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異世界行きたくねえ

作者: みなみちはや

異世界転生書きてえ~と思ったので一時間で書いて飽きた。

書いた後もうこういうのさんざんありそうだなと思っている。


 はァ―――――――――――――――っ


 クソデカ溜息が俺の口から吐いて出た。なんでこんなことになっちまったんだ。

 目の前ではそんな俺の態度に面白くなさそうな顔をした女神のようなものが、女神のような衣装と女神みてえな杖をガッシャガッシャいわして俺を威嚇する体勢に入った。

 アレだこれ。話に聞く転生ってやつだ。

 最近流行らないとかで廃れたと聞いていたが生き残っていたのか転生。

 転生するには生まれ変わらねばならない、赤子でも知る理屈だ。

 そうなると俺は死んだのか? 嘘だろ、女と歩く時だって車道側は歩かないことを徹底してきたこの俺が?

 そんなことをオタク早口で考えていると女神らしきものの眉間にどんどん皺が寄っていき、鼻の穴がジワジワと膨らんでいき、瞳孔が開いていく。捕食者の目だ。女神みたいなガワをしているから騙されかけてしまうところだった。

「ちょっとさっきから失礼すぎませんかあなた」

 えっ。

「"えっ"とはなんですか。あなたの深層意識にある最も神性に近しいものの姿を模して出てきているというのにその態度。あなたの世界のあなたの国はここにやたらとやってくるからでしょうか、こちらに対する敬意というものがなさすぎやしませんか」

 あっこれ俺の夢かテレパシーかなんかラリパッパな薬をインされたやつだ。俺はそういうのに詳しいんですよ。

「テレパシー的なものだと考えていただいて結構です。話が進まないので先を進めてもいいですか? ――あなたは、」

 死んだんですよね。俺はトラックに? いやトラックに轢かれるようなヘマを俺はしないように生きてきた。夜道は歩かないし、猫も助けないし、子供が車道にボール転がしていったとしても、俺の方がうまく転がれるんだぜ! みたいに真っ先に車道に飛び出すようなマヌケではない。

「あの、転生する為にあなたの世界で言うトラックに轢かれる必要はないんですが。偏見が過ぎませんか」

 ではトラックではなくトラック諸島に?

「どうしてミクロネシア連邦があなたに衝突するのですか。……あなたは、ながらスマホ運転のプリウスに追突されて横転したタンクローリーのガソリン由来の火災を見て"ウワー! バックトゥザフューチャーみてえだ!"って叫びながら119通報もせず飛び込んで行き酸欠で死にました」

 プレートテクトニクスでどうにか説明できるんじゃないですかね……。それにしてもこの聡明な俺がそんなマヌケな死に方するはずないと思うんですが。

「私のことはあなたのイメージ通り、女神と呼んでくれて結構です。そして死は誰にでも等しく訪れるものです」

 ハッ、個体識別名称がないタイプと見せかけているのか? いや、俺の妄想による産物だとして名前すら思い浮かばないなんてことがあるか? 

「女神と呼ぶのがおイヤなら、ボロンゴはどうでしょう」

 えっ、ゴツくない? 女性神の語感的にそれは若干意外なんだけど

「ボロンゴはいやですか? それならプックルはどうでしょう」

 俺はエアー早押しボタンを押して女神に指をつきつけ予言をした。危うくおちょくられるところだった。次の名前は"チロル"! その次は"ゲレゲレ"だ! 女神破れたり!

「これはリメイク版なので次はアンドレになります。なんのことかは私にはわかりませんが」

 マジかよリメイク版は名前四種類じゃないのかよ。初めて知ったわ。クソッ、こうして俺の知らない事を女神が知っていることで、俺の内面から産まれた妄想ではないことを主張しているのか、なんというえげつないやり口!

「結局私のことをなんと呼ぶのですか?」

 女神でいいです。あんたが俺の妄想でないとしてだ、だが言っていることはおかしい。なにより俺の世界に詳しすぎる。

「あなたの妄想ではありませんが、あなたの中にあるものを使って語りかけているので、そうでないとあなたの言語も通じないでしょう。あなたの言うテレパシー、精神感応的な手段では"やべえ"とか"マジヤベエ"とか"ヤバすぎて無理"くらいの感情しか伝えることはできませんから」

 そいつはウルトラヤベーな。言語で言われても何言われているのかわからん。女神さっきから表情全然変わらないから表情から読み取れる情報ないさあ、もしかしてLIVE2D未導入なんですか?

