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その後もミネルヴァは、俺のもとへやって来た。
「何か食べたいものはない?」とか「欲しいものは?」などを聞いてくる。
どうして? と理由を聞く。
すると彼女たちセイレ-ンは、受けた恩を返さなければいけないらしい。
つまり俺が彼女の秘密を、黙っていた事についてだろう。
そのうえ、俺を殺そうとしてしまった罪悪感もつもり、過保護になってしまった。
意地悪だったころが、懐かしい。
なので、ミネルヴァと約束をした。
『君が俺にしたことは、あの歌でなかったことにしよう。そして俺がミネルヴァたちの、正体を黙っている間は、君の歌をまた聞かせてほしいな』
「私の歌なんかでいいの?」
「君の歌がいいんだ」
「そっか……」と彼女は照れくさそうに笑った。
そして年月は過ぎ、今日でお互い十四歳になる。
ミネルヴァが誕生日を迎えるからだ。
数年前だと何かプレゼントすると、恩を返そうとするだろう。
今では出会った頃のように意地悪だ。
良い意味で。
なのでプレゼントを用意した。
インクと万年筆を。
お金は昔、彼女の父に口止め料として、もらったものを使った。
遠くから杖をつきながら、ミネルヴァが歩いてくる。
手を振ると、彼女も振り返してくれた。
プレゼントにミネルヴァはどんな反応を見せてくれるだろう。
きっと泣き虫だから、また泣くのだろうか。
それとも、ほくそ笑むのか。
などと、ミネルヴァのことばかり考えていた。
その時の俺は彼女の深みに、はまってしまっている事に気づいていない。
それを知るのは、もう少し先。
二人で、この島を出ていった後のことだろう。