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70歳の一人部活  作者: 種田潔
13/19

リンゴの木

10月に今年最後の、そしてコロナ禍で今年唯一の試合であった中国マスターズ陸上選手権を終え、11月は例年通り完全休養した。完全休養とはいえ運動して汗を流すことが長年の習慣となっているので週に三回、ルームサイクルを一時間漕ぐことだけは続けた。

ダンベルなどを使った筋トレなどを止めると、一週間で筋肉がしぼんだことがはっきりと分かり、一ヶ月過ぎた今ではあったはずの胸や腕の筋肉がまるで蠟が溶けるように消えてしまった。風呂上がり鏡に映った自分を見るとあたかも冬枯れの畑を見ているような寂寥感に襲われる。

一方、一か月の完全休養で良い事もあった。

10月までは絶えずあった首、肩、腕のコリと痛み、体の深いところに感じていた慢性的な疲労感が消え去り、久しぶりにフレッシュな体を感じている。


そろそろ12月から来年3月までの冬季練習の計画を立てる時だ。

この四ヵ月は砲丸や円盤を投げることはせず、もっぱら体作りに充てる

今回の冬季練習は円盤の飛距離を生み出す決め手になるバネのある強靭な下半身を作ることを主眼にしようと思っている。強いだけでなく切れのあるシャープな動きが出来る体を作らなければならない。

ふと思いついて庭に出て、左右横への走り、後方への走り、斜め方向へのジャンプ、脚の振り上げなどをやってみた。

普段前に進むことしか知らない足はいかにも戸惑い、後方へ走る時には最初のうち何度も無様にひっくり返りそうになった。

しかし一週間ほどたつと下半身の感覚が少し違ってきた。

大げさに言えば今まで私が知らなかった、あるいは子供の時にはあったものの長いこと忘れていた感覚を下半身に感じた。春が再び戻って来たかのようだ。

私の体には18世紀のアメリカ大陸さながら未開の地がまだ残されていたのだ。フロンティアスピリットをもってこの荒野に乗り出せば。50代、60台で投げた円盤より70歳で投げる来年の円盤がさらに遠くへ飛んでいきそうな、自分をアッと驚かせることが出来そうな予感を感じている。


作家の開高健は色紙を求められるとしばしば次の言葉を書いたそうな。


明日世界が

滅びるとしても

今日、あなたは

リンゴの木を植える


私も2022年のシーズンに向けて

今日、リンゴの木を植える


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