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第23話『愚者のチェックメイト』

カザリナ王国、前線指揮所。


地図を囲む将軍たちの顔には、勝利への確信と、抑えきれない高揚感が浮かんでいた。


「――完璧だ。まさに、神に愛された作戦と言うべきだろう」


総司令官であるゲオルグ元帥が、皺だらけの顔に満足げな笑みを浮かべ、言った。

その隣で、皮肉屋で知られる副官のゼームスが、片眉を上げて静かに呟く。


「……おやおや、“神に愛された”ですか。神も、随分と安酒に酔っておられるようで」


その皮肉を無視し、太鼓持ちのビロク将軍が、大げさな身振りで元帥を持ち上げた。


「元帥閣下のご慧眼の賜物です! まさか、『疫病で弱体化した第三守備隊』の情報を、このタイミングで使うとは! それに比べてエルグレイスは、まるで酢漬けの鯖のように、ぬるく、臭く、そして骨の髄まで腐っておりますわ!」


「その通りだ!」と、別の将軍が興奮して続けた。


「敵の主力は、疫病の蔓延で、国境への到着が大幅に遅れる! 我々が砦を落とし、王都へ向かう頃、奴らはまだ、国内でのたのたと移動しているに過ぎん!」


彼らは知らない。

その「疫病の情報」が、レオンという存在によって、意図的にリークされた偽情報であることなど、夢にも思っていない。

一人の参謀が、得意げに口を開いた。


「エルグレイス軍が、混乱から立ち直り、防衛線を再構築する前に、我が国の誇る機動部隊が、この**『霧の谷』**を駆け抜け、一気に王都を叩く! まさに電撃戦!」


「うむ」ゲオルグ元帥は、深く頷いた。


「補給線が伸び切るリスクを指摘する臆病者もいたが、案ずるな。**敵の迎撃が遅れる以上、短期決戦は必定。**兵站など気にする必要もないわ」


彼らは、自分たちが「狩人」であると信じて疑っていないが、実際には、巨大な罠へと誘い込まれている「獲物」そのものだった。


「それにしても、エルグレイスのあの新しい英雄……何と言ったかな、レオンとかいう若造は、今頃どうしているでしょうな?」


「はっはっは、女の尻でも追いかけて、祝宴の酒に酔い潰れているに決まっておりますわ!」


将軍たちの笑い声が、薄暗いテントに響き渡る。

だが、その時、ゲオルグ元帥の脳裏に、一瞬だけ、説明のつかない引っかかりが生まれた。


「……とはいえ、あのレオンという若者だけは、少し気になる存在ではあるな」


一瞬だけ、ゲオルグの皺だらけの眉が寄せられる。

だが、その微かな疑念は、次の瞬間には、グラスを掲げた自信に満ちた笑顔でかき消された。


「聞け、諸君! この戦は、我らの勝ちだ! 歴史は、我らカザリナの名を、偉大なる勝利者として永遠に刻むであろう!」


ゲオルグが高らかに掲げたワイングラス。

その縁から、とくり、と赤い雫が落ちた。静寂の中に、まるで血が滴るような音がした。

地図の上に広がる『霧の谷』に、小さな、しかし消えない染みが、ゆっくりと広がっていく。

だが、勝利に酔う彼らの中で、その不吉な兆候に気づく者は、誰一人としていなかった。

カザリナ軍は、破滅へと続く『霧の谷』へ向かって、意気揚々と、その歩みを進めていくのであった。


今日のざまぁ格言:


『自分の立てた作戦に惚れ始めたら、だいたい負けフラグ』

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