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第8話 悪鬼 餓鬼、襲来!──震える憎悪の拳

姿は小学生ぐらいに見えるが、一対の赤い目を光らせ、頭に小さな角を生やし明らかに異様な気を放っている。

「鬼?...の、子ども?」

「気味悪いガキだな。翔、これも悪鬼なのか?」

「...」


 悪鬼にも階級や種類がある──と光明は言っていた。人に取り憑き姿を隠す者、人型、獣──


 子どもの姿をした悪鬼は、長い舌を出し舌舐めずりしながらこちらを見ていた。

「今日はついてる。美味そうなガキのサニワが2匹も、ケケケ」


 小さな姿をした悪鬼に拍子抜けした鉄喜が歩み寄る。

「何言ってんだ、ガキ!ほら、悪さしてないで帰れ!しっしっ」

「ガキ...ダト?ホホウ、オマエヨク知ッテルナ」

「見りゃわかるだろ、お前がガキなことぐらい。チビだから」


 見た目はどれも“強さの目安にはならない”。

悪鬼は姿形に騙されるな──そう利蔵に言われたことを、翔は思い出していた。


 鉄喜は思わず悪鬼の頭に手を置いた。

「ケケケ」

 翔は首筋に嫌な寒気を感じ鉄喜に向かって叫んだ──


「バカ!鉄喜!離れろ!」


 悪鬼は瞬時に鉄喜の腕を掴むと茂みの中に投げつけた。

「グハッ!」

 悪鬼の小さな手から伝わってきた力は、明らかに”人外“だった。


「鉄喜!」

茂みの中から這い出てくた鉄喜は体の大きさに釣り合わない悪鬼の力に驚嘆していた。

「ウウウ...なんて力だ、このガキ」

「弱らせて、弱らせて、恐怖でいっぱい味付けして、美味しく頂こう」


悪鬼は人間の“恐怖”“憎悪”“絶望”を栄養に変える──凶悪な悪鬼ほど、その身を包む霧が濃くなる。


 鉄喜に歩みよる悪鬼の前に、今度は慌てて翔が立ちふさがる。

「鉄喜!逃げろ!お父か、じいちゃんを呼んでこい!」

「バカ言え!オレは逃げねえ!」

「消えろって言ってんだ!」

 鉄喜はニヤリと笑い、その太い腕で口を拭った。

「いいや、オレはどこにも行かねえ。オレはお前を守るって決めたからな。2人を呼んでくるのは、お前だ、翔!」

 鉄喜は翔を押し退けて小さな悪鬼を見下ろした。

 「オレは大森鉄喜。てめえの相手は、このオレだ!」

鉄喜はその拳を振りかぶり、悪鬼に目掛けて渾身のアッパーカットを打ち込む──

 「グフゥ!」

 悪鬼は、鉄喜のその強烈なパンチをまともに受けてふわりと空中に浮いた。

 鉄喜は畳み掛けるように宙に浮いた悪鬼の足を掴み今度は地面に叩きつけた──

 「ガフッ」


巻き上がる砂埃の中、思わず鉄喜は自分の口を押さえた。

 「ヤベ、ガキ相手に本気になっちまった」


しかし、悪鬼は何事もなかったかのようにヒョコっと起き上がり、鉄喜に向かって歩き出した。

「んなバカな!?おい、翔!行けって!お父さんを呼んで──」

 鉄喜が叫んだ時には、悪鬼は目の前に立って、ニタリと笑っていった。

「コイツ!早い!」

 悪鬼は鉄喜の顎に向かって飛び上がり、その頭を叩きつけた。

 「グッ!」

 悪鬼の頭突きで倒れた鉄喜がすぐさま起きあがろうとすると、すでに悪鬼は鉄喜の腹の上に乗っていた。

 「いたただきまあす、ケケ」

悪鬼が大きな口を開けて鉄喜の首に食いつこうとした時、翔が大きく吠えた。


ドクン!!

そして翔の心臓が大きく鳴る。

あの時と同じように。


「目障りなんだよ、てめえ!」

「な...」

「親友だの、悪鬼だの、サニワだの、どいつも、こいつも...急にオレの前に現れて...」

「翔、お前....顔に変な模様が...」


翔の目は全体が漆黒に染まり、顔にはあの赤い紋様がくっきりと浮かびあがっていた。


「クソ鬱陶しいんだよ!このヤロオォォォォ!!!」

「コノサニワ...マ...マサカ...」


 翔は悪鬼を睨みつけ歩み寄る。

翔の精神は、ここ数日で激流の如く目まぐるしく展開していく世界に置いていかれ、その焦燥感と孤独が怒りへと繋がり、翔は唇を震わせた。


「お前が悪鬼だと?....オレがサニワだと?」

「...ケ」

「神様だ?...人間だ?...」

「...?」

「めんどくせえから、てめえら全員、皆殺しにしたらあああぁぁあ!!」


 やり場のない翔の怒りが爆発した──


 空間が歪むほどの速さで放たれた翔の正拳突きが、悪鬼の顔面を打ち抜く──

「グボォォッ!」


 悪鬼は鉄喜の腹の上から駐車場の中程、十数メートル先まで吹っ飛んだ。


「母さんのことだって、何一つ解決してねえのに──」

 翔は仕返しと言わんばかりに、吹っ飛んだ悪鬼を追い、馬乗りになった。

「次から次へとごちゃごちゃと──」

 翔は悪鬼の顔を見下ろし、小さな声で呟いた。

 「てめえらが、現れなきゃ...てめえらがいなきゃ──」


翔は震える拳を高々と掲げた。

「ケケ...?」


 「──こんなことにはならなかったんだよ、クソヤロオオオオォォォォ!!」

 

 翔は躊躇うことなく、強烈なその憎悪の拳を振り下ろした。

 現実を打ち砕くかの如き、人智を超えた一撃──


そこには、事態を察して駆けつけた利蔵と光明が立っていた。

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