だってオレたち大規模災害救助隊
ストックを読んでいたら、忘れていたギャグ仕様のSFを見つけました。
余り完成度の高くない長編を辛抱強く読んでくださっている方々のために、肩の力の抜けるギャグ作品を投稿します。
エイプリルを読んでくださってありがとうございます。
「ねえねえ、どんくらい来るの、このミサイル様の被投擲物?」
「知らんわ、とにかく打ち返しとけ」
「あっちの、経済水域を意図的に越えて我が国の領海を侵犯している、超巨大な漁船様の船舶に打ち返していい?」
「やめとけ、やめとけ、どうせもう爆発機能はないんだ、甲板に穴が開く程度、おもしろくないぞ」
「あ、やっぱ爆発物なんだ?」
「いや、なんか、隕石みたいなもの?」
「そうねぇ、ガス状の尾を引いているもんねぇ、流星?」
「だったらいいねぇ」
「こら、おまえら、いいかげんにせんか!余裕見せておると取り逃がすぞ!」
「へーい」
「返事は規律正しく!」
「了解しました」
長くつながる海岸線の向こう、一番遠くには、漁船様の巨大船舶がミサイル様の物体を海岸に向けて打ち込んで、いや、投擲していた。
こちらの海岸線には、10小隊40機の人型救援機が並んで、テニスのラケットのようなもので物体を打ち返している。ラケットのガットに当たるところは、電子ネットが浅い袋状に張られていて、接触したものの電子的機能を瞬時に失わせる。ちょうど、ちょっと前の定期券の裏をうっかりマグネット付き止め金具でこすってしまったときのように。
人型救援機は、地震、台風、土砂崩れのような大規模災害時を想定して、一時的には人命救助、付加的に災害復興支援への運用を目的として開発された(ということになっている)。
身長15mほどの人型をしていて、日本によく似たこの国の人々には、なじみ深い形状だ。赤とか、白と青とかに塗ってあればもっと親しみやすいのだが、接近注意を促す、黄色と黒の斜め縞に塗られている。残念がる人は多い。
1小隊4人の陸軍構成だが、そこは忘れる。災害救助隊なんだ、あくまで。
なんだか投擲物の数が少なくなってきたところで、漁船様巨大船舶の前の列に陣取っていた、小型タンカー様中型船舶が海岸線に接近しているのがわかるようになった。5隻の中型船舶は(中型といっても、後ろの巨大船舶に比べれば中型かな、という程度だが)、指揮船を中央に置いた逆V字に接近してきた。
まあ、揚陸船なんだが、災害救助隊にはその用語は使えない。使った瞬間に「災害」ではなく「防衛」になり、管轄が消防庁から防衛省に移るのだ。国際紛争は面倒くさい。
ちょっとヒマになった人型救援機の通信がうるさくなる。
「あー、なんでしょうね、あれは」
「うー、密航者を満載した不法侵入船?」
「なるほど~、密航者ですか。移民希望ですかね?」
「そうですねぇ、一応取り調べのために確保して引き渡し、最終的には出身国に送り返されますかねぇ」
「え~っと、管轄はもしかして海上保安庁に変わるのでは?」
「そうだね~、現場到着次第指揮権を移譲かな~」
「ボクたち、逮捕権も調査権もないもんねぇ。到着までは保護して、丁重に引き渡しますか」
「武器を携帯していた場合はどうします?」
持ってるに決まってんじゃん、という突っ込みは各人の口の中で噛み殺された。
「まずは、武装解除の説得をして」
「説得するんですか?」
「そりゃま、そうだよね。手続き上の問題?」
「言葉が通じないときは?」
そりゃま、まずフツーに通じないわな、という突っ込みも誰の口からも出なかった。自制心。
「えーっと、いちおう日本語(によく似ている言語)で説得して」
やるんかい、と突っ込みの嵐。
「説得に応じないときは、武装解除」
「解除の手順は?」
「マニュアル通りだよ、試験に出ただろが」
「そうでした、そうでした」
(全員もれなく、武装解除マニュアルを呼び出して復習中。しばし静か)
