第54話 ふ、二人でイチャイチャしない
数日後。
「……うにゃあああ」
情けない声をあげながら、死神さんは机に突っ伏していました。
「お姉さん。ノリと勢いで指してちゃ、いつまでたっても私に勝てないわよ」
「うう……。先輩ちゃん、手厳しぎるよ」
僕、毎日のように同じ光景を見ているような……。
僕たちのいる場所は、学校の敷地内に建てられている部室棟。その一番端にある将棋部の部室。中は、僕と死神さんが住む六畳一間の一室よりも少しだけ広いです。部屋の中央には、長机が一つ。それを挟むようにして、パイプ椅子が四つ。長机の上には、将棋盤と駒が二セット置かれています。壁側には、本棚。その中にあるのは、将棋の本が数冊と大量の恋愛小説 (先輩いわく、部長さんの趣味らしいです)。
先輩のおかげもあり、死神さんは、外部コーチとして将棋部の活動に参加することが許されました。といっても、死神さんにも仕事があるので、仕事が終わってから参加ということになっています。
「も、もう一局! もう一局お願い、先輩ちゃん」
「……仕方ないわね」
やれやれといった様子で死神さんの挑戦を受ける先輩。ですが、その顔には、笑みが浮かんでいます。きっと先輩は喜んでいるのでしょう。部長さんたちが去り、先輩一人になった将棋部に、僕と死神さんがやってきたことが。そして、『将棋部を任せるぞ』という部長さんたちの思いに答えられたことが。
「……あんた、何にやけてるのよ?」
不意に、先輩が、パイプ椅子に座って二人のことを眺めていた僕に視線を向けました。
「……え? 僕、にやけてましたか?」
「にやけてたわよ。もしかして、無意識だったの?」
「……そうかもしれません」
「……変なの」
先輩は、そう言ってクスクスと笑っていました。
「こ、こら、そこ。ふ、二人でイチャイチャしない」
焦るような死神さんの声。別に、イチャイチャしているつもりはないのですが……。
「お姉さん。別に、私、お姉さんの敵になるつもりはないわよ」
死神さんに向かって、楽しそうに告げる先輩。『お姉さんの敵』とはどういった意味なのか、僕にはよく分かりませんでした。




