3 双子は有名な神の名前でした
ヤンキー青年とともにやってきたのは、素敵な庭園だった。
大げさかもしれないけれど、この世のものとは思えない……それほどまでに綺麗だったから。
そして、童水干を身に纏っている双子……イザナギ、とイザナミと言うらしい……あれ、その名前何処かで……。
『『お初にお目にかかります。我々は、イザナギとイザナミと申します』』
やっぱり!
最初は私の気のせいかと思っていたけれど、『イザナギ』と『イザナミ』って聞いたことがあるわ!えーっと……確か、なにかの神様で有名だったはず……えーっと……なんの神様だったっけ?
「……おい。双子が名乗ってんだからお前も名乗れよ」
「……水鏡葉乃芽といいます」
さっきは、名乗るなって言ってみたり、名乗れって言ってみたり……一体、どっちなのよ。
それにしても……双子なだけあって、そっくりなのね。長い白髪(白って言うより銀髪なんじゃないかしら?)に、蒼い綺麗な瞳。どちらも童水干っていう平安時代の子どもたちが着ているような服装をしているからちょっとどっちがどっちか分かっていないんだけれど、綺麗ね……。
「つか、双子よぉ。ここに来られたってことはコイツは能力者なのか?」
「能力者?」
『『……はい、紛れもなく。ただ、今は、そのお力はお目覚めになられていないようです』』
この双子、喋るときは二人同時に喋っているのかしら。
タイミングもバッチリね。
それにしても『能力者』って何なのかしら?
「それって、ほぼ『人間』と変わらねえんだよな?いても意味が無えじゃねえか……」
「ちょ、さっきからなんなんですか!?だいたい、こっちはいきなりワケ分からない所に来たばかりで何も分からないんですよ!」
つい、ヤンキー青年にムカッと来てしまい言葉を荒げてしまった。
だって、分からないことは事実だし。
「だーから、ここに連れて来たんだろ?……他の奴らは?」
『『他の能力者様たちも怨霊退治に外出しております。どうぞ、お二人はお寛ぎくださいませ』』
はぁ~、と溜め息を吐きながら桜(?)の花びらが舞い落ちてくる大木の根本に腰を下ろすヤンキー青年。そして、私もお言葉に甘えて座ることにした。ひらひら、と落ちてくる桜(?)……だよね。花びらが次から次へと……凄いな。ここまで立派な木もなかなか見ることはできないもん。
『『少し落ち着かれましたら、この世界のこと。そしてハノメ様についても少しご説明させていただきます』』
「え?あ、ありがとうございます……」
すると何処からやって来たのか、黒子装束で顔がまったく見えないけれど複数の黒子装束さんたちが日本茶を運んで来てくれた。ついでに、和菓子も。ヤンキー青年はお茶よりも先に和菓子に手を伸ばしてバクバク食べていたけれど……もしかしてお腹空いていた?私は、温かなお茶を少しずつ口にしていくとホッと息を吐いた。
「……美味しい……」
『『ハノメ様のお口に合ったようで何よりです。少し長くなってしまうかもしれませんが、お話をはじめてもよろしいでしょうか?』』
「は、はい!」
『『ハノメ様は、この世界にあるありとあらゆるモノには神が宿っていると聞いたことはございますか?』』
!それ、よくお祖母ちゃんが話してくれることだ。
もちろん、こくんと首を縦に動かすと双子たちはそっくりな笑顔を向けて頷き返してくれた。
『『では、陰陽五行説というものはお聞きしたことはございますでしょうか?』』
「陰陽五行……あれ、それって風水の話じゃなかったでしたっけ?」
『『はい。少しでもご理解があるならお話は早そうですね。今、この世には五行属性のバランスが崩れている状態と化しております。そのため悪霊や怨霊たちが世に蔓延ってしまうようになりました』』
さきほどヤンキー青年が炎でやっつけたヤツだったわね。
遠目では、そんなに悪いモノとは思えなかったけれど、でも背筋がゾワゾワした感覚はあった。きっと良くないモノなのかもしれない。
『『先ほどカグツチ様とハノメ様がいらっしゃった周辺に寂れた神社があったことは覚えていらっしゃいますでしょうか?』』
「はい。もともと私が参拝に訪れたお社だったのですが……その、目を開けた途端にあんなふうにボロボロになってしまっていて……」
『『あのように寂れてしまってはいますが、元はとてもお綺麗なお社だったのです。そして、そこには水の神を祀っていると言われております』』
!やっぱりお祖母ちゃんが言っていることと同じだ。
単なる言い伝えだとかじゃなかったんだ。
「えっと……どうして、私はここにいるんでしょうか?私は毎朝の習慣で、あの神社に参拝に来ただけなのですが……」
『『その、大変申し上げにくいことなのですが……ハノメ様のお力もお貸しいただき、この世のバランスを元に戻していただきたいのです。それまではハノメ様を元の世界に御戻しすることができません……』』
「は?」
『『……申し訳ありません』』
つまり、世界のバランスを私も一緒になって戻せ、と?そうしないと、帰れない、と?
