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ねえ、君、死ぬ前に私と将棋しようよ  作者: takemot
第3章 僕の知らない死神さん
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第77話 本当に、ずっと……

「いつの頃だったかしらね。突然、あの子ったら『将棋』『将棋』言うようになって……」


 お義母さんは、遠い目をしながら言葉を紡ぎます。その視線の先に見えている景色。そこにいるであろう死神さんは、一体どんな表情をしているのでしょう。


「どうしていきなりそんなことを言い出したのか、理由はよく分からなかったけど。まあとりあえず、私や夫としては、あの子にも全力で打ち込める趣味ができたんだって、そう考えてたわ。でも……」


 その時、お義母さんの顔に、はっきりとした影が差し込みました。


「あの子の周りには、将棋ができる人が全くいなかったの。私はもちろん、夫も。あの子の友達もね。なにぶん、将棋って死神世界ではすごくマイナーなゲームだから。だからあの子は、ずっと一人で将棋をしてたのよ。本当に、ずっと……」


 どんどん暗くなっていくお母さんの口調。


 当時、お義母さんがどんな思いで死神さんと接していたのか。まだまだ子供である僕に、その全てを想像することはできません。


 ですが、これだけは分かります。自分の子供が見つけた将棋という趣味。しかし、子供は一人でしかそれを楽しむことができない。そんな姿を見せられて、苦しくないはずがないのです。


「……死神世界に、ネット将棋みたいなものってないんですか? もしくは、将棋教室とか」


 僕の質問に、お義母さんはゆっくりと首を横に振りました。


 もちろん、一人で将棋をすることだってできます。棋譜並べをしたり、自分で研究をしたり。ですが本来、将棋は二人で行うものです。二人で盤に向かい、思考を巡らせ、相手と無言で語り合う。それが、将棋の面白さなのです。


 死神さんは、一体どんな気持ちで将棋をしていたのでしょうか。会話相手のいない会話を、ずっと……ずっと……。

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