第61話 ……ありがとうね
僕は、クルリと死神さんに背を向けました。顔が熱くて仕方がありません。『あなたのことが大切です』なんて、ほとんど愛の告白のようなものじゃないですか。僕は死神さんに本心を伝えたかっただけであってですね。別に、愛の告白がしたいなんて……。したい、なんて……。
「……ありがとうね」
僕の背後から聞こえた死神さんの声。そこに、先ほどの弱々しさは微塵も感じられませんでした。ベッドの反対側を向いている僕の目に、死神さんの顔は映っていません。ですが、きっと優しく微笑んでいるのでしょう。そんな気がするのです。
再びの沈黙。
不意に、僕の頭の中には、ある疑問が浮かんできました。
僕は、死神さんにとって大切な人なのかな……?
死神さんは、僕にとって大切な人です。ですが、その逆はどうでしょうか。もし死神さんが僕のことを大切な人だと思っていないのだとしたら、僕は死神さんの負担でしかありません。そんな関係、僕は嫌なのです。絶対に。
「あの……死神さん」
「…………」
「……死神さん?」
僕は後ろを振り向きました。僕の目に映ったのは、スヤスヤと眠る死神さんの姿。その表情は、とても穏やかでした。まるで、何かから解放されたかのように。
「……まあ、いいか」
今はまだ、知らなくてもいいことなのかもしれません。きっと、時がたてば、答えは見えてくるでしょうから。
「さて、今から何しようかな?」
その答えを知った時、果たして、僕は何を思うのでしょうか。




