48 私の答え
まさかの姫昌さんが病を患っているだなんて……。
見た目じゃ、全然分からなかったなあ……。
「……治せるものならば、私も治したいです。姫昌さんには私も助けてもらいましたから。でも……どのように力を使えば良いか……」
この見知らぬ地に来て、柔らかな笑みとともに迎えてくれたのは姫昌さんだ。めちゃくちゃ偉い人なのに、上から目線っていうことはなく、同じ位置からきちんと話をしてくれる姫昌さんは私だけでなく、多くの人たちからも慕われているだろう。だからこそ、私が傷を治したという話を聞いて、すぐに『病気は治せるのか?』という話題になったのかもしれない。
この時代、特有の病とかってあるんだろうか。それとも、所謂医療がまだまだ発展していないから不治の病的な存在もあったりするんだろうか。それを医師たちとか、姫昌さんの周りにいる人たちは気付いているのだろうか?太公望さんは個人的に姫昌さんから話を打ち明けられたらしいのだが、それは息子の伯邑考さんには伝わっているのだろうか?
もしも私が治せるのなら、すぐにでも治しにいきたい。でも、変に期待を持たれてもいざ試してみたら出来ませんでした、治せませんでした……ってなったときの、周りからのガッカリ感っていうのはとても強いモノになってしまうだろう。失敗をするぐらいなら、試してみない方が良いだろうか……周りから、結局はダメだったか……と言われるぐらいなら、挑戦しない方が、期待を抱かせる方が失礼にあたらないだろうか……。
「ハノメさん。僕も、自分の影を使って哮天犬や他のモノを生み出すまではかなりの時間を必要としましたし、自分の力に慣れるまではかなり精神的にもツラいものがありました。なので、出来なければ出来ないで仕方ないこともあると思います。それに太公望も言っていたでしょう?人間ならば死は必ずおとずれるものです。そして、人間の死というものは早くおとずれる者もいれば、長寿……長生きをしている者もいますが、それは人それぞれですからね」
「……この子……哮天犬が、暴れたりだとか、言うことを聞かないときってあったりしましたか?」
「そりゃあもちろんありましたよ。暴れる、噛む、言うことは無視、なんて当たり前のようにありましたからね。でも、一緒にいるうちに自然と絆のようなものが生まれて今では自分自身の分身のような感じで接しています」
意外、だった。
だって、今では楊戩さんの隣にいることが当たり前だとばかりに大人しく座っているし、無駄に吠えない、暴れないという様を見てしまっているからだろうか。とてもじゃないけれど暴れていただなんて想像がつかないなあ。
「分身のようなもの、ですか?」
「……あまり大声では言えないことなのですが、僕は哮天犬たちを生み出す以外にもちょっとした術というものも扱います。それは、時に多くの人たちのやる気を生み出すこともありますが、下手な使い方をすれば破滅に陥れることも可能な術になります」
それは、聞いてみても良いものなのだろうか。でも、楊戩さん的にはあまり大っぴらに言うことは控えているような感じがするから『それはどんな術なんですか?』とは聞かずにいた。きっとそこまで教えてもらえるような信頼関係を築けているとも言えないだろうし、楊戩さんが自分から話さないことならば無理に聞くのも悪い気がする。
「僕は、今までハノメさんは水を凍らせるところしか拝見していませんでしたから、水を操る術でも持ち合わせているのかと思っていたのですが……もしかしたら決め手となるのは、あなたの心なのかもしれません」
「心?」
「はい。あなたが何をしたいのか、何を見てどうしたいと考えるのか、それによって様々な現象が引き起こされるのではないでしょうか」
私のしたいこと……守りたい力が欲しいと考えた。そして、たまたま傷を負った天化さんの手を見たら、少しでも良くなるように、と考えていた。そうしたら治ってしまった……んだっけ。その気持ちみたいなものを強く思えるようになれば、もしかしたら姫昌さんの体を蝕んでいる病とやらも消すことが出来るのかな……?
