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秋の文芸展2025『友情の証』

作者: 黒豆100%パン


「ちょ!ネコさんそっちじゃない!もう1匹を攻撃!」


ある日の夜。 久遠 朱音(くおん あかね)は画面に向かってそう呟いた。朱音が今やっているのは新作のゲームで爽快感と達成感が売り!と仰々しい売り文句だがかなり人気のあるゲームだ。

朱音はチームで敵を倒すというのをやっていて、三つ首の黄金の竜を倒しているところだった。


「ネコさんそっちじゃない!ウォーターメロンさん攻撃くる!」


朱音はコントローラをカチャカチャと動かしながら表示されているプレイヤー名を言う。だが健闘虚しく倒されてしまった。朱音は「もう〜」と言いながらコントローラーを優しく放り出しベッドに横になった。

明日はこの2人と直接会う事になっている。いわばオフ会というやつだ。だんだんと眠りについて行く朱音は目を閉じて眠るのだった。


「あれ?」


目が覚めるとそこはベッドではなかった。四方八方が虹色の背景の不思議な空間で夢でも見ているのだろうと頬を引っ張るが夢ではなかった。


「あの...」


その時、朱音は声をかけられる。そこにいたのは歳は朱音と同じぐらいのおさげでメガネをかけた少し気の弱そうな少女だった。


「ええと、あなたもここに?」

「ええまあ」

「私、 常磐 音子(ときわ おとこ)って言います...」

「えっと久遠朱音です」


おそらく人と関わるのは苦手なのだろう。音子は弱々しい声で自己紹介をする。


「多分歳同じぐらいなんだし敬語はいらないよ」

「えっと...はい、じゃなくて...うん」


そんな挨拶をしているともう1人、話しかけてくる人物がいた。その人物も朱音と歳は同じぐらいか。茶色い髪は束ねてポニーテールになっていてなんだかいかにも活発な感じの少女だ。


「チィーッス、私は 高尾 水花(たかお すいか)ってんだ。よろしくな!」

「よろしく...常盤音子」

「久遠朱音。うん、よろしく」

「んで、ここはどこなんだ?」

「さあ?気がついたらここにいて...」

「なんか怖い...」


3人でそんな話をしているとボン!という音が鳴り煙と共にウサギが出てきた。赤い目と紫の帽子、そして同じく紫のスーツのような衣装を着ている。


「やあやあ選ばれた君たち!!」

「何!?ウサギが喋った!!」

「君たちはランダムに選ばれた3人だ!」

「選ばれた...3人?」



そのウサギは手元にある電子機器で3人について調べる。そして何かを見つけると、「...ほう、ランダムに選んだはずなのにこれは面白い」と言いながら朱音達を見る。


「そんな君たちには少しゲームをしてもらおう。元の場所に戻るにはそれしかないからねえ!」


そう言ってパチンと指を鳴らすと場所は草原になった。辺り一面に映える草は触れることができ、まるで本物のようだ。

そして朱音達の装いも剣と盾、杖などまるで朱音がやっていたRPGの世界だ。


「君たちこういうの好きだろう?」

「おお、面白そうじゃねえか」

「さあ、まずはレベル1と言ったところかな」


ウサギがそう言うと目の前に紫色のスライムが3匹現れる。おそらくこれを倒せという事なのだろう。


「よーしやってやるぞ!」

「ちょっと!」


水花が先走って腕にはめている鉄のグローブを使ってスライムを殴る。するとスライムは簡単に倒せてしまい、残りのスライムも全て水花が倒してしまった。



「ねえ、危ない魔物だったらどうするの?」

「倒せたんだからいいじゃねーか」


朱音の言葉にそう返す水花。ウサギは「次はこれでどうかな?と言い指を鳴らすと背景は建物に変わった。もちろん素材もゲームなどの家と同じ作りで触ることも中に入ることもできる。そして次に投入されたのは朱音達の2倍はある牛の魔物だった。


「何あれ...怖い...」

「うっし、腕がなるじゃねえか」

「待って、今度は作戦通りに...」

「あれぐらい!任せとけって!」

「ちょっ!」


戦いにもう慣れたのか、また朱音の忠告を無視して突っ込んで行く。だが牛の魔物が右腕で振り払って水花を弾き飛ばし家に衝突する。


「いてて...まじかよぶつかった時の衝撃もリアルかよ...」


本当にぶつかった衝撃がはしり全身に痛みまで生じたことでこれが普通のゲームとは違うという事を実感させる。


「水花ちゃん!...この!」


朱音が大きな牛の魔物の足元に寄って剣で攻撃位してみるが全くと言っていいほど効いていない。牛の魔物はそんな朱音を掴んで顔の近くまで持ってくる。


「あー言い忘れたけど、もし、ここで全滅したら君たちは永遠にこの世界から戻れないからね!」

「そんな...!

