8 恐怖
新たに姿を見せたのは『金』属性の神様、ヒルコさん。
そのヒルコさんに言われて、私は外界に出ることになってしまった。
私、戦う方法なんて知らないけれど……大丈夫なのかな。
眩しい道を開けた先は、とても寂しい場所だった。
家らしい建物は一つも無く、木々はあるものの何処となく元気が無さそうというか、今にも枯れてしまいそうなほどにしなびれてしまっている木。一応、森……なのだろうか。でも、森にしては緑らしい緑が無い。こういう所って、廃墟……建物とかは一切無いから言葉的にはちょっと違うかもしれないけれど、荒れ果てた土地……って言うのかな?如何にも、な場所だった。
「う~ん……ここも、こんな感じ、か……」
「こんな感じ、とは?」
「ん?ここってもっと緑が生い茂ってる場所なんだよ。自然に溢れているって言うのか?緑緑していてさ、天気が良い日に来てみると凄く気持ちの良い場所なんだぜ?……が、コレを見て気持ちが良いって思うか?思わないよなぁ……」
土は乾燥してデコボコと荒れているし、空を見上げてみても青空なんて広がっていなかった。何処までも灰色の空が広がっていて、気分は逆に落ちていってしまうような場所のような気がする。
「こういう所って、如何にもナニか出そうだろ?」
「は、はい……」
「へへ!でも、大丈夫!俺がいるし!俺だって強いんだからな!?ちょっとやそっとの悪霊が出ても俺が退治してやるつもりだけれど……まずは、ハノメが何か出来ないか……わざと危ない目に遭ってもらうつもりだ!」
「は?」
えーっと、私には皆さんのような異能力なんてものは使えないんですけれど……。
「言ったろ?火事場のバカ力的なヤツが出ないかどうか試してみよう!って」
「え、でも……私は、自分の力が何なのか……どんな風に使えるのかも分かっていないんですよ?」
「うん!だから、ここで試す!……まあ、これだけ寂れてると悪霊とか怨霊もすぐには出無さそうなんだよなあ……双子は気を利かせてくれたのかもしれないけれど……一体か二体ぐらい悪霊が出てくれないとこっちは困るんだけれどさー」
「私が……傷付いたら?」
「そうならないために俺がいる!もしも、ハノメがまだ能力に目覚めていないっていうなら……マジで、何もできないって感じだったら俺がちゃんと守る!だから安心しろって、な?」
うーん、気持ちは嬉しい……。
いざとなったらきちんと守るって言葉は嘘じゃないかもしれないんだけれど、それでも不安に感じてしまう。わざと危険な場所に来て、力を目覚めさせる……そんなこと、本当にできるのかな?
「ヒルコさんは……初めて力に目覚めたときって覚えていますか?」
「俺か?う~ん……そう言えば、どうだったんだろ。もともと、俺って力が強かったんだよ。あ、何処にでもあるような村生まれだったんだけれどな?そこで、体力自慢!腕力自慢!っつって、結構評判が良かったんだぜ?働き者の一人だ!っつってな。でも、その力は普通の力じゃなくて、神様が本来持つべきものだってある時、急に双子があらわれて言われたもんだから村から去ることになって……って感じだったかな」
「力が強いんですか……」
「そそ!あ、この腕で?とかって思うだろ?他の能力者とは違って、俺はこの腕で直接戦うんだ。この手に力を込めて、悪霊をぶっ飛ばす!まあ、戦ってる俺も結構気分良かったりするから俺の戦い方に合ってるって思ってるんだ!」
ヒルコさんは『金』属性の神様だっていうことだったから、金……えっと、金属的なものに力を加えて戦ったりするものかと思っていたけれど、まさかの素手!
カグツチさんは手から炎を出しているところを見た、双子ちゃんたちは良く分からないけれど二人の呼吸が大切になっているものだと思う。ドグジンさんの力は直接目にしたわけじゃないけれど何か凄そうだって思えた。そして、ヒルコさんは素手で戦うんだ。それぞれに、属性っていうか個人に合った戦い方っていうのがあるのかな?だったら、私は……?
