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芝居茶屋襲撃

芝居茶屋襲撃


「ママッ!」

ルナがローラに体当たりする様にして抱きついた。

「ドウシタノ、ルナ?」

ローラが驚いてルナを抱き止める。

「コワカッタ!!!」

今まで我慢していたのだろう、堰を切ったようにルナが泣き出した。

「何があった、志麻?」一刀斎が訊く。

「ごめん、私・・・」

志麻は浅草の奥山でルナが攫われた事、間一髪で救い出せた事を皆に話した。

「なに!そんな事があったのか、だからあれほど注意しろと言ったじゃねぇか!」珍しく一刀斎が志麻を責めた。

「シマ、ワルクナイ、シマ、ワタシマモッテクレタ!」ルナが言った。

「ルナいいのよ、私が気を抜いたのがいけなかったの」

「当たり前ぇだ!剣術使いがそんなところで油断してどうする、下手したら二人とも死んでたんだぞ!」

「一刀斎、もうそれくらいにしておけ、志麻だって必死でルナを取り戻して来たんじゃから」慈心が志麻を庇った。

「ソウデス、シマサンニルナヲアズケタノハ、ワタシタチノカンガエカラデス。シマサンニセキニンハアリマセン!」ローラが一刀斎に詰め寄った。

「俺は剣術使いとしての心得を説いているんだ!」

「イットサイ、モウイイデス、シマヲセメルコレカラノシゴトニヨクナイ」

「ベアトさんよ、お前ぇこれだけ狙われても、まだ江戸見物を続けるつもりかえ?」

「アタリマエデス、ワタシ、イチドキメタコトサイゴマデヤル」

「ふん、勝手にしろ・・・」

「オヤ、イットサイ、コノシゴトカラオリルツモリデスカ?」

「そんな事は言っちゃいねぇだろ、俺は途中で仕事を投げ出したりしねぇ!」

「みんなごめんなさい、私のせいで・・・」

「志麻、もう良い。それより上方の香具師は松金屋を狙う一味と関係あるのか?」慈心が訊いた。

「分からない、子分は知らないって言ってたけど・・・」

「まぁ、いずれにしても用心に越した事はねぇ、これから吉原に向かうにせよ日本堤を行くのは避けた方がいいな」一刀斎が話柄を変えた。

「ならば、どの道を行く?」

「そうさな、一度筑後立花藩の下屋敷の方へ下って、大音寺を右に折れよう」

「吉原西河岸を回って五十間茶屋へ入るのか?」

「あの辺は屋敷や寺が多い、塀沿いに行けば目立たないだろう」

「うむ、それが良いかもしれぬな」

「じゃあ、爺さん悪いが誰か店の者を呼んできてくれねぇか、裏口から出してくれるよう頼んでみる」

「よし、分かった」

慈心が襖を開けて座敷を出て行った。

一刀斎と志麻は気まずい雰囲気で黙りこくっている。一刀斎にしても志麻の身を案じての小言だったに違い無い。それが分かっているから志麻も大人しく黙っているのだ。

やがて慌てた様子で慈心が座敷に飛び込んで来た。

「一刀斎、どうも様子がおかしい!」

「どうした?」

「誰も居ないんじゃ!」

「なに!」

「どうやら、志麻ばかり責めてはおられぬようじゃ」

「チッ、俺たちもハメられたって事か!」

「その様じゃな」

一刀斎が二階の窓障子を一寸ばかり開けて通りを見下ろした。どこかで足止めをしているのか、人通りはすっかり途絶え、長脇差や竹槍で武装した遊び人風の男達が店の前に屯している。

