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万古の春、桜
また朝が来た 一人きり
体よ起きろ 思えども
応えは虚空 この盲人
最後に共に 居た人は
誰だったかな 思えども
記憶も暗き ものだった
しばらく待って 聞こえ出す
水しぶきの音 はて家の
隣に滝は 無いけれど
音がするのは 仕方なし
近づくために 歩を進む
ああ懐かしき これは何
そうだ光だ 色は何
たしか真っ白 そのはずだ
まだ目の見えた 年少の
時期に父母 共に見た
雪という名の ものに似て
音と光に 導かれ
歩みを進め 前へ行く。
辿り着く先 心地よい
不思議な光 まだ視界
塗りつぶされた 白一つ
そのうち私 手を引かれ
人多きとこ 住まわされ
昼続いてる ところでさ
隣の人は こう言った
あれ見てごらん 桜あり
万古の春に 雨は降り
花びら踊る その景色
君にも見える はずなんだ
心の目をば 今開き
開いてごらん 見えるはず
言われて私 ハッとする
静かに目蓋 開ければ
確かに見えた 桜色
白い花びら 緑の葉
ヤマザクラ云う それかしら
雨はしとしと。
二〇二二・二・二八 記す