「ところで、あそこでちょろちょろしている小型機は何ですか?」
「おお、あれな」
砂色迷彩に塗られた、小型軽自動車程の大きさの多脚機が、砂浜に掘られていた塹壕からワラワラと湧いて出ていた。
「あれはな、最近開発された超接近戦用、ゴフンゴフン、倒壊した家屋や倒木の下敷きになった人を、熱反応で発見することを主目的とした、暗所でも運用可能な小型人命救助機だ」
「あ、オレ知ってますよ。前部の、あのちょっと突き出た角みたいになってるところあるじゃないですか、あそこから超硬度のワイヤーロープを射出できるんですよ。デモンストレーションで見ましたけど、すごかったですよ。もう、何ての?足場がぜんぜん確保できないところでも、こう、ロープを打ち出してぶら下がるんですよね、行けるところまで行ったら、片方を回収してまた打ち込む、こう、何ていうの?ロープにぶら下がりながら、次々と、え~っと、タイザン?みたいな?」
つまり、蜘蛛ね、と通信にアクセスしていたほとんどのメンバーが黙って突っ込んだ。
「赤外線感知と暗視装置付きの、捜索や救助もできる、小回りが利く小型救援機、ですかね」
「そうです、そうです」
「あの大きさなら人が乗り込んでんじゃないの?」
「ああ、それですね。4機で1セットなんですよ。
その中の1機に指揮が乗り込んでいて、小柄なものがいいからってんで、全員女性」
「うちだって、3分の1は女性じゃないか」
「まあ、そうなんですがね、それが自分の隊に名前を付けていて、従属している3機にも、個別の名前を付けてんですよ、これが」
「なんか問題あるか?戦車隊とか普通にやってるだろうが」
「ポチ、タマ、シロ。隊の名前がモフモフ隊、とかなんですけど」
「うわ、いいな、わたし移動を申請しようかな」
「あほなこと言ってんじゃねー、身長150cm以下だ。お前どう見ても180はあるだろうが」
「そうでしたね、では、この機に名前つけていいですか」
「まさか、ワオじゃないだろうな」
「いやだ、どうしてわかるんです?」
「おまえ、自分の席にワオキツネザルの写真5枚も置いてるだろうが!
片付けろ、いや、写真より先に書類の山をどうにかしろ!」
”片付け”、これは全員がイタイ話題だったので、静かにスルーされた。
無駄話に頭の一部を振りながらも、相変わらず飛来物を打ち返す災害救援隊のメンツ。片方の目では、小型機を見守っている。
「うわ、とりついた」
「おう、ロープって、ああ使うんだ」
「スッゲーなー」
「あれやってんの指揮機?」
「いや、4機は並列化されていて、指揮機からの口頭の指示を得て、従機に搭載されているAIが最適行動をとる。
あ、あの隊は指揮機も行ってるな。元気だねぇ」
「おお、開口部を接着してるみたいだなぁ、すっごいなぁ」
「もしかして瞬間接着剤?」
「そうかもしれん、がれきの崩壊を一時的に防ぐために開発された超強力なやつかな」
「え、あの鉄筋コンクリートを土台ごと持ち上げて叱られた、あのときの?」
「多分なぁ、誰だっけ、有効だからってんで3階建てのビルに取っ手くっつけて持ち上げたやつ?」
「さあ、誰だったでしょうねぇ」
5隻の中型船は、ちょうどフェリーから乗用車やトラックが出入りするときのように、前部の1枚鉄板が上から降りてきて通路になり、そこが砂浜であろうと岩場であろうと積まれている人や物資、車両を水に濡らすことなく揚陸できるような構造になっていた。
蜘蛛型救援機は、その扉と船の間に大量の「超強力瞬間接着剤」を流し込み、おまけとばかりに扉開閉用の小型モーターの保護版にドリルで穴をあけ、電磁波を叩き込んで使えなくしてしまった。そのままドリルで壊せばいいのに。マニュアルってコワイ。
やむなく、海に降り徒歩で上陸しようとする「武装した密航者」に、ロープ製の網を投擲して拘束を始める。4機のうちの3機は無人機なのだから、下手に攻撃しても大概無駄だ。
