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ベッドから起きられないのは魔法だから仕方ないよね。


 俺たちは自由なんだ。


 僕たちはそれを自分の手で掴み取れる。


 探しに行こう、俺たちの自由を。

 

 僕たち2人なら何だって出来る。


 行こう、あの空の下へ。


 行こう、あの空のような高みへ。


 


 薄暗い洞窟の中、小さな灯りを頼りに走る2つの影。それをかき消すように、まるで流れる土砂の如く覆い尽くしていくのはとんでもない数の魔物たち。血に飢えた奴らは、目の前の餌に立ち止まることを知らない。


 だが、小さな影たちはすぐに止まることとなる。


 道が無い。

 行き止まりだ。


「生きろ……お前だけでも」

「な、何してんだよ……何やってんだよ!?」

「最後くらいはカッコつけさせろっての」


 そう言い魔物たちに向かって走っていく小さな影。


「生きろ……――」

「やめろ、やめろおおおおぉ!!」





 ここは大陸トライデンのラタトニア領にあるラタトニア王国。はるか昔に存在した【魔王】を討滅したと言われる【勇者】が築き上げた王都で、城下では物や人がひしめき合い、それが豊かさを象徴しているかのようだ。

 そんな王都の宿場街の少し寂れた宿屋【ベール】。その3階の部屋にて1人の冒険者が飛び起きた。


「はぁはぁ、今のは夢……か」


 彼の名は【レディア・ノエストラ】。ラタトニアの冒険者ギルドに所属する、弱冠21歳という若さで最高ランク【S級】の称号を持つ最強の剣士。

 世界にはいくつもの冒険者ギルドが存在するが、最高位のS級を持つものは彼のみ……それが故に最強と謳われているのだ。


 彼がS級へと昇格したのは3年前に起こった【暗黒竜の襲撃事件】そして【魔の厄災】での功績が大きかった。

 突如として空を覆った黒い鱗のドラゴン、暗黒竜が王都めがけて襲撃してきた。冒険者ギルドに所属する冒険者たちが一眼となって暗黒竜に立ち向かったものの、とても太刀打ちできるものでは無かった。

 街は破壊され、怪我人が増えていくそんな絶望の中で彼は現れた。為すすべもなかった冒険者たちの目の前で彼は1人で、たった1人で瞬時に暗黒竜をただの肉塊へと変貌させていた。

 また魔の厄災と呼ばれる大多数の魔物たちによる悪夢のような襲撃にも、絶望に打ちひしがれる寸前で彼は現れ、瞬く間に魔物たちを殲滅した。


 目にも留まらぬ剣捌き、体格の差や数の暴力をものともしない常識を覆してしまうような男、レディア・ノエストラ。


 だが、そんな彼にも唯一弱点が存在する。


「結構眠ったな。確か、クエストはお昼から……」


 目を擦るのと同時に、昼を告げる鐘の音が王都に響く。今日のクエストはお昼からの依頼だった。しかし、時は既に昼真っ只中。

 

 完全に遅刻である。


 レディアは鐘の音をフリーズしたまま聴き終えると、ゆっくりとした動きでベッドへと横になる。


(完全に誰がどう見ても寝坊した)

(ダメだ、なんてダメな男……ダメ男なんだ……俺は)

(……ダメ男なんて、そりゃだめお《だめよ》)

(ふふっ、悪くない)


 ダジャレも決まったことで心地よくまた毛布を頭から被る。


 そもそもだ、寝坊を良くすることは分かっていたろうに、わざわざ名指しでクエストを寄越す事自体が無謀なんだ。確かに報酬の金貨10枚なんてのは破格中の破格に違いない。例えるならその……なんというか、ほら……えぇと……こうね、よく言うじゃない? そのさ……………………つまりそう、破格なのだ。


 この男、唯一のS級でありながら屁理屈塗れの寝坊助である。

 暗黒竜襲撃の際、外の騒がしさに目もくれず2度寝をたっぷりと堪能した事で、街に多くの被害が出てしまった。それも1度目に起きて、暗黒竜を討伐していれば街の被害はほぼ無かったといっても過言ではない。それに魔の厄災においてはギルドのソファでまたまた寝ていて、対応に遅れただけだった。


「いやほんとにこのベッド寝心地いいなあ。魔法でもかかってるんじゃないか? ……なるほど、魔法ならばこうして動こうにも身動きがとれない現象に納得がいく。つまりベッドの上から何者かの重力魔法によって圧がかけられ、動けないのだ!」


 ベストなポジションを寝返りをうちながら探す。重力魔法の中で身をよじりながら、じわじわと襲ってくる睡眠魔法に対抗できる気がしない。これはこれはなんと幸……無限地獄か。そしてついには拘束魔法までかけられ、完全に動けなくなってしまった。


 クエストに行きたいがこれではどうしようもない。


「誰かこの俺を魔法から解き放ってくれぇ……むにゃむにゃ」



 これは怠惰なため息、そして卑屈と屁理屈に塗れた、最強と謳われる剣士のだらしな……剣士の物語。

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