今まで武道系に嗜んだことなんて無いし、特に力が強いってわけでもないし……何が、できるんだろう。
「はは!まあ、最初ってワケ分かんねえことばっかだし、しょうがないって!でも、一応自分の身を守るってことも大切だからさ……最低限でも戦えた方が良いのは事実なんだぜ?」
「それは……はい、分かってはいるつもりなんですけれど……」
う~ん、と唸っていると急に背筋がぞくっとした。
この感覚があるってことは、もしかして……。
「!お、気付いたか?そろそろ何か出そうだから、気合いだけは入れておけよ~?」
ごくり、と喉を鳴らしながら何処から、何があらわれる!?とキョロキョロと視線を彷徨わせる。こんな寂しい荒れた土地の、何処から……。と、最初は気のせいかと思っていたけれど、地面が……揺れて、いる?
地震、だろうか。
「……こりゃあ、下だな。足元からひょっこりあらわれることだってあるから気を付けていろよ!」
「はい!」
だんだん地震も強くなり、ぐらぐらする体が倒れてしまわないようにしっかりと足で踏ん張っていたのだけれど、バランスを崩してしまった私はぐらりと地面に衝突……する前に、ヒルコさんに肩を支えてもらって立ち続けることができた。
背丈はカグツチさんよりも低くて、少年っぽさも残っているヒルコさんと思っていたのだけれど、肩を抱き留めてもらうだけでよく分かる。とても男らしい力をしていた。
「気を付けろよ~?ま、そのための俺なんだけれどな?」
「あ、ありがとうございます……」
私がそうお礼をつげた時に、地面にひび割れが起きた。
そこからニュッとあらわれたのは……もぐら?いや、もぐらじゃないとは思うのだけれど、敢えて例えるのならば、もぐらっぽいような見た目。これが、悪霊?
「これは……怨霊の類だな。後でいろいろ説明してやるけれど、まずは何か出来ないか試してみろ!」
ぽん、とヒルコさんに背中を叩かれるが、この怨霊を前にしても私には何かができそうな気配は無い。怨霊らしきその物体は、地面から完全に姿をあらわすと、地面を這うようにして(足?というか触手?みたいなもので這っているみたい)どんどん近付いてくる。
私は、完全に弱腰になってしまって、どんどん後ずさってしまうが……。
「逃げるな!自分を信じて、何か試してみなきゃはじまらないだろ!」
「うっ……」
でも、何かを試すにしたって、何を!?どうしたらいいの!?
地面を這うものとばかり思っていたけれど、私とある程度の距離を縮めた怨霊はぴょんとジャンプをして私に襲い掛かってきた。それはそれは大きな口を開けて、ギラギラとした牙が見えた瞬間、ゾッとした。あれに、噛み付かれたら只事では済まないだろうと……。
「……仕方ねえな……おら、よ!!」
ガクガクと震える膝で、立っているのがやっとの状態のままで立ち尽くしていると背後から飛び上がり、輝きを放っている拳で怨霊を殴り飛ばしていくヒルコさん。たった一回……拳に当てただけで、怨霊は消えて無くなってしまった。
「あ、あ……っ……」
悲鳴を上げることもできずに、とうとう地面に座り込んでしまった私。そんな私を見下ろしながらヒルコさんは腰元に手を置きながら『う~ん』……としばらく唸っていたものの、小さく溜め息を吐いて『ごめんな?』と謝罪してくれるとともに座り込んでしまった私に片手を差し出してくれた。私は、この手を借りながら立ち上がるとブルブル震える体をぎゅっと自分の腕で抱き締めていた。
「……怖かった……よな。ごめんな?……帰ろう、みんなのところに。そろそろアイツも帰ってきてると思うから……あの場所に戻ればゆっくり休めるから、だから、帰ろう」
『おーい、双子ー!頼む!!』と何も無い空に向かって声をかけると、また眩しい道ができた。私は震える体をヒルコさんに肩を抱いてもらいながら俯きつつ眩しい道を進み、あの庭園へと戻ってきた。……何も出来なかった。……ただ、怖いって思うだけで……これじゃあ、私何もできない……。
普通に暮らしていれば目の前にワケの分からないモノが出て襲われれば逃げることもできないと思います。ただ、その場にいることしかできなくて、声も出なくて……ただ、そこにいるだけ……それほど怖い目に遭ったことはあるでしょうか?
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