「ぐっ...」

「いま助け...!」


そう言って音子が炎のイメージをすると幾つもの炎が目の前に現れる。そのできた炎を飛ばすとそれが見事直撃...したのだが全くと言っていいほど効いていない。セツナが剣を腕に突き刺し手を離したところに一撃を加え見事倒す事ができた。



「なんだよ...私の出番ねーじゃねーか」

「ふう...助かった。」

「その...ごめん役に立たなくて」

「いいよ音子ちゃんは無理しないで」

「ふー危なかったぜえ」


そう言いホコリを払う水花に我慢ならなくなった朱音は勢いよく目の前に向かった。



「だからあれほど作戦を立ててって...」

「いいじゃねーか倒せたんだから」

「良くないって!最初から作戦を立ててればあんな事には...」

「作戦だあ?んなもんどう立てるってんだ?」


その言葉に朱音は「その...」と咄嗟に考え付かず何も言えなくなる。


「何にしろこの魔法使いが役立たずだしよお、私たち2人でどうにかしねーといけねえだろ?」

「ごめん...」


役立たずと言われた音子は小さく謝る。それにさらに朱音は「そんな言い方しなくても!!」とまくしたてるように詰め寄った。


「また...こんな性格だから...」


音子はそう小さく呟きながら卑屈になる。いつもそうだ。こうやって誰とも話せず1人でいるのが好きだ。


「ねえまた1人でなんかやってるの??」

「うわあキッショ!」

「えっと...」


そんな事を言われてもそれに対して強く言う事もできない。そう言う性格なのだ。


「そんなことないよ!音子ちゃんが攻撃で気を引いてくれたから隙ができたんだもん!音子ちゃんのお陰!」

「そうかあ?そんなことないと思うけど」

「あなたは黙ってて!」


そう言われて水花はチッっと舌打ちをする。周りは自分より弱い。だからそんな奴らと一緒にやるよりも自分が最前線に出たほうが良いのだ。


「また1人でやってる...」

「水花ってなんか自分勝手だよねえ」


忌まわしい仲間の言葉を一瞬思い出したが、首を振る。そんなことはない。自分1人で...1人でだってやれる...仲間などいらない...そう決めたはずなのだ。


「言い争いしてるところ悪いんだけど、次が最後だからね」

「うっしゃあ!」



最後の敵は金色の三ツ首の竜。大きさは朱音達の3倍はあるだろうか。


「あんなの...勝てっこない...」

「...やるしかねえだろ!」


そう言って勢いよく拳で一撃加える。少し効いているようだが炎で反撃をしてくる。


「やばっ...!」

「私が!!」


そう言って音子は水花のところに行き丸い半透明の防御壁をイメージする。すると周りに防御結界が貼られ、攻撃を防いだ。


「お前...!」

「私だって...!やれるんだ!!」


音子は朱音のあの言葉、『音子ちゃんのお陰』と言う言葉のお陰でこの時だけ少しだけ強くなれたような気がした。

だが防御結界は持たず少しすると壊れてしまう。2人は炎の中に包まれてしまった。


「2人とも!!!」

「ぐっ...」

「うっ...」


朱音がかけよると相当なダメージを受けているようだ。


「お前なんで...お前までそんな...」

「朱音ちゃんが私に力をくれたから...!」


音子からそれを聞いた水花はふっと笑みを浮かべる。


「よし朱音、作戦はあるか?」

「...うん!」


協力をして何かをしようとしている3人を見てウサギはなんだか少し嬉しそうな顔をしている。


「さあ行くぞ!私たちの力を見せてやる!」


まずは水花が飛び出して「おいこっちだ!来いよデカブツ!!」と言いながら走り回る。その間に音子は大きな炎を想像して出そうとする。


「おいこっちだって言ってんだろ!」



三ツ首の黄金の竜が朱音の方に狙いを定めるとそう言いながら近づいて水花の方へと注意を逸らす。しばらくすると音子は凄まじい大きさの炎を生み出した。それを朱音の剣に纏わせ勢いよく駆け出した。


「はああああああああああ!!友情の!!一撃!!」


そう言って黄金竜をぶった斬ると、悲鳴をあげて倒れた。


「やった...?」

「いやあ素晴らしい!!さあ、みんなを元の場所に戻してあげよう!!」


そういいウサギがパチンと指を鳴らすと3人の体は輝き出した。


「いやあもう終わりかあ」

「楽しかったねk

「うん...」

「これでみんなともうお別れなんて...なんか寂しね」

「なあ音子...さっきは役立たずだなんて言って悪かったな」

「いいよ」

「お前はやっぱ最高だ!」



そう言って水花は腕をグーにして前に出す。朱音と音子も同じく前に出した。


「じゃあね...楽しかった」

「うん」

「またどっかで会えるかもなあ?もしかしたら近くにいたりしてな!」

「だといいね」

「じゃあなお前達!戻っても達者でやれよ」

「何水花ちゃんおっさんみたい!」

「...じゃあ!」

「ああ」

「うん」


朱音が3人はどんどんと薄くなり消えていった。またどこかで会えるかもしれないと信じて。










「うーん、ちょっと早く着きすぎたかな?」


朱音はゲームのオフ会で少し遠めの駅に来ていた。2人のプレイヤーネコとウォーターメロンを待っているところだ。時計を見ると15分前。少し早く来すぎてしなったと思いながら近くのベンチに座っていた。



「...え?」


そこにおそらく同じくオフ会の人がやってきたのだが、その人物に驚いた。そこにいたのは紛れもなく常盤音子だからだ。その瞬間、ゲームのプレイヤーネームの意味がわかった。


「ネコ」

「...うん」


音子はネコと読む事もできる。



「おーい!君たちがネコさんとアカネさんかー?」


その聞き覚えのある声が遠くから聞こえる。その方を向くと3人とも「あ...!」という声が出た。そこ聞いたのはプレイヤーネームウォーターメロン。水花の姿があったからだった。

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