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第12章:黒幕との対峙

 その場所は、地図にない地だった。

 世界樹アムニエルの根元、地殻を穿って広がる“禁断の祭壇”。

 源晶が六つ揃ったその夜、拓実たちは最後の一つを求めて、祭壇へとたどり着いた。

「……ここが、アムニエルの地下。こんなところに、こんな場所があるなんて」

 心花の声が、わずかに震える。

 天井には根が張り巡らされ、中心の台座には、空っぽの“第七の穴”が空いていた。周囲には、古代の魔法文字がびっしりと刻まれている。

 レクシーがその碑文を読む。

 「“七つの源晶、集うとき、全ての記憶は正され、全ての罪は再び燃える”……これは……?」

「元々、この祭壇は“世界樹の維持装置”じゃない」

 利奈が、持ち込んだ記録を重ね合わせてつぶやいた。

 「むしろ、“世界樹を破壊するため”に造られた、古代王国の“滅びの装置”……!」

 そのとき——闇の裂け目から、ひとりの男が姿を現した。

 「——正解だ。さすがは知識の徒たち。愚かな王族とは違うな」

 静かな拍手の音と共に現れたその男の名は、グラム。

 全身を黒い外套で包み、目元にかかる銀髪はどこか高貴な雰囲気を醸していた。だが、その瞳には、冷たい怒りが宿っていた。

 「ようやく会えたな、“勇導士”。そして、“王女”よ」

 拓実は剣を構え、問うた。

 「……お前が、この旅の黒幕か。何が目的だ!」

 「目的? くだらんな。お前たちが何を信じ、何を守ってきたかなど、私には興味はない。ただ、“真実”を正す。それだけだ」

 グラムが指先を振ると、六つの源晶がふわりと空中へ浮かび上がった。

 「……!? なんで、源晶が……!」

 「“魔脈操作”。君たちが長旅の果てに手に入れたそれは、全て“私の元に来るよう”術をかけてあったのだよ」

 全員の表情が凍る。

 グラムは続ける。

 「かつてこの大地を支配していた古代王国は、世界樹に“全ての記憶”を封じることで、真の歴史を覆い隠した。私の一族はその被害者だ。“王家によって存在をなかったことにされた民”だ」

 「……だから、お前は……世界樹を滅ぼそうと……?」

 心花の問いに、グラムは静かに頷く。

 「私たちの痛みも、怒りも、悲しみも——“存在しなかったこと”にされた。その罪、世界樹に刻まれている。“根絶”こそが、正義だ」

 その瞬間、祭壇の中心で光が渦巻き始めた。

 「まずい、グラムが源晶を使って“滅びの儀式”を始めた……!」

 利奈が計測器を握りしめた。

 「時間は……あと十五分。すべての源晶が重なれば、世界樹の根は自壊を始める……!」

     ◆ ◆ ◆

 「止めなきゃ……けど、正面からじゃ無理だ!」

 拓実が焦りながら言う。

 そのとき、颯汰が静かに剣を抜きながら言った。

 「俺が正面から引きつける。雄介兄、ルゥメルをお願い」

 「了解、突破口は俺たちが開ける。拓実、お前は“王女”を連れて、“台座に辿り着け”」

 「拓実、聞いて」

 心花が、小さな声で言った。

 「あなたは、もう一人で戦わなくていい。“みんながいるから”って、そう言ってくれたでしょ?」

 「……ああ」

 「だったら、私も、あなたに全部任せたりしない。一緒に、勝つの」

 その言葉に、拓実は静かに頷いた。

 「行こう。“俺たちの戦い”を、始めよう」




 戦いの幕が、切って落とされた。

 「いけ、ルゥメル!」

 颯汰の叫びに応じ、契約竜ルゥメルが雷のごとく咆哮を上げて突進した。巨大な翼が渦を巻き、グラムの周囲に立ち込める暗黒の障壁に衝突する。

 ズガァン! と地鳴りのような衝撃が洞窟全体を揺らした。

 「いいぞ……もう一撃!」

 「雄介兄! 障壁にひび入った! あと少し!」

 アリジャが地面に魔法爆雷を仕掛けながら叫ぶ。

 「突破するぞ! 炎雷双撃イグナ・エレクタ!」

 愛佳の手からほとばしる混合魔法が、突破口を広げるように障壁に叩き込まれる。

 そして——

 「今だ、拓実!」

 仲間たちの声が重なる。拓実と心花は、砂煙の中を走り出した。

     ◆ ◆ ◆

 祭壇中央では、六つの源晶がすでに浮遊し、黒い稲妻を放ちながら回転している。グラムの魔力がその中心に収束していた。

 「来たか。だが、遅い」

 グラムが冷ややかに手を振ると、闇の触手のような魔力が彼らに襲いかかる。

 「——私が守る!」

 心花が盾の魔法陣を広げる。拓実はその後ろで構えを取り、まっすぐ敵を見据えた。

 (俺はもう、一人でなんとかしようとしない。全部、仲間の力を——“頼って”戦う)

 「心花、三秒で遮断を破る! その隙に、一斉魔力封鎖で源晶を包んで!」

 「わかった!」

 拓実は剣を構え、跳躍した。

 「——一閃!」

 魔力を束ね、空中から叩きつけるようにグラムへ斬撃を浴びせる。だが、その身に触れる前に、グラムは淡く笑った。

 「君は強い。“信じる者”もいる。だが——この世に正しさはひとつではない」

 その瞬間、源晶が暴走した。

 「まずい! 魔力の共振が、グラムの“意志”に反応してる……!」

 利奈の声が遠く響く。

 「全源晶、臨界状態突入……このままでは、“封印”ごと世界樹が……!」

     ◆ ◆ ◆

 「もう止められないのか……?」

 拓実の足が止まる。

 そのとき、雄介が、静かに言った。

 「戦術は崩れない。お前が中心に立て。俺たちは周りから支える」

 「そう……拓実、あなたは今、“頼られてる”」

 心花が微笑む。

 「だから、あなたが“誰かを信じる”ことで、儀式の流れを変えられるのよ」

 「信じて……“俺の力だけじゃなく”」

 拓実は、深く息を吸った。

 「みんなの魔力を——ひとつに束ねる! 今までの戦いで共鳴した“記憶”を、この剣に!」

 剣が光を放つ。六つの源晶がその光に反応し、一瞬だけ動きを止める。

 その隙をついて、心花が叫ぶ。

 「封印魔法・再起動陣ノヴァ・シグナム!」

 拓実の剣が、祭壇に突き刺さる。同時に、仲間全員の魔力が彼を通して放たれた。

 ——一閃。

 世界が、静かに沈黙した。

     ◆ ◆ ◆

 次の瞬間、光が爆ぜ、グラムの身体が吹き飛ばされた。

 彼は倒れながら、それでも笑った。

 「ふふ……君たちは……そうやって、また“正しさ”を勝ち取ったのか……」

 「違う」

 拓実が静かに言った。

 「俺たちは、“誰かの正しさ”を押し付けたんじゃない。“誰かの痛み”を信じて、共に立っただけだ」

 グラムの意識が、崩れるように途切れた。

 ——勝利は、拓実たちの手に。

(第12章完)


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