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『第34話 騎士団長、推し婚約バフで戦線離脱』

戦雲が晴れ、ようやく安堵の空気が王都を包み込んでいた。

レオン・シュヴァルトは、王城へ続く石畳を歩きながら、人々が笑顔で談笑する光景に目を細めた。

露店では歌い手が楽しげな曲を奏で、子供たちは楽しそうに駆け回っている。


「……ええな、この平和な感じ。これぞ“守りたかった日常”や。もう戦争とか、勘弁してほしいわ」


心からそう呟き、レオンは防衛会議が行われる部屋へと向かった。

重厚な木製のテーブルを囲むのは、宰相、美貌の王女セレスティア、高飛車な悪役令嬢リリアン、素朴な村娘ミーナ、そして王国最強の剣士と謳われる老騎士、騎士団長グラディウス卿。


レオンはコーヒーカップを傾け、この穏やかな時間が続くことを願った。


会議は順調に進んでいた。

宰相が今後の防衛方針を淡々と述べ、セレスティアが外交戦略について意見を述べる。

そんな中、グラディウス卿が突如、重々しく立ち上がった。


「宰相殿、並びに皆様方に、ご報告がございます」


その厳かな声に、会議室の空気が一変した。

レオンの右目の端っこに、半透明のUIログが浮かび上がる。嫌な予感がした。


【契約進化ログ:忠誠 → 献身 → 恋愛特化】


「……は?」


レオンが思わず声を漏らす。続いて、別のログが展開された。


【新スキル獲得:推し嫁支援バフ】

【効果:対象への防衛力+30%/ただし対象以外の任務を拒否】


グラディウス卿は、一切の表情を変えず、静かに続けた。


「我が魂は、ただ一人の淑女を守るために進化した。故に私は、本日の任務をもって、戦線を離脱いたします」


会議室に衝撃が走る。宰相が青ざめ、セレスティアが目を見開く。


「ま、待ってください、グラディウス卿! それはどういうことなのですか!?」


セレスティアが問いただすが、グラディウス卿は静かに首を振る。


「我が剣はすでに捧げた。魂の名を、ミーナと呼ぶ」


レオンは思わず椅子から転げ落ちそうになった。

グラディウス卿の視線の先には、驚きのあまり固まっているミーナがいた。


「いやいや、おい待て、戦力削ってどうすんねん! 王国最強の騎士が抜けるとか、冗談やないぞ!」


レオンが叫ぶが、グラディウス卿は微動だにしない。

まるで、それが当然の摂理であるかのように。


「若き日の私は忠誠と恋を分けていた。忠誠を優先した結果、最愛の人を戦場に置いてきた。だが老いて悟ったのだ、忠誠も恋も、結局は同じ魂の名を呼ぶことに過ぎぬと」


その言葉は、レオンのツッコミを封じた。


グラディウス卿はレオンの叫びにも動じず、静かに、まるで歴史の講義をするかのように語り始めた。


「英雄殿はご存じないか。かつて中世の騎士たちは、戦場の忠誠よりも、宮廷愛に身を焦がした」


レオンの頭の中に、トルバドゥール文化、吟遊詩人が奏でる愛の歌、そして「貴婦人への奉仕こそが騎士の誉れ」とされた時代の記憶が蘇る。


「彼らは、主君への忠誠よりも、貴婦人の願いを優先した。十字軍の遠征でさえ、推しの元に早く帰りたいがために、戦線離脱=強制サーバーダウンした者すらいた」


グラディウス卿の言葉は、レオンのゲーム知識と歴史知識を呼び起こし、思わず納得してしまいそうになる。


「いやいや、ちょっと待て! そいつ、十字軍でログアウトした騎士やんけ! お前らの戦史、次世代の教科書で『恋のために滅んだ王国』って一行で書かれるぞ!」


レオンは悲鳴を上げた。

ゲームの攻略本なら「戦争失敗フラグ」として真っ先に回避すべきイベントや。


「だが、それが騎士の美学だったのだ」


グラディウス卿の言葉には、揺るぎない確信があった。

レオンのツッコミは、狂気で塗り固められた世界には届かない。


その瞬間、会議室のドアが開け放たれ、数人の兵士たちが駆け込んできた。

彼らは皆、グラディウス卿と同じように、UIログを浮かび上がらせていた。


【新スキル獲得:推し嫁支援バフ】


「団長に続きます! 俺、推しのグッズ買うため軍俸を前借りします!」


「推しのために命を張る、それがこの世界の騎士の当然だ!」


「俺、推しの握手会優先なので戦場欠席します!」


「戦場も婚活も変わらん! 守るべきものは同じだ!」


兵士たちの熱狂的な声が響き渡る。

彼らの目には、もはや戦士としての使命感ではなく、盲目的な「推し」への愛しか見えなかった。


レオンは頭を抱えた。


「お前ら、戦争って概念どこに忘れてきたんや…! こうなったら国家統計の婚姻数、来月で100年分更新やぞ!」


セレスティア、リリアン、そしてミーナまでもが、レオンに詰め寄ってきた。


セレスティア「英雄様は誰を推すのですか? まさか、わたくしではございませんわよね?」


リリアン「ふふ、そんなに慌てて、もしかして私を推しているのかしら?」


ミーナ「……レオン様は、誰を守りたいですか?」


三人の視線に、レオンは絶望的な顔で机に突っ伏した。


「もう戦雲よりこっちのが地獄や…!」


ざまぁ格言:


「剣を捧げた先が戦場とは限らない。──推しの待つ舞台こそ、最前線だ」


【システム通知:国家防衛システム:更新 → 恋愛専用モードに切り替わりました】

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