「……姫昌さんとお話することって出来るんでしょうか?」
姫昌さんは忙しいんだろうか?一応、国のトップっていう位置にいる人だよね。私なんかと話をしてくれる時間を確保してくれるだろうか……でも、何も分からないまま治すか治せないか、と悩んでいるなら姫昌さんの顔を見て、いろいろ話を聞いてみるのも良いかもしれない。
「もちろん予定を組んでもらう必要があるかもしれませんが、決して無理なことではありませんよ。……一度、姫昌さんとゆっくりお話してみますか?」
「……はい。ただ、太公望さんや楊戩さんから話を聞くだけだと姫昌さんがどんな病と闘っているのかも分かりませんし……」
「……だ、そうですよ。太公望」
楊戩さんが少しばかり声を大きくすると小部屋からは近い位置にいたようですぐに顔を出してくれた太公望さん。
「……話は、まとまったか?」
「……出来るかどうかは分かりません。でも、それ以前に姫昌さんのことをきちんと知って、もしも聞くことが出来るなら体の症状とかも詳しく聞いてみたいと思います」
たぶん、太公望さんのことだから室内にて楊戩さんと私との会話のやり取りには耳をすませていたのかもしれないけれど、改めて私から意見が聞きたかったのかもしれない。『お前はどうするんだ』と太公望さんの顔に書いてあるもんね。
「……分かった。それなら、姫昌殿に時間を確保してもらう。そもそも最近は、仕事の方も息子の伯邑考殿に任せることが多くなってきているから話をするぐらいならば問題無いだろう」
「!よろしくお願いします!」
深々と頭を下げると頭の上では太公望さんと楊戩さんがお互いに顔を合わせて苦笑いを浮かべていたらしい。
きっと病気、と聞けば治したい!と思うだろうが、私には完璧にこういう力を扱うことが出来る!という自信が無い。だからこそ、自分で考え、何がしたいのか……ということを考えさせたらしいのだ。確かに、私ってちょっとダメなところがあると尾を引いてしまうところがあるというか、少しでも不安があるとやっぱりダメなのかな……って考えちゃうところがあるし。双子ちゃんからは素質がある、とは言われていたけれどどんな力が使えるのか?なんてさすがの双子ちゃんでも分からないもんね。こればかりは自分で見つけ出していかないといけないものらしい。
楊戩さんもいろいろな術を使うらしいが、大変な時間が必要だったという。きっと私は、その楊戩さんの何倍もの時間が必要になるかもしれない。それでも、私でも何か出来るのならば……してあげたい、と考えてしまうのはエゴになるんだろうか。
「姫昌殿の体について知るのは私と楊戩、そしてハノメだけだ。なるべく他で話をするときには注意をするように。……ハノメ、姫昌殿の元に行くぞ」
「はい……」
「ハノメさん。人は何事でも出来ることもあれば出来ないこともありますからね。どうか、重く抱え込むことはせずにいてください」
「あ、はい。楊戩さんも……哮天犬、でしたか。ありがとうございました」
ぺこり、と楊戩さんに頭を下げていけば部屋を出ていき、姫昌さんの所へと歩き出していく太公望さんの数歩後ろを歩きながらついていった。今回は、手を引っ張って歩くことはしてくれないらしい。きっと太公望さんも姫昌さんのことを心配しているんだろう。確か、古い友人だったんだっけ?……あれ、でも、そうすると太公望さんって年齢っていくつになるんだろう?姫昌さんはどんなに若く見たとしても四十代後半ぐらいから五十代ぐらいってところだろうか。……太公望さんは?見た目は二十代ぐらいだろうか。でも、古くからの知り合いってなると……意外と太公望さんもかなりの年上だったりするんだろうか?
分からないことだらけ、なんだなあ……。
出来ることもあれば、出来ないこともある。それは普通のことなんですが、どうしても主人公的にはなんでもかんでも背負い込みたくなるんでしょうかね??
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