マニュアルによれば、保護対象が武装している可能性があるとき、指揮機は射程外で安全を確保していることとなっているらしい。かわいい従機が銃弾を受けている様を見守らなくてはならない指揮機の中で、ぎりぎりと歯を食いしばり身もだえしている指揮、いい…
次々と上陸してくる「武装避難民」を「保護」していく小型救援機を横目に見ながら、おいおい、せっかくアニュアル読んだのに、と嘆く災害救援隊。その頭上を、今度は紛うことなき戦闘機が通過した。
「あっちゃー、どうする? 俺たちもう用なし?」
「うーん、自分とこの弾、喰らっとく?」
ちょうどラケットで受けていたミサイル様物体を保持したまま、搭載AIを通じて戦略スパコンに次の戦闘機が入ってくる点の計算を依頼し、それにちょうど衝突するように救援機の腕を振る角度、速さの計算を任せ、搭載AIにコントロールを渡した。
スパコーン、見事に戦闘機の翼を打ち抜く。なにしろ打ち抜いたのは自軍の、いやいや、自国の漁船様巨大船舶から、我が国に向かって投擲された物体である。苦情が来ても、投擲された物体が誤って戦闘機に衝突したのではないか、わが国にあるのは自衛能力に限定されている、と言い張ればなんとかなるかもしれない。後は外務省の腕次第。
そもそも戦闘機を領空に侵入させた瞬間に言い訳無用なのだが、そこはまあ、やりとり、やりとり。すんげー複雑怪奇で、その場で俄かには反論できにくい屁理屈をつけられるなんてことはよくあるのだ。どれだけ想定問答集を作って待ち構えていても、瞬間で怒りが沸騰しかけるのが国際交渉である。
最初の1機を打ち漏らし、防衛省所属の戦闘機が並列飛行で強制着陸させた。強制着陸された戦闘機は、亡命を求めて来た(かつてのミグ同等の)戦闘機と搭乗員の扱いとなることだろう。
続いて空域に侵入してきた20機ほどは洩れなく災害救援隊に翼を撃ち抜かれた。
「まあ、流星群が突然降り注いだということで」
戦闘機は大量の燃料を振りまきながら必死の帰投を試みる。帰り着けるかな?
巨大漁船は、1発の爆発性投擲物も発火させることができないまま、回頭する。
海岸では、「密航者」の「保護」が順調に進んでいた。
「あのさー、これって、次回も通じる?」
「次があってたまるか!」
あくまで近未来SF, あくまでお話です。
2024年8月追記
作りが古いので削除しようかなーと思って読み直しましたが、なんか愛着がありまして、修正を入れてこのままにすることにしました。
このお話は、とある日本近未来ファンタジーの中で、サブ主人公が阪神大震災の時のトラウマを語るシーンから発想してできあがりました。彼は、あの時人型救援機があれば、もっと大勢のがれきの下で命を削っている被災者が救助できた、火災もより早く鎮火できたのに、という苦悩の中から人型機制作者集団の一人となります。
私も、大変に同感して、それだ! と思ったのです。でも、よーく考えてみたら、たとえば二足歩行の人型救援機重量が10トンだったら、ガレキの山に接近することが難しすぎるのではないでしょうか。10トンが二個の足の裏という小さな面積に、最低各5トン掛かるとすると、普通のアスファルト道路では保持できないのではないかと思うのです。詳しい計算ができる能力はないのですが、普通に考えて足形通りに陥没すると思いまして。砂の上を裸足で歩いたようになるのではないでしょうか。
そこで、多脚機を登場させてみました。オープンタイプの多脚移動機で、重量が軽自動車以下ならかなり使えるかもしれませんね。
あるいは、人間が直接身に着ける、筋力補助と安全確保の外部骨格が一番いいかもしれません。すでに介護者を腰痛から守る、筋力補助用試作機はあるようですし
日本はときどき大規模地震が起こる国なので、開発してくれるといいのにな~、とか思います