第9話 雷神降臨!──祖父の強さ
「やはり、ワイルドブラッドじゃの」
「ええ、そのようです」
「おっ、お父様!お祖父様!」
驚いた鉄喜を制して、駆けつけた2人が前に出た。
「鉄喜くんや、悪いがちいと下がってくれぬか」
「いや、でっでも」
「ちょっとした家族会議が始まるでの」
光明は優しい笑顔で鉄喜に微笑みかけた。
「家族...会議?」
倒れた悪鬼に馬乗りになった翔は叫びながら、何度も拳を振り下ろした。
「どうした、オラァ!」
「グホッ、グワッ」
「オレを食べるんじゃねえのか、オラアァァァァ!」
「グッ、ゴホッ、ガハアァ」
狂ったように拳を叩き込み続ける翔を見つめながら、光明は小さく息をつき、静かに呟いた。
「アレじゃだめじゃ。憎悪は餓鬼のエサ。どれだけ痛めつけても、餓鬼の力が増すばかりじゃ」
その言葉に、鉄喜は息を飲んだ。
「力が増す……?」
利蔵は、そっと鉄喜の頭に手を置いた。
「翔の戦闘能力は高い。だけど、悪鬼を相手にするなら──
プラスのエネルギーを持った君の方が向いてるよ、鉄喜くん」
止まらない翔の連打に、鉄喜は恐怖すら覚えた。
「しょっ、翔...お前、やりすぎじゃ」
「オラ、オラァ、どうしたコラアァァァァ!」
「グハッ、ゴボッ」
見てられんとばかりに光明は天に手をかざすと、何やら短い祝詞をあげ、神の名をつぶやいた。
「雷神、建御雷之男神...」
鉄喜は小さく首を傾げた。
「ラ...ライジン?」
光明が翔に向かってその手を振り下ろすと、轟音と共に雷が落ちた──
落雷の衝撃で吹き飛ばされた翔は、空中でクルッと身を反転させて着地する──
鉄喜は身を縮めて怯えた。
「ひっ!か、雷が落ちた!?翔も、なんて身体能力だ...」
光明は翔に向かって叱った。
「もうよい、翔!鎮まりなされ!」
翔は正気を失ったその漆黒の目で光明をギロリと睨みつけた。
「クソジジィ!邪魔すんじゃねえ!」
ワイルドブラッドの影響か、それとも翔の葛藤が爆発しているのか、普段とは明らかに違う翔の言動に慌てて鉄喜が突っ込む。
「翔、お祖父様になんて口を!」
翔は口からヨダレを垂らしながら、怒りをぶちまけた。
「何が誕生日おめでとうだ、クソジジィ...てめえは、オレを利用するために帰ってきたんだろう!このクソみてえなマヤカシのために、オレを利用する気だったんだろ!オレが16になるまで待ってやがったんだ、オレに隠してなあ!そうだろうクソジジィ!」
「ふう、そうかもしれぬの」
あっけらかんと答える光明に、翔は歯ぎしりしながら、体勢を低く構えた。
「ぶっ殺してやるぞ、クソジジィ!」
「ほほ、来るかの、翔や」
「おっ、お祖父様、流石にそれは、ちょっ」
慌てる鉄喜だったが、それ以上口を挟めなかった。
翔の肩は大きく上下し、呼吸が荒い。胸の奥で怒りが暴れ回るように渦巻いていた。
理性を無くした翔は、光明に飛びかかった。
突きとも引っ掻きとも見える乱暴な翔の一振りを、光明は半身になることでギリギリで交わした。
「すごいパワーじゃの。じゃが──」
翔は振り向き、すぐに反対の手で引っ掻く──
「──全く制御出来ておらぬ」
それをしゃがんで交わした光明は、翔のみぞおちに掌底を打ち込むと青白い光が迸り、その衝撃で翔を突き飛ばした。
「グググ...」
体に電流が走り痺れた翔は、それを振り払うように身を震わせた。うめきながら睨みつける翔に、光明は手を振り、ため息をついた。
「まるで、狂った野生動物のようじゃの」
全身を震わせ身を丸めた翔は、地面に手をついた。翔からは、赤黒いオーラが立ち昇り、周りの空間を陽炎のように歪ませた。
雷神タケミカヅチの力に触れ、翔の中の“何か”が目覚めた。
それは、光明を──明確に“敵”と認識した。
光明の表情が一瞬だけ険しくなった。
「来るかの、ワイルドブラッド」
そう呟くと、光明は顔の前で九字を切った。
「天・地・玄・妙・行・神・変・通・力...」
低く、獣のような姿勢を取った翔が、一気に飛び出した。残像を残す突進──
光明の周囲に青白い光が弾け、結界が張られる。
衝突音。翔の体は、結界に跳ね返され、元の位置まで吹き飛んだ。
「凄すぎて、もう...意味わかんねえ」
鉄喜は口を開いたまま動けずにいた。
吹き飛ばされ、体に電流を帯びても尚、即座に飛び起きた翔を見て、光明は両手を翔に向かって伸ばした。
「とんでもないやっちゃのう」
光明は目を閉じて小さく呟いた。
「...縛」
光明が手を握ると翔の体を青白い光の網が包み込んだ。苦しみ始めた翔はその光を破ろうと全身に力を入れて抵抗する。
光明は苦悶の表情を浮かべた。
「くう...雷神の捕縛すら跳ね返すか」
翔が天空に向かって叫ぶと光の網は無惨に弾け飛んだ。
「ワイルドブラッド。神殺しの伝承は大袈裟ではないかも知れぬ...」
その時だった──
「馬鹿やろおぉぉぉ!」
今度は、利蔵が光明の前に歩み出た。




