ノン! ノン!
ステキな恋をしたいよね。
見取り図を開いてみようよ・・・結果は知らない。
沙華やや子にご縁を結んでくださりありがとうございます。
い・や・だ・!・・・ノーよ!!
「いやよ、あたし。とっても淋しい・・・ナオ」キッチンで洗いたての包丁を布巾で拭いたのでまるで剣を振りかざしているかのようだ、坂名50才女性は。ちょっぴり震え上がりながらも
「坂名・・・わがまま言わないの!オレが今どんな状況か知ってるだろう?」カリカリきている直41才男性働き盛りは、出版社の編集部員。残業は当たり前、この頃ではありがたいことに休日などあってないようなものの繁盛ぶりだ。最近ではふたりのテレフォンデートすらままならない。
「あたしとお船に乗って島まで遊びに行く約束をしたじゃない!カメラもバッチリ準備していたわ。新しいお洋服も買っていた!」わーーーーーーーーーーーーん!と泣き出す坂名。
今日は急に休みが出来たナオが坂名宅を訪れたのだ。
いやよ・・・い・や・っ!!あたしはどうしてお嫁にもらってもらえないの?
いやよ!ハイブランドで8万円なんてお安いネックレスなのよ!愛の証に今すぐ買ってよ!!いやよ!
「愛してるんだから!愛してるんだから!ナオきらい!!」
イヤイヤ期さながら...
直は「きらい」に傷つき落ち込んでいる。ナイーブな男なのだ。なにも物を言わない。
直は束縛を嫌う。坂名のような女を何で好きになったのか自分でもわからない。しかし彼女の虜だ。
結婚はしたくない、とはっきり告げている。
坂名はそれに対し、口では「はい」とおとなしく聴く。そういう時はべったりと直に子猫のようにまとわりついて甘えまくる。直はまんざらでもない。
坂名はすごくがまんしている。実はネックレスやお船よりもほしいものはナオそのものだ。ナオとの愛おしい時間。ほんとうはプレゼントなんてあんまり要らない。くれるなら飛び上がって喜ぶけれど・・・
ハ~... あたしがナオなら、男みょうりに尽きつるわよ?こんなに惚れられちゃって。
坂名は、ハッとしてナオの瞳を覗き込む、もう包丁は持っていない。
「ナオ…?ごめんなさい。嫌いとか言って。あたしはいつでもナオが大好きです…」涙の粒がまだほっぺに乾いていない坂名。
直は気難しい表情を何とかやめて、坂名の髪の毛を撫でる。いつものように。
「ナオ、愛してるぅ?」「愛してるよ」
二人がいっしょにいる時に今日のようなケンカは珍しい。
あたし、辛抱強すぎるとこあるもんな... そうして甘え方がわからない時がある。
一方直も不器用で口下手。誠実な男だ。軽々しくものを言わない。そんな二人であるがゆえにすれ違うことが時々あるのだ。
坂名と直はその日も一緒にお風呂に入り、愛し合い、ベッドへ行ってからも磁石のようにくっついて離れなかった。
「またくるよ。鍵、ちゃんとかけて・・・暖かい恰好するんだよ。」直が帰ってゆく時、坂名はスケスケフリルのベビードールで身を纏っていた。「はい」熱い・・・あついくちづけ。
約束はいつもできない。
淋しい・・・
そうしてしばらくナオには逢えていない。坂名は今日、自分で焼いたお好み焼きを爽やかな外の景色を眺めながら食していた。そして不意に気づいた。あたしは・・・
あたしは・・・
二度の結婚生活の際にも、ずっと昔に気の合う彼氏と同棲していた時も、また、一緒に暮らさずとも男性と付き合っていた時も
いつも・・・ さみしかったな と。
どんなに愛されても。孤独で、迫りくる逢魔ヶ時に襲われるかのような虚しさを常に抱えている。それは
今に始まったことじゃない。
坂名が育った環境は特殊だった。近親者の交際相手から性的虐待にも遭っている。
ココロの病の発露をきっかけにこの20年間、懸命にインナーチャイルドに向き合い、グリーフワークもし続けてきた。
成人した一人息子は坂名にとっての光だ。そこに、寂しさをにおわせる要素が1つも無い。
感謝しかない。
あらためて今日しみじみとコナモンを噛みしめるように坂名はおもうのだ。
悲しさがハンパないなと。
ひとりぼっちすぎる、と。でも・・・
坂名には友を持つ意味が良く理解できない。お友達が居ないことを寂しいとは全く思わない。
ひたすらナオと一緒に居たいと思う。ナオと絡み合っている時の恍惚はこの世のものとは思えぬ幸福だ。
宝石のような朝露は消えてゆくとき何を思うだろう?誰かに揺らされて土へ還ってゆく時。おひさまが容赦なく照り付けて天に蒸発してゆく時。なにをおもう?
冴えない人生だから、みんな笑顔で居るのかな...せめてもと。
ナオに依存して良いと思ってる。ナオに迷惑かけない程度にね。よくさ「共依存は悪」なんて本が昔あったけど、そんなものを推し進めていたら人類滅亡だぜ?依存して何が悪いの?
あたし、ナオが好きだから、ナオを困らせないように頑張って依存するの!
あたしの強烈な孤独感と侘しさの理由は、ここ数十年の勉強で理屈を理解した。
ただ・・・それは癒えることはないだろう。だって
感情で自分の痛みを未だに解ってやれていないから。
せめてあたし、楽しい振りしない。でもブスはやだから口角を上げる変顔体操は忘れない。
坂名は皆さんのお目にまたかかることになりそうです。そのときに彼女のなにかを感じ取って戴ければ幸いです。
※ なお、挿し絵はみてみんサイトさま「アフロ蛇丸様」によるものです。