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サンタクロースになれそうにないから

作者: 七寒六温

「はぁー やっぱりダメだったかー」


「ん? どうしたの?」

 大きなため息をつく僕に、彼女はそう声を掛ける。


「愛のないセックスを4回すると、トナカイになれるって聞いたんだけれど、結局なれなかった」

 彼女とするのはこれで4回目。僕と彼女は付き合っているわけではない。たまたま共通の友人がいて、こういうことをする関係になった。僕にとってセックスは、トナカイになるための手段でしかないから、彼女に対して申し訳ないと思うけれど、彼女も僕のことを恋愛対象としてみているようには思えなかった。


「愛のないセックスを4回すると、トナカイになれる? 何、その話? どこの情報?」 

「ていうか君、トナカイになりたいの? トナカイでいいの?」


「いや、第1希望はサンタクロースだったんだけど、サンタクロースにはなるには条件が厳しくて……」

「どうやらサンタクロースになるためには15年間、どんなことに対しても怒らず生活し、300人以上の人間から感謝し、感謝されないといけないんだって」

「だからさ、サンタクロースの側にいれるトナカイにでもなれればなって思ったんだ」


「サンタクロース?」

「ごめん。サンタクロースになりたいといわれても私、いまいちピンとこないわ。大金持ちになりたいだとか才能が欲しいとかなら共感できるけど、なんで、サンタクロースになりたいの?」


「それは……僕はさ、これまで人に褒められるような人生じゃなかったから。これといって褒められるようなことはしてないけど、生きている以上は誰かから褒められたい」

「だから、サンタクロースになって、たくさんの子どもたちのことを笑顔にできたら、僕も褒めてもらえるかなと思って」


「ふーん。なるほど」


「トナカイは、サンタクロースの相棒。サンタクロースが褒められるならばトナカイも必然的に褒められると思うんだよ」

「トナカイがいなければ、サンタクロースがプレゼントを配る範囲が狭くなってしまうでしょ」

「クソっ! どうしてなんだ。愛のないセックスを4回。4回したらなれるって聞いてたのに、何が間違いだったんだ!」

「確認しますけど、僕たち4回目ですよね? 3月に1回と先月に2回、今日を入れたら4回。4回目」


「うんそうだよ。私たち4回目だね」


「……じゃあどうして? どうして僕はトナカイになれないんだよ」


「トナカイになれないって泣いている人間初めて見た。トナカイ側からしても贅沢な悩みだと思うけどね。人間からトナカイになりたいなんて」


「何でなんだ。 えっと、もしかして情報が間違っていた? おかしいとは思ったんだよね。サンタクロースになる条件はあんなに難しいのに、トナカイはめちゃくちゃ簡単なんだもん」


「……そりゃそうでしょ。普通信じないよ。あんな情報、嘘に決まっているでしょ」

「大体ね、その情報が本当だったら、世の中トナカイだらけで溢れているよ。愛のないセックスを4回なんて、経験している人はたくさんいるよ」


「いや、そんなことはないよ。みんな何かしらの愛を持って、セックスに臨んでる」


「えっ? 君、ばかなの? ピュアボーイなの?」

「君が思っているほど、セックスって神秘的ななものではないから。自分の欲求を満たすためだとか、その場のノリでだとか、様々な事情で、愛と愛でセックスしないことはあるよこの世の中」


「……いや、たとえ自分の欲求を満たすためだとしてもさ、それは自分自身への愛なんじゃないのかな。自分を大切にしているって面では愛のあるセックスだし、自分を大切にしている人っていうのは、ほんの少しかもしれないけれど、行為をする相手に対しても愛は持っていると思うんだよね」


「……えっと、君はそれに当てはまらないの?」

「君も知らず知らずのうちに愛のあるセックスをしてしまっていたんじゃないの?」


「いえ、僕の場合はないです。行為中、ずっと頭の中でトナカイのことだけを考えていました。トナカイになりたいトナカイになりたいって。僕にとってセックスは修行でしたね」


「……それはそれで、私は傷付くんだけど」


「あ、ごめんなさい。そんなつもりではないのですが、僕はどうしてもトナカイになりたかったので」


 

「……」


 少しばかりの沈黙の後、彼女が何かを思い出したかのようにこう言う。


「分かった。君の話を思い返してみたんだけど、君も、愛のあるセックスをしてしまっているんだよ」


「いや、そんなはずはありません」

「僕、トナカイのことしか考えてなかったですよ?」


「それだよそれ。君がトナカイになりたい理由ってなんだったっけ?」


「僕がなりたい理由は、世の中の役に立ちたい、誰かに褒められる人生を送りたいと思ったからです」


「愛じゃん……」


「へ?」


「世の中の役に立ちたい。それは誰かに対しての愛だし、褒められる人生を送りたいっていうのは、自分自身への愛だからだよ」

「トナカイになりたいという思いが、すでに愛だったんだよ。だから、君はトナカイのことを考えてセックスした君は、愛のあるセックスをしたってことだよ」


「詰んだ。無理じゃんこんなの……」

「じゃあ、トナカイになりたいと思っている以上、僕のセックスには愛が生まれていたってこと。無理じゃん。この先、どうやってもこれじゃあ成功しないよ」

「くっそ〜僕は、僕はトナカイになれないというのか」


「ねぇねぇ、そんなに残念がらなくていいよ」

「私、トナカイになれる方法は知らないけど、サンタクロースになれる方法は知ってるよ」


「えっ? 本当に? お願いします。教えてください」


「フフッ。それはね」

「私と付き合って、結婚して将来的に子どもができたら、君はきっと、サンタクロースになれる」

「1年とか2年ではなれるわけではないし、そう簡単なことではないけれど、君が言った方法よりは、現実的だとは思わない?」


「き、奇跡だ!」

「知らず知らずのうちに僕は、サンタクロースの家系の人と出会い、セックスをしていたのか」


「違うよ、違う違う。私がサンタクロースの一家なわけじゃないけど」


「えっ? でもあなたと結婚し子どもができたら僕はサンタクロースになれるんですよね?」


「まだ気付いてないの? 私が言った意味」

「もしかして君、サンタクロースいると思っているタイプ?」


「サンタクロース。いるよもちろん」


「いる……?」

「ピュアボーイかーーー!」

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