「嘘でしょう、あなたたちの言語体系は壊れているのではないですか? 無作為に抽出した種類の感情に相当する頻度の高い言葉を発しただけなのですよ、ヤバすぎでは?」

 俺をバカにするのはいいが、俺の世界の言語はバカにしないでくださーい。

 もうね、俺をからかっているのか、汚染されているのかはっきりさせて欲しい。なにより先に俺がこれからどうなるのかを教えて欲しい、不安で死んでしまいそうだからな。生きているときは青いウサギと呼ばれていたくらいだ。

「思考が欺瞞と虚飾のノイズに満ちていて、私も会話に不安を覚えるのですが。あなたの世界のあなたの言語を使う民は、あなたがこれから導かれる世界に適正が高いことがわかっています。その世界は停滞しており、発展が見込めない為、あなたのような異物を入れることで――」

 あの、その話、長くなります? 設定とかどうでもいいんですよね。

「コンセンサスが得られないのに魂を異世界に送ることはできませんので。あなたの中にある言葉を使用しているので理解できないということはないと考えますが?」

 ということは同意しなければ行かなくていいってことでは? やーりィ! 勝利! 勝訴! 勝訴です! クソめんどくさそうな異世界に飛ばされチート知識を活用して地位を築いたり、初期の慣れない時期の失敗を力を得てから意趣返ししたり、想像するだけで面倒臭い!

「そういうものですか。まあ、それでは無理にとは言いません。次の魂に期待するとしましょう」

 話が早い。そうなると自由ですか。

「この空間はあなたのために擬似的に構成した空間に見える任意の点Pなので,あなたが私との対話を終了した時点で消滅するものとします.その時点での三角形APBの面積を求めよ」

 異世界に行きたくない意思を表明した途端に会話の断絶を遠回しな宣告を算数の問題みたいなノリで言うのやめてくれませんかね、ご丁寧に句読点までアポストロフィーとピリオドに変えやがって。俺がお年頃だったらバグってたところだぞ。蜊ア縺ェ縺?→縺薙m縺?縺」縺。

「そうですね。あなたには無になるか異世界で死ぬか選ぶ権利があります。無になるとオワなので異世界で死ぬほうが苦しいかもしれませんがガチャは引かないと当たらないので」

 もうちょっと言い方ないんですかね。自分が導く異世界をガチャ扱いしやがって。――ってことはその、女神は自分が導く先の異世界がなんたるかをよく知らないわけですか。さっきからの茶番はもういいんですよ。女神、あんたの真意を聞かせて欲しいわけです。俺は今真剣に異世界へ赴くことを検討しはじめたのだから――。

「自分達で行きたくないのであなた方異世界の安い魂をだまくらかして終わりかけの世界にぶちこみ、あわよくばうまいこと安定したらラッキーだよねという認識でいます」

 ぶっちゃけてくれとは言ったが歯に衣を着せてはほしい。全裸通りこしてレントゲン写真みてえになってるじゃねえか。泣いている子もいるんですよ!

「そうですね、基本的にここに来る人は泣いたり叫んだり"チートスキルもらえないんですか?"とか"まず女神さまとヤりたいんですけど"とか"世界に干渉する力はどこまでOKですか"とか聞いてくるので、そんなものウチにはないよ……って言ってあげると夢が壊れたと言って泣き散らかしながら旅だっていきます」

 えっ、チートスキルもらえないの? 福利厚生ちゃんとしてくれませんか? 

「逆に聞きますが、どういう能力が欲しいんですか? コミットしてプッシュしてくれませんか?」

 お前それ俺の中から取ってきた言葉だと思うけど意味全然違うからな。

 まあいいや、どういうスキルってそうだな、とりあえずレベルとかパラメータがマックスとかが基本だよな。上限がなくて努力する時間や効率とセットっていうパターンもあるけど俺は絶対努力ってやつをしたくないんだ。

「パラメータ」

 そんなね、「では上げたいパラメータ6つ上げてください、走って!」 みたいな体言止め使うんじゃないよ。怖いでしょ。走るの疲れるでしょ。

「ぱらめた?」

 きらら系4コマみたいになっちゃったよ。いいよそういうほのぼのとした異世界! 悪くないね!

