第34話 ……う、頭が
「…………」
「…………」
「……な、何で即答!?」
目を大きく見開く先輩。まさか、自分の提案があっさり拒否されるとは思っていなかったのでしょう。
それにしても、いつの間に僕は、こんなにはっきりとものを言えるようになったのでしょうか。それも、初対面かつ年上の異性に。もしかしたら、死神さんとの生活が僕を変化させているのかもしれません。
「まあ、いろいろとありまして……」
「いろいろって何よ」
「いろいろはいろいろです」
僕の頭の中には、とある光景がよみがえっていました。それは、死神さんと同棲を始めてから一週間後のこと。いつも料理は僕が担当していたのですが、その日だけは違いました。突然、死神さんが、自分が代わりに晩御飯を作ると宣言したのです。「私のマ……お母さん直伝の味を教えてあげる」とドヤ顔で言う死神さん。自信満々の様子に、これなら大丈夫だろうと全て任せていたら……。
「暗黒物質……ダークマター……う、頭が」
「ちょっと、急に頭抑えてどうしたのよ」
「な、何でもないですよ、先輩。ハハハ……」
もうあんなものは食べたくありません……。
部活動に入部してしまえば、帰宅時間が遅くなってしまうことは確実です。そうなれば、死神さんが帰宅する前に晩御飯を準備することができません。死神さんの泣き顔が目に浮かびます。
「と、とにかく、お断りします。では、失礼しますね」
僕は、先輩にペコリと頭を下げて、足早にその場を後にしました。
「ちょ、ちょっと。私、まだ諦めてないから」
僕の背中に向かってそう告げる先輩の声は、ほんの少し焦っているように感じました。




