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ショートショート1月~2回目

几帳面な知人

作者: たかさば

 彼氏ができた。

 親友に、それを伝えた。


「へえ、良かったじゃん。」


 彼氏の家に遊びに行った。

 信じられないくらい、汚い家だった。

 足の踏み場がない。

 親友に、それを伝えた。


「付き合うのやめた方がいいよ。そういうのって、直んないし。」


 彼氏と結婚する事になった。

 アパートを借りで、一緒に暮らし始めた。

 物が少ないので、家の中はキレイで殺風景だ。

 親友が、遊びに来た。


「今はキレイだけど、子供ができたら変わるんじゃない。」


 子供が生まれた。

 アパートの二階から、一戸建てに引っ越した。

 部屋の数が増えたので、家の中はキレイで殺風景だ。

 親友が遊びに来た。


「今はキレイだけど、子供が大きくなったら変わるんじゃない。」


 子供が大きくなった。

 部屋の中に物が増えたので、それなりに賑やかな風景になった。

 親友が遊びに来た。


「今は良いけど、モノが増えていくんじゃない。」


 子供が増えた。

 部屋の中に物が溢れるようになったので、掃除をするのに忙しい。

 親友が遊びに来た。


「今は良いけど、アンタが掃除しなくなったらヤバいんじゃない。」


 親の介護が始まった。

 部屋の掃除をする時間が減ったので、どんどん物が溢れていった。

 親友が遊びに来ても、とても上がってもらえる状態じゃない。

 親友に、それを伝えた。


「もうキレイになることはないんじゃない。」


 親の介護は終わらない。

 部屋の掃除をする時間が無くなって、どんどん物が積み重なっていく。

 親友にそれを伝えた。


「だから言ったのに。片付けられない人と付き合うからだよ。」


 親の介護が終わったけれど、積み重なったものを捨てさせてもらえない。

 旦那の私物が家中にあふれて、身動きが取れない。

 親友にそれを伝えた。


「大変だね、ゴミ屋敷になっちゃって。私はキレイな家に住めて、良かった。」


 旦那が定年になったので、ようやく掃除を始めた。

 ようやく床が見え始めたので、リフォームをした。

 親友にそれを伝えようと。


 親友のマンションを訪ねたら。


「どちらさま?美恵子のお知合いですか?」


 親友は、何もない部屋で、ひっそりと旅立っていたのだそうだ。


 あまりの衝撃に…言葉も、出ない。


「もしかして、真理恵さんですか?この日記に書いてある。」

「ええ…真理恵は、私ですけど……。」


 差し出されたのは…一冊の日記帳。

 几帳面な親友らしい、…10年日記だ。


 見ていいものか悩んだのち、日記を開く。

 1ページ目は…9年前。


 真理恵の家が大変らしい掃除をする暇がないとぼやいていた掃除をする暇はないんじゃない作るものだと……


 きっちりと書き込まれた、美しい文字が並んでいる。

 どうして、こんなことに。

 悲しみが、私の胸を、襲う。


 ポロリとこぼれた涙を拭って、日記帳から目を逸らした。


 …一体いつ、親友は旅立ってしまったのだろうか。

 ……そうだ、せめて命日には、花を添えてあげよう。


 私は、日記の、最終ページを確認しようと。


 ページを。


 めくって……。


 真理恵から電話あり近日中に来るらしい来ないで欲しい汚い靴下で乗り込まないで欲しいから外で会いたかったのに面倒ゴミ屋敷の住人がむかつくゴミを貯めるなんて信じられない不用品を貯め込む気が知れないいつでも愚痴を聞いてあげるのは私の役目どうして私は友達に恵まれなかったんだろう一人ぼっちなんだろうこんなに働いたのに無駄なものは一切買わず無駄な付き合いを一切せず気に入らない人間関係をすべて断ち自由に生きてきたはずなのに誰もそばにいない憎いムカつく気に入らない幸せそうに愚痴を言うのが許せないゴミに囲まれで貧乏暮らしをしているのは笑えるけど子供の時から気に入らなかった大人になってからも気に入らなかった母親も父親もキライ生まれ育った家なんか見たくもないから売り払ってやった墓も潰したし遺骨も神社に置き去りにしたざまあ見ろ天国に行けないのはお前らが私をこんな風に育てたせいだ細かい事ばかり言うからこんなに神経質になってしまった許せない呪ってやる呪ったところでもういないんだから意味がないだから生きてるやつを呪うあいつはムカつくけど今でも連絡をくれる唯一だから情があるあいつも私みたいに結婚しないで独身でいたらよかった親の介護をしたのが自慢らしいけどそんなの誰でもやってることで珍しい事じゃない今度連絡が来たらどうやってバカにしてやろうかあまりいじめるのもかわいそうだ頭が良くない人だけどもしかしたら思惑に気が付いて私から離れていくかもしれないそれは嫌だ唯一の親友として悲しすぎるでもキライどうしようもない感情が私を包み込む誰か助けて私は死にたくない一人で寂しく死にたくないでも汚いものに囲まれたくないなんでこの世に入らないものが溢れているんだろうきれいなモノだけがあればそれでいい今日食べたものおかゆ梅干し出かけた場所ゴミ捨て場会った人無し電話無し新聞の地方欄の記事に同級生が載っていてびっくりした相変わらずのブサイク目が腐った


 うっかり、文字を。


 ……読んで、しまった。


 こんな、ふうに、思っていたのか……。

 哀しみが、私の胸を、襲う。


 呆然とする、私の、耳に。


「よかったら、持ってってください、ここにあるものはすべて廃棄予定なんで。」

「いえ…大丈夫、です。……お邪魔しました。」


 ……うちは、モノが多い家だから。


 もうこれ以上、余分なものを、もちこみたくないのよ。


 私は、長年の、知人の家を、後にした。

 

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― 新着の感想 ―
[一言] ……なんでしょうねぇ。自分を棚上げして「良い子」を強いる親の元で、「良い子」モードでいる状態に適応し過ぎちゃったんでしょうか? 独身で表面的な付き合いだけって言うのは若い内は良いのでしょう…
[良い点] あー。まあまあ。これはストレスマッハですわな [気になる点] よくもこんなクレイジー呪詛をポンポンと [一言] 安心と信頼のサバサバオーラ全開ブレイカー
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