鉄喜のすすり泣きも、いつしか夜風に溶けていった。

 ただ、どこかで小さな虫の声が鳴いていた。


 この夜を境に、彼ら親子の“物語”は、ほんの少しだけ動き出した。

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