「でも、私には……その……あの人のような力なんてありませんけれど……」
ちらり、とヤンキー青年の姿を視界に入れてから、すぐに双子へと視線を戻した。ちょっと睨まれているような感じがして、気まずくなったからっていうのもある。
『『素質はあります。ただ、今は何故かその力がお目覚めになられていないだけなのです。この世には、水の気を扱える者が今のところハノメ様しかいません。どうか、お力をお貸しください……』』
うっ……そんな、小さな子が二人揃って頭を深々と下げないでよ……。
そこまで言われると、仕方ないけれど……帰るため、だし……『はい』と言うしかないじゃない。
「えっと、今の……水の気っていうのは……」
『『五行の話になります。木火土金水の属性のことをいいます。そして、カグツチ様は火の気の属性の能力者にあたります』』
ヤンキー青年、もとい……カグツチさんは、チッ……と舌打ちをしていたようだった。ガラ悪いなあ……見た目に反することなく。そのまんまじゃん。
「なんとなく、ですが話は分かりました……。でも、私はその、能力?が目覚めていないみたいなので、それまではどうしたら良いんでしょう?」
『『まずは、ここで他の能力者たちの帰還を待ちましょう。もしかしたら他の能力者たちが集まればハノメ様のお力が目覚めるかもしれません』』
力、ねぇ……。
カグツチさんがやっていたように手のひらを見つめて集中してはみるが、うんともすんとも言わないし、何かが生み出されるような気配もまったく無い。
「……おい。俺とお前は属性が違うんだから、俺のように炎をイメージしようとしても無駄だぞ」
「へ?」
いつの間にか私の近くに立って見下ろしてくるカグツチさん。
「お前の属性は……『水』だろう?だったら……あーいうのをイメージするのが良いんじゃねえか?」
カグツチさんが庭園を見渡すと池に向かって指先を向けた。
「えーっと……どういうイメージをすれば良いんでしょう?」
「俺が知るかよ、自分で考えろ」
ええー……そこはヒントとか、何かもうちょっと無いの!?
水……水、よね……えぇ!?
『『うふふ、ハノメ様。そう慌てずに、他の能力者たちのご帰還をお待ちしましょう。大丈夫です。ここにいれば安全ですから』』
あ、やっと子どもらしい表情が見られた気がする。
なんとも無邪気で可愛らしい笑い方だった。さっきまではやっぱり暗い表情をしていたけれど、今の方が全然良い!
「……可愛い……」
『『はい?』』
「お二人とも、やっぱり笑うと凄く可愛いです!あ、頭とか撫でても良いですか!?あ、こういうことって無作法に入っちゃいますかね……?」
『『ふふ、そういうことはあまり言われないのですが……ハノメ様が良ければ、いくらでもどうぞ』』
やった!
ずいっ!と双子に近付くとよーしよし、とそっと綺麗な白髪を撫でていった。おおー!やっぱ凄いさらさら!長いのに、凄くさらさら!
しばらく私は、双子ちゃんの髪を撫でることを満喫していたのだった。
双子は、一応能力者たちのまとめ役……のようなものだと思っていただけると。
五行っぽいお話もはじまりましたし、他の属性の方たちは一体どんなキャラクターなのでしょうか!?是非、興味、お楽しみください!
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