「この茶番になんの意味が? 人間個人の力をいくら増大したとしても特に世界に干渉できるとは思えないのですが」

 そこはその、能力が高いから人間社会で認められて、権力とコネクションを得てっていうのが定石らしいからな。定石というのは強いから定石なんだよ。

「なるほどですね」

 含んでくるなあ。

「案ずるより産むが易しとあなたたちのイディオムでは言うそうですね。ではそのあなたの魂と肉体が成長しうる限界値まで強化をしておきますので、試しに行ってみますか、異世界」

 スナック感覚すぎる。もう行くしかなさそうだから行ってみるかという気分だけどさ、失敗したときどうなるの。また俺のいた世界に戻れるの。

「あなたのいた世界で、異世界から転生してきた者とあなたは会ったことがありますか?」

 ないですね。そう主張しているひとは世界にはそれなりの数いるようですが。

「あなたのいた世界はここより上流にあたりますから、そういったことは起こりえません。ここから連なる並列世界のどこかに流されます。そこで死に、転生条件を満たしていれば並列世界か、またその下流の世界に流されます」

 転生条件を満たす? ながらスマホ運転のプリウスに追突されて横転したタンクローリーのガソリン由来の火災を見て"ウワー! バックトゥザフューチャーみてえだ!"って叫びながら119通報もせず飛び込んで行き酸欠で死ぬおもしろ死に様のどこで俺条件満たしたの?

「おもしろい死に方をしたので。ブッフォ」

 女神の笑顔はじめて見たよ。なんなんだよそのツボは。

「そんなわけでおもしろく死ねば転生できますし、転生してしばらくは面白く死ぬ確率が高いですから私が引き上げて差し上げます。MMORPGでも最初の10レベルくらいはデスペナルティがないでしょう?」

 また世界観がわかんなくなる喩えでてきたな、それ俺の中からだしてきた喩えなの?

「これは、私の愛読書"転生希望者はこんな勘違いをしている!~21世紀初頭転生者によく通じる言い回し100選~"からチョイスしました」

 えっ上位存在の統合思念みたいな構え見せといて、俗っぽい女神コミュニティがあるのかよ。ってことはチェンジ効くのかなこのシステム。

「私は当たりの部類だと思いますので、面倒見がいいと評判です。チェンジはされないほうがいいと思いますよ。レベルも下がりますし」

 レベルを通貨にするな! やっぱりレベルの概念あるんじゃねえか!

「これは言葉の綾です。てへっ」

 ウワッ、急に張り付いた笑顔でカワイイそぶりみたいなの棒読みされると寒気するな。もういいよ、とりあえずなんか行けば良いんでしょ。異世界。このパラメータマックス以外になにかくれないの。

「願い事は一回一種類までです。フワッとした概念の願いになるほど効果もフワッとします」

 そういうの早く言ってよ。

「それでは異世界、いってらっしゃいまし」

 えっ嘘、もうちょっとなんか前振りとかないの嘘でしょ? 早いでしょ? 飽きたの? 俺に? この会話に? あっなんか認識がヤバい。



 ―――――ん。


 おっ、異世界、着いたのかな。くらくて何も見えんが

 とりあえず。肉体的には俺歴代最強な筈なので―――なんか、苦しい。

 えっ嘘、息できてねえじゃん。

 なんか肌いってえ! 熱ッ!? 声でねえ? あっこれ! 


 ――――この世界、大気がねえな?


 のたうちまわった俺の体が反動で飛び上がる。重力が薄い星にある世界なのだろう。はたまた、他の理屈があるのか――。俺にわかったのはそこまでだった。どれだけ強靱な肉体があろうとも、世界観に合わない体ではどうしようもなかった。

 全身の血液が、煮えたぎっていくのがわかる。

 比喩ではない。






「―――――ブッフォ、ドュフフゥ」

 表情を変えない女神がクソオタクみたいな鼻息でわらいながら俺を見下げはてているのが、次の意識のはじまりだった。

「おかえりなさい。今世紀イチ笑える死に様でした」

 異世界、もう行きたくねえ。

「じゃあ、やめます?」

 いやもう、やるよ。女神。

 俺を―――ダイオウグソクムシにしてくれ。


 俺の異世界転生が、ふたたびはじまる。

続きそうに書いてあるけど続かないと思います。

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