「見ろ、表はすっかり塞がれちまってるみてぇだぜ・・・」

慈心が指先を舐めて障子に穴を開けた。片目を瞑って覗き込む。

「この様子じゃ裏口も同じじゃな」

「中村屋もグルだったてぇ訳だ」

「儂らの目が節穴だったって事か?」

「いいや、奴らの役者が一枚上だってこったろ」

「上手い事を言うな一刀斎」慈心がニヤリと笑った。

「お爺ちゃん達、冗談言い合ってる場合じゃないわ、これからどうするのよ?」

「どうするって、志麻お前ぇはどうしたいんだ?」一刀斎が訊いた。

「そうね、こうなったら強行突破しかないんじゃない?」

「ふん、爺さんはどうでぇ?」

「儂も同感じゃ」

「どうやら意見が一致したみてぇだな」

一刀斎がベアトを見た。

「ベアトさんよ、お前ぇの腰の刀が役に立つ時がきたみてぇだぜ」

ベアトは腰に手をやった。

「オゥ!デモ、ツカイカタワカリマセン!」

「とにかく、抜いたら柄を握って切先を敵に向けてろ、間違っても建物の中で振り回すんじゃねぇぞ、自分が怪我をするだけだからな」

「ワカリマシタ!」

「外に出て敵が向かって来たら無茶苦茶に振り回せ、攻撃は最大の防御だ!」

「オーケー!」

「だが、深追いはするな、絶対に俺から離れるんじゃねぇぜ」

ベアトが深く頷いた。

「一刀斎、外に出た後はどうする?」

「予定変更だ、外に出たら日本堤を吉原に向かって走れ!奴らが追って来たら見返り柳から音無川の河原に降りて迎え討つ!」

「爺さんと志麻はローラとルナを全力で守れ、いいな!」

「うむ」

「分かった!」

「ナンダカムシャブルイガシマス!」

その時、階段を登って来る大勢の足音が聞こえて来た。

「よし、行くぞ!先手必勝だ!」

一刀斎が襖を蹴倒して真っ先に飛び出した。続いてベアトが出て行き、志麻と慈心がローラとルナを挟む様にして続く。

最初の絶叫が上がったのはその時だった。


*******


一刀斎は階段を駆け上がってきた男を、真っ向から斬り下げた。

額を斬り割られた男が後から登って来た仲間を巻き込んで転げ落ちて行くと、一気に階段を駆け降りる。

「来たぞ!」「逃すな!」怒号と共に向かってくる右の敵を横一文字に薙ぎ倒し、正面の敵を袈裟掛けに斬り伏せると、土間にいた敵がワッ!と言って身を引いた。

裸足のまま土間に飛び降りると、敵は転がるように外へ飛び出して行った。

それを追って飛び出そうとしてふと足を止める。

「みんな来てるか!」店の入り口を睨んだまま一刀斎が訊いた。

「イエス!」

「来てるわよ!」

「どうした一刀斎何故止まる?」慈心が訊いた。

「表に竹槍がいる、厄介だな・・・」

暖簾越しに三人の男が竹槍を構えて待ち受けているのが見える。同時に突かれたら避けようが無い、不用意に出て行けば串刺しにされるだけだ。

竹槍は一般の武器に比べて威力が劣るように思われがちだがそうではない。

軽い分、重量のある槍より素人には扱いやすいし、先端の削り方によっては鋭利な刀より強力な武器になる。何よりも長い分だけこちらからの攻撃が届き難い。

「何人だ?」

「見たところ三人・・・」

その時、茶屋の裏口からドヤドヤと踏み込んでくる足音が聞こえた。

「一刀斎、裏から敵が来たぞ!」

「チッ、表は何とかする暫くの間食い止めろ!」

「よし分かった、任せろ!」

慈心が裏口へ駆けて行く。

「志麻はローラとルナの側を離れるな!」

「分かった!」

躊躇している時間は無い。一刀斎は脇差を抜くと、二本の剣を交叉させ下段に落とした。一か八か行くしかない。

「行くぞ!」身を屈めて飛び出した。

途端に二本の竹槍が突き出された。どうやら一人は横に回り込もうとしているようだ。

これは一刀斎にとって幸運だった。

瞬時に両剣を刎ね上げて竹槍の先端を斬り跳ばし、返す刀で二人の肩口に斬りつける。鎖骨を断った手応えがあった。

問題はその後だった。

悲鳴を上げて二人が倒れると同時に、もう一本の竹槍が脇腹を狙って飛んで来た。剣で対処している余裕は無い。

躰を開いて体軸をずらす。

竹槍は脇腹を掠って流れて行った。

鋭い痛みを感じたが構っている暇は無い。敵が竹槍を手繰り寄せる動作に乗じて懐へ飛び込んだ。脇差で胸を貫かれた敵が絶叫を上げる。

その背後で長脇差を構えた男達をベアトが威嚇していた。

ただでさえ大柄なベアトが大太刀を無軌道に振り回しているのだ、男達はタジタジとなって近づけないでいる。

「一刀斎、お爺ちゃんが苦戦してる!」

志麻がローラとルナを背中に庇う様にして桝屋の暖簾を潜って出てきた。

「一刀斎!新手が来た、もう抑え切れない!」桝屋の中から慈心の声が聞こえた。

「よし、ベアトも慈心もそこはもういい!日本堤に向かって走るぞ!」

一刀斎が二刀を構えて茶屋通りを日本堤に向けて走り出す。慈心も桝屋から飛び出して来て全員が一刀斎の後を追った。慈心の後を追って男達が次々と桝屋から出て来て、ベアトの相手をしていた男達の前を駆け抜けて行く。

その中に、菊屋の前で志麻に話しかけてきた男、源次がいた。

「馬鹿野郎!なにボケっと突っ立ってやがる!」源次が足を止めて怒鳴った。

「げ、源次兄ぃ!」

「あれほど抜け駆けはするなと言っておいたのに!」

「や、奴ら気が付きやがったみてぇで・・・出て行こうとしやがったんで、つい・・・」

「チッ!早く追わねぇか!」

「へ、ヘイッ!」

男達はバネ仕掛けの人形のように駆け出して行った。


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