スカウトの才能
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私は大手事務所のスカウトマンだ。友人と事務所を立ち上げ、10年で国際的にも知られる芸能事務所を大きくしていった。自分で言うのも何だが、私には人がどれだけ大成するか見極める力がある。
だから、経営やマネージメントは他の者に任せ、破格の給与を貰って、日々国内外を飛び回りスカウトして回っている。
芸能というが、実際は学者やアスリートの育成もしている。才能とは努力を楽しいと思い、成果をだせる能力。街で見かけた有望そうな若者に声を掛けて資金を出して各業界に売り込む。芸能界だけでなく、学会や競技会、出版社などに。
異世界物語が流行ったお陰で、私の能力も「凶悪スキル持ち」として業界に認識されるようになった。ただ、私はタレントを見つけるだけ。育成は、「育成能力持ち」のプロデューサーにお願いしている。
才能の萌芽は数値やグラフで見えるわけではない。気の大きさでわかる。路上で歌ってたミュージシャンの大きさに気づき、育成をお願いしたら、グラミー賞を取った。ウチの事務所の稼ぎ頭だ。
でも、まだ、設立して10年。ノーベル賞レベルまでのタレントを見つけたいと思う。
ある日、駅でとてつもない気を持った青年に出会った。整った顔立ち。精神を反映する凜としたした佇まい。この青年は何者だろうか。もしや、すでに他の事務所のタレント?
そんなことはよくある。テレビに出ない天才アーティストが中年も過ぎているのに未だにスカウトに遭うと行ってた話を思い出した。光り輝くおばさんがいたので声を掛けてよく見たら中島みゆきだったことがある。
私は声を掛けることにした。すでに事務所に属しているのなら仕方ない。まあ横取りしたいけど、仁義という物もある。青年は重そうなデイパックを背負っている。
「すみません、私こういう者ですが、是非お話をお伺いしたく」と、名刺を渡す。
「マルチや宗教はお断りです」青年は名刺を見る前に言った。
「いえいえ、私はスカウトでして、あなたに才能があるとお見受けしました」
青年は、ちょっと悲しそうに笑って、
「私は芸能人になりたいんじゃなくて、作家になりたいんですよ。原稿どこも採用してくれませんけどね」
「作家。構いません。当社ではいろんなタレントをプロデュースしてます。あなたのなりたいものになってください。応援します。ちょっと、そこのドトールで話しませんか?」
青年は疑わしそうな目をしたが、一緒に喫茶店に入って話を聞いてくれた。
彼はここ数年、仕事で精神を病んで、小説を書き始めたという。ただ、新人賞にいくら応募しても一次も通らない。止めようかと悩んでいたところとのこと。
「新人賞はダメですよ。あれ、話題性のある人でないと賞は取れません。出版社もビジネスなので、一般人はほぼ無理です」
「そうなんですか。どうすれば」
「お気に入りの作家とかいますか?」
「スティーブン・キングとか好きですね」
「インタビューセッティングしますよ。色んな作家さんと話して、出版社にコネを作って、技術を盗みましょう」
彼は呆然とした。
「そ、そんなことができるんですか?」
「ウチの事務所に入ればできます。そして、私はタレント・才能を見極める能力があります。君、大作家になれますよ」
「どうも話が上手すぎて……信じがたいです」
「すぐに決断しなくてもいいです。連絡先を交換しましょう」
スマホを出したときに青年の手が震えているのが分かった。実は私もドキドキしていた。
後年、現代のシェイクスピアと世界でいわれるようになった大作家との出会いはこんな感じだった。